著者
田中 里尚
出版者
文化女子大学
雑誌
文化女子大学紀要 服装学・造形学研究 (ISSN:13461869)
巻号頁・発行日
vol.42, pp.31-38, 2011-01

本研究は,Angela McRobbieが行った『Jackie』の分析視角を『CanCam』に適用した試論である。1982年1月に創刊された『CanCam』(小学館)は,現在のイメージとは相反して大学生活をエンターテインメント化し,その架空の舞台を通じて,ファッションや恋愛の情報を提供する雑誌であった。ところが,80年代の好景気と雇用機会均等法の施行という背景を受けて,徐々に誌面の中での高級化が進行した。高級化とは単に情報として提示される服の価格の上昇ということではない。すなわち,服を用いて表現されるアイデンティティにステータス意識を持ち込むことによって,創刊当初の大学生活の舞台とファッションが犠牲になり,ステータス意識のある女性像が構築された。その結果,誌面にはブランドを推奨する記事があふれた。それは単にブランド好きということではなく,ステータス意識をもつ女性像に必要なものとして提示され,正当化をほどこされている。また,異性目線によって作られていたファッション記事は,ステータス意識を持つ女性が語る「自分らしさ」という言葉に代表されるように,自分あるいは同性の目線で作られる記事へと変容した。
著者
田口 良司
出版者
文化女子大学
雑誌
文化女子大学紀要 人文・社会科学研究 (ISSN:09197796)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.89-103, 2004-01

本稿では, 日本社会の供儀的構造とはどのようなものかを探求する中で, 柳田國男が指摘していた生贄としての鹿の問題を取り上げようとした。柳田は, 東北の鹿踊には遠い過去の生贄の記憶があるという。もしそうなら東北の鹿踊の供儀的性質を検討する必要があるだろう。ここでは彼の仮説を関東に多数存在する獅子舞との関連で検討する。獅子舞と鹿踊は同系統の芸能とされているからである。従来, 獅子舞がこのような観点から考察されたことはなかったが,獅子舞に見られる悪魔払い的性質と鹿踊りの儀礼的構成を比較検討することで, 本稿は, 日本的供儀儀礼の性質と機能を明らかにしようとする一連の試みの一つとなるだろう。柳田は, 獅子舞と悪魔払いを結びつけることに反対しているが, 獅子舞の「牝獅子隠し」の舞の供儀儀礼的側面を検討することによって一般的な「悪魔祓い」の儀礼的意味とは異なり「牝獅子隠しの舞」の儀礼的意味が必ずしも「悪鬼」を遠ざけることだけを意味していないことを論じた。また鹿踊では供儀的側面を鹿踊供養塔および「仏供養」の儀礼から検討した。鹿踊には鹿頭が仏供養を行う儀礼が存在するが, 獅子舞ではこのような儀礼は極めてまれであり, 獅子踊本来の儀礼からは逸脱した儀礼である。獅子踊には死者とかかわる儀礼が極めて希薄であるのに対して, 鹿踊には死者を「供養」する儀礼が存在しそれはまた鹿踊の重要な儀礼的機能の一つになっている。それにもかかわらず, 鹿踊には死者の霊と直接かかわるような踊は見られない。死者の位牌の前で供養する鹿頭そのものが死者の霊への供物と見られなくもないが, 少なくともユベール,モースの「供儀の図式」から見て, 鹿踊には獅子舞のような供儀的儀礼の側面は希薄であるように思える。他方, 獅子舞はさまざまな供儀的観念の要素が絡み合い, セム族的「供儀の図式」を再考する糸口が示唆されていることが理解できた。
著者
中沢 志保
出版者
文化女子大学
雑誌
文化女子大学紀要. 人文・社会科学研究 (ISSN:09197796)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.51-63, 2007-01-31

