著者
石田 若菜
出版者
日本比較法研究所 ; [1951]-
雑誌
比較法雑誌 (ISSN:00104116)
巻号頁・発行日
vol.46, no.3, pp.313-337, 2012

本稿が検討する婚姻防衛法は、合衆国の連邦法にいう婚姻の定義を「夫と妻としての一人の男性と一人の女性の間の法的結合のみ」に限定することで同姓婚を認める州や国で有効に婚姻した同姓婚夫婦に対し連邦法上の婚姻に伴う利益を否定する効果を持つ法律である。制定当初から合衆国憲法違反の疑いを持たれてきた同法は、2010年以降、複数の連邦裁判所によって第5修正のデュープロセス条項に含まれる平等保護条項に反すると判示されるようになった。婚姻防衛法の正当化根拠である、ⅰ)「責任ある生殖と出産の促進」、ⅱ)「伝統的な異性婚制度の防衛および促進」、ⅲ)「伝統的道徳観念の防衛」、ⅳ)「十分ではない政府資源の保持」のすべてが、婚姻防衛法の効果と合理的にあるいは実質的に関連しないと判断されたためである。本稿は、この婚姻防衛法を違憲とした近時の連邦裁判所の判決から同性婚と異性婚における法的保護の平等について考察し、最終的に、それら判決の中で、婚姻の目的が生殖を含む共同生活から共同生活そのものに変容していると評価されていることを主張するものである。
著者
棚瀬 孝雄
出版者
日本比較法研究所 ; [1951]-
雑誌
比較法雑誌 (ISSN:00104116)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.119-165, 2015

現在,日本企業の海外進出は加速しているが,様々な法務リスクを抱えることが少なくない。とくに,インドは日本の法制と異質な面が多く,しかも,政府や国民も法を利用し,訴追を行うことに積極的であるために,法務や税務面で深刻な争いが生じている。 本稿は,この法務リスクという観点から,インドの労働法制を対象に,比較法的に見た特徴を明らかにしようとするものである。 比較法的視点には,対象となる法を日本法との比較で異同に注意しながら把握するという狭義の比較分析と,その法を社会の中に埋め込まれたものとして理解する機能分析との二つの視点があるが,現在,グローバル市場の影響力が圧倒的に強まる中で,市場の論理から,労働の柔軟化と規律を求める企業と,インドの歴史的な経緯からくる保護主義的,介入的な政治との葛藤が,労働法の作り方,及びその実際の運用を規定している。 取り上げるのは,解雇と争議の法制であるが,一般の解雇は,事業閉鎖の場合も含めて,従業員100人以上の職場では州政府の許可が必要とされており,柔軟な雇用調整を阻害するものとして,産業界からは強い批判を浴びている。ただ,子細に見ると,最初の法案が,最高裁で,濫用的な解雇を阻止するという,正当な目的を超えて経営者の営業の自由を過剰に制約するとして違憲とされて改正された現行法では,手続き的な歯止めも掛けられ,実体面では,日本の整理解雇の法理のような作りとなっている。むしろ,問題は,インドの行政の透明性や効率性がないところで,解雇を政府の許可にかからしめたことにある。また,必要な雇用の柔軟性を得るために労働の非正規化が進み,それが,社会保障が弱いところで,雇用不安や待遇の不満を生み,労使関係の安定を損なっていることも問題として出てきている。 懲戒解雇に関しては,職場の規律違反に対し,労働者を使用者の判断で即時に解雇できるが,一定の社内での事前調査や,書面通知などの手続き規制がある他,日本の解雇権濫用法理に似た規制があり,事後的な救済も一定程度機能している。しかし,懲戒の根拠となる就業規則に,内容的にも,作成手続きにも強く行政が関与し,かつ,その内容が争議行為に絡むものが多く,争議の際に,使用者から参加者に懲戒解雇が乱発される原因ともなっている。また,解雇権の濫用が,インドでは,使用者の不当労働行為として規定され,刑罰が科される作りになっているため,不法とされる懲戒から,争議へと展開していくことも多い。 組合の結成では,インドの場合,団結権は認められ,その干渉を不当労働行為として保護もしているが,しかし,結成された組合には,自動的に団体交渉権は認められず,使用者に自らの力で組合を交渉相手として認めさせる必要があり,最初から,争議含みとなっている。また,刑事免責も,組合が登録されてはじめて認められ,しかも,登録に3ヶ月から1年以上もかかるため,その間は争議行為が事実上行えない。この組合結成の困難は,使用者の組合選別の要求から維持されており,実際の争議も,組合結成と,その使用者の拒否をめぐって行われることが多い。背景には,使用者から見た過激な,共産党系の組合が未だ勢力が強く,日系企業などでは,とくに労使一体の日本的な労務管理を労働生産性向上の鍵と考えていて,この組合結成で大規模な争議になることもある。 争議行為についても,インドの場合,争議抑制のための政府の関与がかなり大きく認められている。まず,争議にあたり2週間前の予告を義務づけ,また,斡旋など手続き期間中は争議が禁止される。さらに,政府がスト中止を命じることができる。こうした労働者の争議権を奪うかのような介入は,すべて公益的な観点で正当化されるが,しかし,それで多くの争議は抑制される反面,インドでは,争議件数では,日本の11倍,労働喪失日数では,実に780倍もの争議が起きている。それゆえにこそ,争議抑制的な労働法も必要となるのであるが,逆に,そうして違法争議の烙印が押されることで,懲戒解雇が大量に出され,警察による逮捕もあって,争議がいっそう過激化するという悪循環に陥っている面もある。 これまで,インド労働法について,表面的な規定の解説はあったが,本稿のような背景にまで踏み込み,規定も細部まで検討して,全体的な特徴を明らかにする研究はなく,インドに進出する日本企業はもちろん,比較法的な観点から,現在のグローバル市場の元での新興国の労働法を理解する理論的な関心にも答えるような分析になっている。
著者
趙 輝 李 蘭
出版者
日本比較法研究所 ; [1951]-
雑誌
比較法雑誌 (ISSN:00104116)
巻号頁・発行日
vol.47, no.4, pp.67-99, 2014

