著者
菅野 絢子
出版者
文化女子大学
雑誌
文化女子大学紀要. 服装学・造形学研究
巻号頁・発行日
vol.37, pp.67-76, 2006-01-31

『万葉集』には多種多様の服飾に関する語が歌われ,当時の服飾の有り様を現在に伝えている。また,歌の作者の身分は天皇・貴族のような上級階級者から,防人・乞食に至る下級階級者にまで及び,その点で生活に即した歌が多く詠まれている。そのため,歌と同時期に記された公的記録である『日本書紀』や『続日本紀』にはほとんど記されていない,日常生活や庶民に関する内容を補うことができる。服飾には,身に着けたり贈り交わすことで表現されていた精神面での役割や隠された意味があったと考え,『万葉集』を主要資料に用い,7・8世紀の人々の精神文化に注目した。歌中で何らかの意味を持つ衣,袖,紐・帯,装身具,領巾の5項目に関する歌343首を選出し,歌種や詠まれた時代による傾向と,歌中での語の用いられ方を読み取った。そこで見られた特色と,『古事記』・『日本書紀』・『続日本記』からの検出事例と照合した。服飾が表現していた役割や隠された意味について,男女間に関する事柄と神事・信仰に関する事柄の2つの事例を見出すことが出来た。