原爆投下をめぐる問題は,戦後60年余りが経過した現在においてもなお,歴史家や国際政治学者などの重要な研究対象となっている。また,アメリカ国内の状況に注目すると,この問題の理解において,アメリカ政府および一般世論と研究者との間に大きな隔たりが存在することが分かる。アメリカの政府や国民の多くは「原爆投下は戦争を早期に終結させるために導入された正当な手段だった」と主張する。これがいわゆる公式解釈と称される立場である。これに対して,それぞれの研究視点からこの公式解釈を批判し再検討するのが研究者の立場である。本稿は,公式解釈の形成に多大な貢献を果たしたと言われるヘンリー・スティムソン(原爆投下時の陸軍長官)の論文と回顧録の内容を考察するものである。公式解釈に対する批判から出発したはずの原爆投下決定に関するこれまでの研究を吟味すると,これらの先行研究がスティムソンの論文ないし回顧録を十分に考察しきれていないことに気づくからである。この論文と回顧録を再検討することにより,公式解釈の前提,およびその後の諸研究の基盤を検証しなおすことができると考える。
著者
中沢 志保
出版者
文化女子大学
雑誌
文化女子大学紀要 人文・社会科学研究 (ISSN:09197796)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.29-45, 2011-01

本稿は, 20世紀前半期のアメリカにおいて主要な対外政策の立案と決定に関与したヘンリー・スティムソン(Henry L. Stimson)を引き続き考察するものである。本稿では特に, 柳条湖事件に始まる日本の中国への侵略に対してアメリカがどう対応しようとしたかを検討する。具体的には, 第一次世界大戦後の国際秩序が崩壊していく1930年代初頭において, 日本の軍事行動に対し, 「スティムソン・ドクトリン」という形で「倫理的制裁」を課そうとしたスティムソンの外交を分析する。
著者
中沢 志保
出版者
文化女子大学
雑誌
文化女子大学紀要 人文・社会科学研究 (ISSN:09197796)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.51-63, 2007-01

原爆投下をめぐる問題は,戦後60年余りが経過した現在においてもなお,歴史家や国際政治学者などの重要な研究対象となっている。また,アメリカ国内の状況に注目すると,この問題の理解において,アメリカ政府および一般世論と研究者との間に大きな隔たりが存在することが分かる。アメリカの政府や国民の多くは「原爆投下は戦争を早期に終結させるために導入された正当な手段だった」と主張する。これがいわゆる公式解釈と称される立場である。これに対して,それぞれの研究視点からこの公式解釈を批判し再検討するのが研究者の立場である。本稿は,公式解釈の形成に多大な貢献を果たしたと言われるヘンリー・スティムソン(原爆投下時の陸軍長官)の論文と回顧録の内容を考察するものである。公式解釈に対する批判から出発したはずの原爆投下決定に関するこれまでの研究を吟味すると,これらの先行研究がスティムソンの論文ないし回顧録を十分に考察しきれていないことに気づくからである。この論文と回顧録を再検討することにより,公式解釈の前提,およびその後の諸研究の基盤を検証しなおすことができると考える。
著者
水原 寿里
出版者
文化女子大学
雑誌
文化女子大学紀要. 人文・社会科学研究 (ISSN:09197796)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.71-85, 2000-01-31

人間はその長い歴史の流れの中で, 文化や文明を発展させたが, 言葉の表現においても時代とともに変遷が見られる。社会全体が豊かになると, 言葉の表現も豊かになり, 同時に単語の窓味も多様性を帯びてくる。表の意味と裏の意味, また喩えなどにその豊かさが現れてくる。本稿の図的は, 長い歴史の潮流の中で, 文化的・政治的・社会的・宗教的な言語要因により「色」に対する中国語の用語用例がどう変遷したかを考察することにある。中国は国土が広いため, 各地域の風土・風俗習慣, また民族性などの特色が, 色彩の特色ともなって現れる。色の解釈によって, 中国語に含まれるニュアンスを正しく理解し, それを正確に使用したり, また各地域を一層よく理解したりするために, 色の言語用例に基づいて, その表層の意味(陽としての, 賛美し褒め称えるニュアンス) と,深層の慈味(陰としての, 皮肉・非難咎めのニュアンス) の二面から考察する。
著者
永井 伸夫 佐伯 由香
出版者
文化女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