本稿は,日本の共謀共同正犯概念の中国刑法への導入の必要性について検討したものである。中国刑法への共謀共同正犯概念とその理論の導入について,一部の研究者はその必要性を提唱しているが,筆者は,共謀共同正犯理論について多いに学ぶものがあることは認識しつつも,この概念を直ちに中国刑法理論に導入することについては,躊躇を覚えるものである。 日本の共謀共同正犯の理論については,いかに共犯規定に沿った形で再構成し,実行行為概念の明確性を担保するかが課題であると思われるが,一方,中国刑法の組織犯及び理論は,刑法の規定及び基本理論に根本的に矛盾しているとはいえないのではなかろうか。また,組織犯は,共同犯罪において支配的地位にある非実行行為犯の刑事責任を合理的に追及することができると思われる。 しかし,共謀共同正犯の理論と比較して,中国の組織犯の理論には二つの問題点があると思われる。すなわち①組織犯の成立を犯罪集団の中に限定していること,②組織犯の処罰の理論根拠が不明確であること,である。そこで本稿は,共謀共同正犯及び理論の理論的な長所を受け入れ,その理論及び見解を参考にしつつ,中国刑法の組織犯において,その成立範囲を拡大すること,処罰の理論根拠を,共同犯罪の中に占める組織犯の支配的地位に置くことによって,立法及び理論の改善を図ることを提案するものである。
著者
ポッシャー ラルフ 松原 光宏 土屋 武
出版者
日本比較法研究所 ; [1951]-
雑誌
比較法雑誌 (ISSN:00104116)
巻号頁・発行日
vol.46, no.4, pp.115-136, 2013

人間の尊厳の絶対性をめぐっては,とくに9.11テロ以後,議論が再燃している。人間の尊厳の保障の相対化可能性を明示的に認める者もあらわれている。 ポッシャーは,本論文において,人間の尊厳が法ドグマーティクにおいて絶対性をもつものとされることは,法ドグマーティクの内的視点のレベルの目的合理性判断では説明できるものではないとし,社会学(法社会学)を手がかりに,この点に検討を加える。そして,①人間の尊厳は単なる禁止を超えたタブーとしての性格を持ち,そもそもそれを主題化することも禁止され,これに触れる行為については目的合理性に基づく衡量には服しない,②人間の尊厳の相対化を認めると,その例外がインフレ化することから,人間の尊厳の侵害を法的なタブーとし,その違反に制裁を科すことで, 「悲劇的選択」の濫用を防ぐ,③それでもなお人間の尊厳を侵害しなければならない極めて例外的ケースも理論上は存在するがその場合は法的制裁を受ける覚悟のもとで,個人の倫理的責任によりタブー破りが行われる,そして,社会は「悲劇的選択」の処理からわかるように,法と倫理の構造的カップリングが対抗的な形で行われることになる,ことなどを指摘する。
著者
菅沼 真也子
出版者
日本比較法研究所 ; [1951]-
雑誌
比較法雑誌 (ISSN:00104116)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.297-312, 2013

