著者
大石 如香 菅井 努
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.123-133, 2021 (Released:2021-05-19)
参考文献数
29

左側頭葉病巣により健忘失語を呈した2例における二方向性失名辞の呼称の特徴とメカニズムについて検討した.症例1は53歳右利き女性.左側頭葉神経膠腫と診断され,左側頭葉前方を切除した.症例2は70歳右利き女性.左側頭-頭頂葉に脳出血を認めた.2例ともに流暢な発話と良好な復唱,自発話における失名辞,高頻度に見られる空語句や迂言,低頻度語における聴理解障害から二方向性の健忘失語と考えられた.2例に共通する失名辞の特徴として,(1)失名辞を呈した語に対し,名称を聞いても再認できない,(2)語頭音呈示により音韻的類似語が誘発される,(3)語頭音効果が乏しいといった症状が見られた.語彙理解に関する検討では,名詞の聴覚的理解や類似性判断等の言語-言語性課題の成績が低下していた.2例に見られた失名辞の背景として語彙理解障害が語彙選択障害の基盤になっている可能性が示唆された.