本研究の目的は,足浴操作が免疫機能および自律神経機能におよぼす効果を明らかにし,身体への効果を総合的に検討することである。健康な20歳前後の女子学生(21〜24歳)を対象者として,足浴操作は椅座位にて42℃の湯に足を浸けて10分間行うことを基本とし,その他に足を湯に浸けた状態で足底部への刺激として気泡刺激と振動を加える操作を行った。自律神経機能の評価は心拍変動の周波数解析を行い,免疫機能については,白血球分画,リンパ球サブセットをフローサイトメトリーにて解析し,またナチュラルキラー(NK)細胞の細胞障害活性を測定した。さらに足浴によるストレス軽減の有無等を検討するため,血漿中のTh1細胞産生サイトカイン(IL-2,IFN-γ,TNF-α),Th2細胞産生サイトカイン(IL-4,IL-6,IL-10)の測定を行い,Th1/Th2バランスについて検討した。足浴を行うことにより,副交感神経系の機能が亢進する傾向が認められ,これによって免疫機能においてもNK細胞障害活性が有意に増加し,これらの効果は足浴による温熱刺激に足底部への触・圧刺激が加えられることによって増強された。白血球分画においては,足浴後に好中球の増加が認められたが,これも自律神経系の変化によることが推察された。足浴の効果が,足底部への体性感覚刺激によるものなのか,温熱刺激が加わることによってもたらされた効果なのかを明らかにするために足底刺激のみを行った場合と,膝下まで湯につけた場合とを比較検討したところ,足底部への触・圧刺激と温熱刺激の両方が存在することで効果が現れることが確認された。足浴を一定期間(7日間)実施し,その前後における免疫機能,自律神経機能の評価を行ったところ,自律神経機能では副交感神経系の機能が亢進し,このことによりNK細胞障害活性が増加し,免疫機能を高める傾向が得られた。またTh1/Th2バランスを示すサイトカインについては,足浴により大きな変化を示すことはなく,概して低値を示していた。足浴によりリラクゼーション効果がもたらされ,副交感神経系が優位になることで免疫機能を高めることが推察された。これらのことから免疫機能の低下した患者や高齢者などを対象に気泡・振動付きの足浴を行うことによって,身体機能の改善が期待できることを示唆し,足浴を用いた効率的ケアに貢献するものと考えられた。
著者
松田 純子
出版者
文化女子大学
雑誌
文化女子大学紀要 服装学・生活造形学研究 (ISSN:0919780X)
巻号頁・発行日
no.30, pp.139-148, 1999-01

「空間」と「場所」については,様々な環境論が展開されている。しかし近似したこのニつの概念に対しては,人間の存在と「場所」を統一体としてとらえることは少ないように思う。本稿では,人間と「場所」とのつながりを研究している,イーフー・トゥアン(1930~)の「空間」に対する,人間の知覚経験の重要性と,それによって獲得する, 「空間」と「場所」の諸価値について取り上げ,その機能と意味について考察する。トゥアンの人間の身体レベルからとらえる「空間」と「場所」理論においては,「空間」のなかに,自分を基礎づけようとするために用いる様々な「場所」は,個人的経験によってのみ存在する安全で自由なものである。一方で,急速に変化してしいく社会が,人間中心の「場所」を変化させてしまい,長い年月の安定した環境は望めなくなってしまっていることを,我々は考えなくてはならない。そこには,人間の現存在の持続性と,変異変遷する「空間」の問題が反映しており,人間にとって親密な「場所」の形成過程を探る上で,重要な意味をもつ問題である。
著者
安野 彰
出版者
文化女子大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