アルコールを摂取した状態でのナイフでの激しい刺突という、極度に危険な暴力行為によって被害者の生命を危険にさらした事案について、LGが、「阻止閾の理論」を用いて、危険な傷害の故意を肯定したのに対して、BGHがこの結論を否定して殺人の故意を肯定した事例。ここでBGHは、LGが、殺人の故意の認定の際に検討すべき「客観的及び主観的全事情の全体的考察」を欠いていることを指摘し、さらに「阻止閾の理論」について、「殺人の未必の故意の推定ないし否定を導く証拠評価が、阻止閾の根本的前提を持ち出すことなく上告審で検討される場合でも、法的な要求は変わらない」こと、ならびに、阻止閾の理論は自由心証主義(StPO261条)で考慮し尽くされていることを示したため、本判決は、事実上の阻止閾の理論の放棄とも評価されうる事案である。
著者
隅田 陽介
出版者
日本比較法研究所 ; [1951]-
雑誌
比較法雑誌 (ISSN:00104116)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.129-162, 2017

本稿は,前号に引き続いて,近時,アメリカ合衆国で議論されている,児童に対する性的いたずらに関する証拠のみで児童ポルノ所持に関する捜索令状の「相当な理由」を構成するのかどうかについて検討したものの後半部分である。 本号では,まず,三において,児童に対する性的いたずらと児童ポルノ所持との関係に関する調査研究等に触れた。例えば,Andres E. Hernandezが,ノースカロライナ州Butnerの連邦矯正施設に収容されている90人の男子受刑者を対象として行った調査等である。こうした調査研究については,それぞれについて調査対象者が限定されているといった問題点が指摘されていることに注意する必要があるが,両者の間には関係があるとするものもあれば,逆に,関係はないとするものもあるなど,結論は一致していない,そして,各調査研究に対する評価の仕方も区々となっていることを指摘した。 最後に,四において,若干の検討を行い,現在の合衆国の捜査実務がIllinois v. Gatesに基づいた「諸事情の総合判断(totality of the circumstances)」テストによっているのであれば,これを前提とする限り,第8巡回区連邦控訴裁判所によるUnited States v. Colbertのように,児童に対する性的いたずらに関する証拠が児童ポルノ捜索のための「相当な理由」に該当すると評価することも許されるのではないかということを結論とした。その上で,このように賛否の分かれる問題については様々な角度から検討しておくことが望ましいと考えられることから,例えば,児童ポルノのような児童に対する性的搾取事案に限定して「緩和された相当な理由(expanded probable cause)」, あるいは,「拡大された相当な理由(broadened probable cause)」といった基準を適用すべきであるというような考え方があることにも触れた。
著者
キリアン マティアス 春日川 路子
出版者
日本比較法研究所 ; [1951]-
雑誌
比較法雑誌 (ISSN:00104116)
巻号頁・発行日
vol.49, no.4, pp.127-135, 2016

ドイツでは近年,弁護士についてさまざまな都市伝説が流布されている。その一つに,弁護士職は「最後の逃げ道」である,裁判官や検察官,公証人などといった,一番に目標とする法律専門職に就くことができなかった人間が不本意ながら弁護士になっている,との噂がある。このような弁護士は「必然弁護士(Muss-Anwälte)」と呼ばれ,これを主要なテーマにした本も出版されている。だが,果たして噂は本当なのだろうか? ドイツの若手弁護士は,その多くが「しかたなく」弁護士職に就いているのだろうか? 筆者のマティアス・キリアン教授(ゾルダン研究所代表,ケルン大学)は,弁護士認可を受けたばかりの若手弁護士を対象とする聞き取り調査の結果から,この都市伝説は誤りであると結論づける。それに止まらず,若手弁護士のほとんどが望んで弁護士職に就いていること,ならびに,過去の類似の調査結果と比較すると,現在は弁護士こそが若手弁護士にとっての理想の職業であることを明らかにする。
著者
シマモンティ シルヴィ 小木曽 綾
出版者
日本比較法研究所 ; [1951]-
雑誌
比較法雑誌 (ISSN:00104116)
巻号頁・発行日
vol.46, no.4, pp.75-81,83-113, 2013

