著者
荻野 昭一
出版者
北海道大学大学院経済学研究科
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.207-227, 2014-01-24

平成25年金融商品取引法改正の中に,昭和63年に制定されたインサイダー取引規制の基本的構成を大きく変換させる改正が含まれている。すなわち,インサイダー取引規制とは,上場会社等の役員等の特別の立場にある者が,重要事実等を知った場合において,これが公表される前に所定の有価証券の取引を行うことを規制しているものである。これまで,情報受領者によるインサイダー取引を助長・誘発する可能性のある情報伝達行為については,禁止の対象とはされてこなかったところ,改正法は,情報伝達行為及び取引推奨行為を規制の直接の対象としたところに大きな意義が認められる。そして,これまでの形式的な規制体系によって構成要件の客観化・明確化という重要な特徴を有していたインサイダー取引規制体系に,新たに主観的な要件や抽象的な概念が加わることとなった。本稿は,金融審議会報告書の内容に照らしつつ,従来のインサイダー取引規制の基本的構成を大きく変換させることとなる情報伝達・取引推奨規制について,その構成要件を詳解した後,論点を抽出して考察を試みたものである。
著者
荻野 昭一
出版者
北海道大学大学院経済学研究科
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.7-28, 2012-07-12

インサイダー取引が規制されている趣旨は, 証券市場に対する投資者の信頼性の確保と市場機能の維持にある。近年, インサイダー取引規制に係る決定事実の解釈について2件の重要な最高裁判例がみられた。一連の審級の中で最大の論点となったのは, 決定事実について法令所定の「決定」があったと判断されるためには, 事実の実現可能性の高低の程度がどのように関係するかといった解釈問題である。議論の本質には, 規制体系の趣旨を重視して形成的解釈をとる論旨と, 規制の趣旨を重視して実質的解釈をとる論旨の主張が交錯し, 今日においてもなお論理的な対立を招いている。そもそも, 論点となってきた「実現可能性」などという条文に存在しない考慮要素が問題となっていることの本質はどこにあるのか。最高裁決定の考え方の背景にある形式的な規制体系を重視し, それが投資判断に対する個々具体的な影響の有無程度を問わない趣旨であると解することが, はたしてインサイダー取引規制の趣旨に適っているのかという問題について整理をし, 現実問題として決定事実に該当するか否かの判断基準としてどのような考慮要素が必要かについての考察を試みたものである。