平成18年度は、宝塚新温泉を模倣したと伝えられている地方の遊園地の調査を中心に行った。事前に関連資料を収集するとともに、現地へ赴き、絵葉書やリーフレット類を含む、現地に残る資料の渉猟、地域の史家や当時を記憶する関係者(利用者、経営者の家族など)からの聞き取りを行うなどした。とくに、小林一三を介するなど直接的に宝塚新温泉の影響を受けている別府の旧ケーブル遊園(現ワンダー・ラクテンチ)と鶴見園(閉園)、また、大規模に開発された花巻温泉遊園地(現花巻温泉株式会社)に関しては、開設当初からの資料を含む多くの情報を得られ、各施設の設備や催し物の変遷、利用者の様子を知ることができた。そして、これら施設には、宝塚新温泉に類似する部分を備えつつも、後発でありながら、旧来の遊園地に見られる遊興的な部分や物見遊山の場としての側面を強く維持していくという両義性を確認できた。こうしたことから、翻って、宝塚新温泉が創造し、次第に洗練させた空間の先鋭性を史的に位置づけられた。なお、花巻温泉遊園地については、その地方の文化的な拠点として、当時の都市近郊に見出された様々な空間(郊外住宅、行楽地、迎賓の場、自然との共生の場・・)が、結果として同一の敷地内に重ねあわされていたことが分かり、都市文化史上、極めて重要な事例と捉えることができた。また、本年度になってから新規に集めた資料とこれまでに集めたものを整理し、分析を行った。宝塚新温泉も開設当初は、同時代の他の遊園地と同様に遊興的な部分が少なくなく、徐々に健全性を強く意識して学園的な遊園地を目指したが、そうしたことをより正確に跡付けることができた。そして戦後の新温泉も、そうしたコンセプトを引き継ぎ、科学や学術に関わる活動やイベントを展開することを通して隆盛していた様子等を見ることができた。
著者
伊藤 由美子 大橋 寛子
出版者
文化女子大学
雑誌
文化女子大学紀要 服装学・造形学研究 (ISSN:13461869)
巻号頁・発行日
vol.42, pp.11-20, 2011-01

本学園服飾博物館所蔵品の中で,装飾に優れたオートクチュール仕立てのイブニングドレスを取り上げ,その詳細な記録を残すことを目的とした。方法は,作品の構造,縫製・装飾技法は写真撮影により情報を収集し,実測および立体裁断の手法を用いてパターンを採取,さらにトワルによる再現を行った。結果,構造は,上半身保形のため内側に脇身頃を除く前後身頃の其々ウエストまで5本の金属製ボーンが裏打ち布に留められていた。内ベルトは身頃と裏地との間にあった。縫製技法では,裾の始末に現在の技法との相違点がみられ,折り上げた縫い代の0.5cm奥を千鳥がけで留めていた。装飾は,図案の輪郭を1本糸の鎖縫いミシンで縫われ,大きさの違う5種のラインストーン,4種のパールを巧みに使い分けており,穂の部分は,白の綿糸で隙間なく糸を渡し,その上に長さ2mm弱の管状ビーズで刺繍されていた。パターンは,ウエストより下部に使用した布幅の分量をそのまま生かし,脇身頃に利用していた。今回は,パターン採取とそのフォルムの確認およびドレス構造と技法のみの調査結果に留まった。今後は,これらを踏まえて資料に近い布を使用した実物製作を通しての縫製技法を分析したいと考える。
著者
神部 晴子
出版者
文化女子大学
雑誌
文化女子大学紀要. 服装学・生活造形学研究 (ISSN:0919780X)
巻号頁・発行日
no.31, pp.51-64, 2000-01-31