フランスでは, 2011年8月10日法律(以下法という)により,参審制の拡大と,重罪判決への理由付記の義務づけが定められた。法は重罪院での参審員数を減じ,裁判1件当たりの参審員の人数を減らすことで制度拡大に必要となる参審員を増やそうとしているが,その結果,従来は,参審員の数が職業裁判官を上回っていなければ有罪評決ができなかったものが,職業裁判官と参審員同数でよいこととなった。これが市民の刑事裁判参加という理念と一致するかは疑問である。法は軽罪に参審員関与の範囲を拡大し,その権限は一部の成人軽罪の事実認定と量刑,それに少年事件のそれに及ぶ。軽罪参審員制度は,成人の裁判については, 2014年1月までの試行(2012年1月からToulouseおよびDijon,2013年から他の10の控訴院管轄区内)を経て2014年から施行されることとされているが,少年裁判についてはすでに2012年1月から施行されている。軽罪裁判所は, 3人の職業裁判官と2人の参審員で構成され,その裁判に対する上訴審も同様に構成される。対象事件は,個人法益に対する罪のうち5年以上の収監刑が法定されているもの(重過失致死,傷害,性犯罪,薬物所持・譲渡等),強盗, 5年以上の収監刑が科される個人の身体に危険を及ぼす放火等による器物損壊であって,財産犯は対象とされておらず,社会ないしは有権者の関心が高いものに限定されている。重罪院では,参審員は事実認定と刑の量定のみに関与するのに対して,軽罪参審員は刑の執行にも関与する。2004年以来フランスには刑の執行裁判所があり,仮釈放の決定等の判断を担っているが,軽罪参審員はここにも参加する。これは,受刑者の釈放時期という社会の関心の高い事項に市民を参加させようとの立法趣旨によるものである。また,従来,少年裁判所の陪席裁判官は,法務大臣が少年問題に造詣のある30歳以上の民間人の中から4年任期で任命することとされてきたが, 2012年1月から,二つの少年軽罪裁判所が創設された。一つは,罪を犯す時16歳以上18歳以下の,3年以上の収監刑が科される罪で起訴された累犯少年を扱う職業裁判官のみで構成される裁判所である。この裁判所では,少年係裁判官が裁判長を務め,保護処分のほか刑罰を言い渡すことができる。いま一つは,成人の軽罪裁判所と同様の構成(ただし裁判長は少年係裁判官)と事物管轄をもつ少年軽罪裁判所である。 軽罪参審員制度には,当初3,270万ユーロ,次いで毎年840万ユーロが必要とされており,国家の財政状況に照らして決して軽微な支出とはいえないことから,現在の2裁判所での試行が10裁判所に拡大されるか,さらには全国施行に至るかは予断を許さないところである。 証拠の証明力の判断については,自由心証主義が採用されており.証明程度は事実認定者が「内心で確信する」程度とされている。無論,裁判官の心証は法廷に提出された証拠によらなければならないが,軽罪に関しては裁判に理由を付すことが求められてきたものの,伝統的に重罪院の裁判には理由が付されてこなかった。今般,法12条はこれを改め,評決に理由を付すことを求めたが,これは2009年から2011年にかけての判例と立法の変化の帰結である。 法の施行以来数カ月での評価は尚早ではあるが,この制度改革の一つの柱,すなわち,重罪裁判への理由付記は透明性ある刑事裁判実現のための必然である。軽罪参審員については,軽罪への厳罰対処という前提が崩れているほか(参審員が加わった裁判で以前より刑が重くなったという事実は示されていない),訴訟が遅滞していることが4か月の試行で明らかであって,制度の経済的および手続的代償はきわめて大きく,完全施行に至るかどうかは,定かではない。
著者
鈴木 一義
出版者
日本比較法研究所 ; [1951]-
雑誌
比較法雑誌 (ISSN:00104116)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.145-185, 2013

