- 著者
-
菅原 利夫
三島 克章
植野 高章
南 克浩
森 悦秀
- 出版者
- 岡山大学
- 雑誌
- 基盤研究(B)
- 巻号頁・発行日
- 1996
身体各部の関節は加齢や種々の疾患により形態と機能が低下するため、人工関節による置換術によってその回復が行われている。しかしながら日本のおいては現在まで人工関節が開発されておらず、顎関節の構造的喪失による種々の障害に対しては有効な治療法がなかった。私達研究グループはヒト顎関節の形態計測、咀嚼時に顎関節に負荷すると考えられる力学的要件や運動性を基礎的に検討し日本で初めての臨床応用できる菅原式人工顎関節を試作し、臨床応用を行ってきた。私達研究グループは人工顎関節を開発する目的で、解剖実習用屍体、ヒト乾燥頭蓋骨の顎関節を三次元精密計測装置を用いた実例計測やCT三次元再構築画像からの立体計測を行った。またこれら形態計測から得られた関節頭と下顎窩の表面形状から咀嚼時に負荷すると考えられる荷重をHetzの理論式や三次元有限要素法を用いて解析して、人工顎関節の生体材料を選択し、形状をデザインして菅原式人工顎関節を試作した。臨床応用は主として慢性関節リウマチ(RA)の変形性顎関節炎により、下顎骨が後退し、咬合の異常による咀嚼障害と気道の狭窄あるいは閉塞による睡眠時無呼吸症候群をおこした患者であり、菅原式人工顎関節全置換術を行い、咀嚼機能については食物粉砕実験、顎関節の動きについては超音波画像、X線シネマグラフ、および顎運動の計測を行った。その結果、個々の患者間に相違が見られるものの吸収の起きた下顎頭を中心とした蝶番運動が主体をなし、滑走運動および側方運動はほとんど観察されず、健常人とは異なる顎運動が観察された。節電図での計測では、健常者に比べ術前の咬筋、側頭筋の筋活動は弱く、術直後は更に弱まり、術後の咬合位に開閉口筋が適応するためには数ヶ月の開口訓練の必要性が認められた。また、下顎骨の前方移動に伴い、気道腔が確保され、呼吸障害が解消され、発生機能も向上する傾向がみられた。これらの結果を基にし、更に機能性が高く安全な人工顎関節を開発するため人工顎関節のデザインを改良し、人工顎関節を開発してきた。また、この人工顎関節を作る過程で私達が開発したCT三次元再構築画像計測・評価システム、接触型および非接触型高精度三次元計測・評価システム、重ね合わせ評価法、曲面および球面定量評価法などの新しい研究法は口腔、顎、顔面、口蓋等の微細な発育様式や発育方向などが定量的に測定評価できるようになり、他の領域の研究にも貢献し、1997年第8回国際口蓋裂学会(Iutennational Congress on cleft Palate and Related,Craniofacial Anomalies)のOwen Cole記念賞の受賞に連った。