1910年代、イタリア未来派画家ジャコモ・バッラ(Giacomo Balla) は、当時のメンズスーツに革新的なアイデアを持ち込み、19世紀初頭から続いていたメンズスーツの固定化したスタイルの改革を試みた。同時代のヨーロッパは20世紀初頭にイタリアで誕生した未来主義があらゆる分野に姿を見せ始めた時期でもある。未来主義者はイタリアの伝統に過度の重みを感じ、その歴史的遺産を破壊しようとしていた。次々と宣言を発表し、その全てが破壊しなければならないものに向けられた。そのひとつに1914年5月「LE VETEMENT MASCULIN FUTURISTE Manifeste(未来派男性衣装宣言)」と同年9月「IL VESTITO ANTINEUTRALE Manifesto futurista (未来派反中立衣装宣言)」がある。それは暗い色、対称的なシルエット、糊のきいたカラーやカフスといった伝統的なメンズスーツを廃止し、軽快で、衛生的、そしてダイナミックな色やデザインといった未来派的な新しい衣装を提案したものであった。成功するには至らなかったものの、今でも内容的に高い関心を持たれている。本論文では、バッラが創作した未来派スーツと各衣装宣言に書かれた内容と意味主張について未来派との関連において調べてみた。
著者
神部 晴子
出版者
文化女子大学
雑誌
文化女子大学紀要 服装学・生活造形学研究 (ISSN:0919780X)
巻号頁・発行日
no.31, pp.51-64, 2000

1910年代、イタリア未来派画家ジャコモ・バッラ(Giacomo Balla) は、当時のメンズスーツに革新的なアイデアを持ち込み、19世紀初頭から続いていたメンズスーツの固定化したスタイルの改革を試みた。同時代のヨーロッパは20世紀初頭にイタリアで誕生した未来主義があらゆる分野に姿を見せ始めた時期でもある。未来主義者はイタリアの伝統に過度の重みを感じ、その歴史的遺産を破壊しようとしていた。次々と宣言を発表し、その全てが破壊しなければならないものに向けられた。そのひとつに1914年5月「LE VETEMENT MASCULIN FUTURISTE Manifeste(未来派男性衣装宣言)」と同年9月「IL VESTITO ANTINEUTRALE Manifesto futurista (未来派反中立衣装宣言)」がある。それは暗い色、対称的なシルエット、糊のきいたカラーやカフスといった伝統的なメンズスーツを廃止し、軽快で、衛生的、そしてダイナミックな色やデザインといった未来派的な新しい衣装を提案したものであった。成功するには至らなかったものの、今でも内容的に高い関心を持たれている。本論文では、バッラが創作した未来派スーツと各衣装宣言に書かれた内容と意味主張について未来派との関連において調べてみた。
著者
三國 純子
出版者
文化女子大学
雑誌
文化女子大学紀要 人文・社会科学研究 (ISSN:09197796)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.81-95, 2002-01

何をどう教えるかは, 言語教育の永遠のテーマである。本稿では, 戦後の日本語教育の流れを, 初級に的を絞って教授法の観点から見直し, その時代の代表的な教科書を通して教師が何を重視し, どのような指導を行ってきたかを分析した。伝統的校本語教授法の時代, オーディオリンガル・メソッドの時代, コミュニカティブ・アプローチの三つの時代に作成された初級の教科書を取り上げ, 日本語教育の移り変わりを概観する。また, コミュニカティブ・アプローチの時代に移る先駆的な役割を果たした『文化初級日本語』の作成経緯, 問題点を解消していく過程にも触れ, 今後の日本言語教育の在り方を模索する。
著者
多々見 和子
出版者
文化女子大学
雑誌
文化女子大学紀要. 服装学・生活造形学研究 (ISSN:02868059)
巻号頁・発行日
no.24, pp.169-180, 1993-01-31