犯罪が増加し、処理すべき事案が増大すると、法執行機関は、被告人と協議し、刑事事件を迅速に終結させることによって裁判所の負担を軽減しようとする。アメリカ合衆国においては、大多数の刑事事件で有罪答弁によって迅速に科刑が行われているが、大陸法系諸国においても、答弁取引類似の制度が導入されており、アメリカ合衆国の影響はあるけれども、その度合いは各国毎に異なっていると指摘されている。かかる各国毎の差異は、当該国において、いわゆる「司法取引」というものに対して如何なるメリットが求められているかを反映したものと評することも可能であろう。この点、例えば、国際刑事裁判所(ICC)においては、有罪であることを認める被告人に対して、コモンロー・英米法系と大陸法系モデルの中間的なアプローチを採用していると指摘されているが、国際刑事裁判が各国内の刑事裁判とは異なる特色を有している以上、そこにおいて求められる有罪答弁についてのメリットというものも一定の特色を持ったものになることが予想されよう。本稿では、かかる関心から、国際刑事裁判における有罪答弁は、アメリカ合衆国に典型的に見られるような有罪答弁とどこが違うのか、違うならば何故なのかといった論点について検討を試みることにより、我が国が仮に有罪答弁・答弁取引を導入するとすれば、どのような点に力点を置くべきなのかという課題に示唆が得られないかを探りたい。本「国際刑事裁判における司法取引(2)」では、3においてICTY(旧ユーゴスラヴィア国際刑事裁判所)、4においてICTR(ルワンダ国際刑事裁判所)における司法取引に相当すると言える手続について検討を加える。
著者
朴 承斗
出版者
日本比較法研究所 ; [1951]-
雑誌
比較法雑誌 (ISSN:00104116)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.341-361, 2016

企業が会社更生手続を開始した場合,裁判所から選任された更生管財人が経営悪化を理由として労働者を解雇できるのか,そしてそれが可能であるとした場合,その法的根拠が問題となる。整理解雇については,労働法上の解雇権濫用〔労働契約法16条〕の適用を受けるほか,会社更生法上の双方未履行規定の適用との関係も問題となる。 会社更生法上,裁判所から認可を受けた更生計画は確定判決と同一の効力を有するところ,本稿では,更生計画において人員削減を規定した場合,とりわけ年齢を基準とする人選基準の憲法適合性が論じられている。
著者
髙良 幸哉
出版者
日本比較法研究所 ; [1951]-
雑誌
比較法雑誌 (ISSN:00104116)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.119-130, 2014

本稿は,StGB176条4項1号の構成要件が, 行為者と被害者である児童が直接に空間的に接近しておらず,インターネットを介して露出行為を行った場合であっても,充足されるとした事案の検討である。 StGB176条4項1号は児童の「前で(vor) 」性的行為を行うことを規定しているが,ここにいう "vor" の概念については,行為者と被害者である児童の直接空間的な接近が重要なのではなく,当該行為を児童が知覚することが重要である,とすることが従来の判例の立場である。 本件は,インターネットのライブ映像配信システムによって,性的行為を中継する場合においてもこの立場が維持されることを示したものである。 本稿は,本件の検討を行い,かかる検討を通じ, 我が国におけるインターネットを介した児童に対する性的虐待と公然わいせつ型事案についても若干の検討を加えるものである。
著者
ポッシャー ラルフ 松原 光宏 土屋 武
出版者
日本比較法研究所 ; [1951]-
雑誌
比較法雑誌 (ISSN:00104116)
巻号頁・発行日
vol.46, no.4, pp.115-136, 2013

人間の尊厳の絶対性をめぐっては,とくに9.11テロ以後,議論が再燃している。人間の尊厳の保障の相対化可能性を明示的に認める者もあらわれている。 ポッシャーは,本論文において,人間の尊厳が法ドグマーティクにおいて絶対性をもつものとされることは,法ドグマーティクの内的視点のレベルの目的合理性判断では説明できるものではないとし,社会学(法社会学)を手がかりに,この点に検討を加える。そして,①人間の尊厳は単なる禁止を超えたタブーとしての性格を持ち,そもそもそれを主題化することも禁止され,これに触れる行為については目的合理性に基づく衡量には服しない,②人間の尊厳の相対化を認めると,その例外がインフレ化することから,人間の尊厳の侵害を法的なタブーとし,その違反に制裁を科すことで, 「悲劇的選択」の濫用を防ぐ,③それでもなお人間の尊厳を侵害しなければならない極めて例外的ケースも理論上は存在するがその場合は法的制裁を受ける覚悟のもとで,個人の倫理的責任によりタブー破りが行われる,そして,社会は「悲劇的選択」の処理からわかるように,法と倫理の構造的カップリングが対抗的な形で行われることになる,ことなどを指摘する。