- 著者
-
荻野 富士夫
- 出版者
- 小樽商科大学
- 雑誌
- 基盤研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 2017-04-01
本課題で明らかにすることは、十五年戦争以前の植民地統治における各「治安体制」の構築を前史に、「東亜新秩序」から「大東亜新秩序」への膨張のなかで、憲兵・警察・司法を基軸とする「治安体制」の形成・運用過程を追跡することである。「東亜新秩序」から「大東亜新秩序」=「大東亜共栄圏」への創出を下支えし、日本の植民地統治・帝国統治の保守・防護・膨脹を強権的に担ったのが、「東亜治安体制」、そして「大東亜治安体制」であるという仮説の検証を目的とする。その際、国内および植民地の「治安体制」では特高警察・思想検察・思想憲兵などが相互に協調・競合しつつ、最終的に戦争遂行体制の構築に突き進み、それぞれが官僚群としての優秀性を示して全体として「治安体制」をつくりあげた。一方、「大東亜治安体制」の場合、軍を背景とする憲兵が主導権を握ったと考えられる。この課題遂行にあたり、まず日本国内・植民地および占領地における憲兵の治安機能について検証し、3月刊行の『日本憲兵史』としてまとめた。とりわけ「満洲国」および中国・東南アジアの占領地域における野戦憲兵としての特質に注目したが、台湾・朝鮮における憲兵統治の実態については先行研究に依拠することになったため、今後、本課題に即して検討を加えなければならない。また、6月刊の『よみがえる戦時体制』(集英社新書)において、戦前治安体制全般の総括をおこなった。一九二〇年代に浮上した総力戦構想が満洲事変を契機に本格的な実行段階に入り、日中全面戦争への突とともに加速し、一九三八年の国家総動員法の成立、四〇年の大政翼賛会の成立、四一年の国民学校令の制定と治安維持法の「改正」などを指標に、対米英戦争を前に「戦時体制」の確立をみたといえる。これらのほかに、第1年度は軍政関係の基本的な文献史料の収集に努めた。