V字ウエスト切り替えのワンピースドレスは舞台衣裳, ウエディングドレス,イブニングドレスなどに多く見られ, 又, 学生も好んで製作してきた。V字ウエスト切り替えのフレアースカートのワンピースドレスについて, これまで何回か製作を行なってきたが, 的確な製図方法はなかった。つまり, 従来の方法では, 身頃よりスカートのつけ寸法が大きく, 縫い合わせる段階でつけ寸法を調整したり, 感覚的に補正することが多いことに疑問を持ち, V字の傾斜のポイントが変化しても, 身頃とスカートのつけ寸法が合い, フレアーがきれいに落ちつくような, 補正の少ない正確な製図を出せないものかと思い, 理論的に解決すべく, 研究することにした。その結果, V字ウエスト切り替えのワンピースドレスのフレアースカートの製図について, ひとつの製図の方式を作り出すことができた。又, ギャザースカートへも同じ理論づけを得ることができ, これをヒントに, 円裁ちスカートの製図について, 全円のみでなく, 色々な角度のフレアースカートとギャザーフレアースカートに応用発展させていくことはできないものかと考え, 数値化を試み, 最終的には, フレアースカートとギャザーフレアースカートの製図半径を算出し, 表にまとめ, 色々な角度の円裁ちスカートを, これまでよりも容易に製図できるようになった。
著者
ロバート ヒックリング
出版者
文化女子大学
雑誌
文化女子大学紀要. 人文・社会科学研究 (ISSN:09197796)
巻号頁・発行日
no.6, pp.43-52, 1998-01-01

二言語を併用する子供の親は, 生後まもなく, 彼らの子供が二言語体験することに消極的である。なぜならば二言語を併用する子供は, 単一言語を使う子供と比べて自然に言語習得できないかもしれないと懸念するからである。 更に二言語を併用する子供は, どちらの言語においてもネイティブスピーカーのレベルに熟達できないかもしれないと心配することである。この考えは, 一般にセミリンガリズムと呼ばれている。このセミリンガリズムについて1927年にブルームフィールドは北米のインディアンの言語における分析において以下のように記述している。およそ40歳の北米インデアン, ホワイト サンダーは英語より彼のインデアンの言語であるメノミニをより多く話すが, そのメノミニですら語彙が乏しく, 文法的規則性がなく, なおかつ, 彼は単純な文章でしか会話ができないというお粗末なものである。つまり彼はまともに言葉を話せないというのである。この例におけるセミリンガリズムへの影響という点で, 言語学者逮は少なくとも一つの言語においてネイティブレベルの言語能力を確実なものにするには, 第二言語を経験させる以前に, しっかりした第一言語の能力を習得しなければならないと忠告する。これに対して, この論文は二言語を同時に体験することが, 子供の言語習得にマイナスな影響を及ぼすことはなく, 二言語を同時に使う子供の養育は, それ自体がセミリンガリズムの原因にならないということを説いている。むしろセミリンガリズムの原因は経済的, 政治的, 社会的条件によるものであると論じ, 二言語体験が遅ければ, 遅いほど子供の第二言語における言語熟達の可能性は低くなるかもしれないと説明している。
著者
中沢 志保
出版者
文化女子大学
雑誌
文化女子大学紀要. 人文・社会科学研究 (ISSN:09197796)
巻号頁・発行日
no.19, pp.29-45, 2011-01-31

本稿は, 20世紀前半期のアメリカにおいて主要な対外政策の立案と決定に関与したヘンリー・スティムソン(Henry L. Stimson)を引き続き考察するものである。本稿では特に, 柳条湖事件に始まる日本の中国への侵略に対してアメリカがどう対応しようとしたかを検討する。具体的には, 第一次世界大戦後の国際秩序が崩壊していく1930年代初頭において, 日本の軍事行動に対し, 「スティムソン・ドクトリン」という形で「倫理的制裁」を課そうとしたスティムソンの外交を分析する。
著者
塚本 和子
出版者
文化女子大学
雑誌
文化女子大学紀要. 服装学・造形学研究 (ISSN:13461869)
巻号頁・発行日
no.36, pp.9-23, 2005-01

