著者
菅沼 真也子
出版者
日本比較法研究所 ; [1951]-
雑誌
比較法雑誌 (ISSN:00104116)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.297-312, 2013

アルコールを摂取した状態でのナイフでの激しい刺突という、極度に危険な暴力行為によって被害者の生命を危険にさらした事案について、LGが、「阻止閾の理論」を用いて、危険な傷害の故意を肯定したのに対して、BGHがこの結論を否定して殺人の故意を肯定した事例。ここでBGHは、LGが、殺人の故意の認定の際に検討すべき「客観的及び主観的全事情の全体的考察」を欠いていることを指摘し、さらに「阻止閾の理論」について、「殺人の未必の故意の推定ないし否定を導く証拠評価が、阻止閾の根本的前提を持ち出すことなく上告審で検討される場合でも、法的な要求は変わらない」こと、ならびに、阻止閾の理論は自由心証主義(StPO261条)で考慮し尽くされていることを示したため、本判決は、事実上の阻止閾の理論の放棄とも評価されうる事案である。