19世紀の婦人服,クリノリン・ドレスのパターン・縫製法について調査研究を行った。卒業論文で時代衣装の複製をする学生に充実した指導をするため,資料作成をすることを目的とした。調査した資料は1860年代のワンピースドレスで,デイドレスとして着用された資料3点である。当時のドレスはデザインを決定する際には身頃は3面構成,袖は2枚袖,スカートはプリーツを入れ,トレーンを曳いているなどを条件としていた。素材は3点とも布幅は60cm前後で,使用量は約10mであった。ドレスの裏側に用いる裏打ち布は3点ともに身頃にはつけられていたが,スカート2点にはっけられていなかった。身頃のみに裏打ち布を使用したのは,汗などの影響や動作することにより縫い目に力がかかるためであると思われる。縫製はすべて手縫いであった。身頃の各縫い目は細かい返し縫いで,しっかり縫合されていた。スカートは布地に負担がかからない程度のやや粗めの並み縫いであった。実物資料を調査することにより,充実した資料を作成することが出来た。
著者
小柴 朋子 田村 照子 丸田 直美 丸田 直美
出版者
文化女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

災害時における避難所に必要とされる備蓄衣料の検討を目的として、大地震後の実態調査報告書および被災地における聞き取り調査から被災時の衣料供給における問題点を抽出し、救援用衣料について検討した。必要衣服の保温力を検討するため、サーマルマネキンを用いて現在市販されている成人男性用衣服類約150点、靴および靴下6点、幼児用衣服23点の顕熱抵抗を測定した。それらをもとに日本各地の季節別必要Clo組み合わせ服マップを作成、汎用型衣料をデザインして保温力を評価し、備蓄用基準パッケージを提案した。
著者
荒井 健二郎
出版者
文化女子大学
雑誌
文化女子大学紀要 人文・社会科学研究 (ISSN:09197796)
巻号頁・発行日
no.1, pp.p135-145, 1993-01

黒人として生まれついたジェイムズ・ボールドウィンは,白人との比較において,満たされないものを紙面にひたすら叩きつけた感じがする。彼の小説に登場する人物達は,ボールドウィンの代弁者という役割を与えられて窮状を訴え,悪態をつき,なじり,わめき,という自己主張に終始し,セックスも暴力的である。更に,相手を暖かく包みこむとか,相手の欠点についても糾弾することはあっても受け容れようとすることは,全くない。その底には,欲求不満を吐き出すことによって満足感を得ようとする「歪な平衡感覚」が作用しているように思われる。『もう1つの国』 (Another Country, 1962)の主要人物達もその例にもれることはない。しかし,唯一の例外として提示されるのが,エリックである。彼は最初向性愛者として登場し,後に両性愛者であることがわかって驚かされるのだが,最初のうち,自らの性的志向をなかなか受け容れることができず,苦悩する。しかし,最後には,その長い苦悩のトンネルを抜け,認識と受容に至る。その点をポールドウィンは賞賛してやまないのだ。それ故,エリックに同性愛者という「もう1つの国」を与えたのだと思われてならない。
著者
松田 純子
出版者
文化女子大学
雑誌
文化女子大学紀要. 服装学・生活造形学研究 (ISSN:0919780X)
巻号頁・発行日
no.30, pp.139-148, 1999-01-31

「空間」と「場所」については,様々な環境論が展開されている。しかし近似したこのニつの概念に対しては,人間の存在と「場所」を統一体としてとらえることは少ないように思う。本稿では,人間と「場所」とのつながりを研究している,イーフー・トゥアン(1930~)の「空間」に対する,人間の知覚経験の重要性と,それによって獲得する, 「空間」と「場所」の諸価値について取り上げ,その機能と意味について考察する。トゥアンの人間の身体レベルからとらえる「空間」と「場所」理論においては,「空間」のなかに,自分を基礎づけようとするために用いる様々な「場所」は,個人的経験によってのみ存在する安全で自由なものである。一方で,急速に変化してしいく社会が,人間中心の「場所」を変化させてしまい,長い年月の安定した環境は望めなくなってしまっていることを,我々は考えなくてはならない。そこには,人間の現存在の持続性と,変異変遷する「空間」の問題が反映しており,人間にとって親密な「場所」の形成過程を探る上で,重要な意味をもつ問題である。