著者
菅野 菜々子
出版者
首都大学東京
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

【研究目的】細菌は自然生態系の中で分解者・生産者という重要な役割を担っている。自然環境中では栄養資源の量が変動するため、栄養源が豊富な時には細菌は分裂増殖し、それ以外の期間は分裂しない状態で生きのびていると考えられる。しかし非分裂条件下で、細菌細胞が生きのびるために必要なエネルギー量や何にエネルギーを使用しているのかの詳細はよくわかっていない。本研究では細菌の非分裂条件下での生存機構をエネルギー(ATP)との関係から明らかにするために、光エネルギーからATPを獲得できる光合成細菌を利用して非分裂条件下でATPを消費している生理活性とATP維持に関わる細胞状態を特定する。【平成25年度研究計画】25年度は、これまでの研究で紅色光合成細菌の中でも非分裂条件下・暗条件および浸透圧・熱ストレス条件下で生存性が高いことがわかっているRhodopseudomonas palustris CGA009株を材料として、非分裂条件下・生子性の異なる細胞の網羅的転写角析、非分裂条件移行過程における代謝動態、非分裂条件下でのATP生産能力解析を行った。【25年度研究成果】非分裂条件下でのATP生産能力解析から、非分裂条件下では光の有無にかかわらず光合成によるエネルギー獲得能力を維持しており、非分裂条件下で生き残るために光合成をエネルギー源として頼りにしている可能性が示唆された。暗条件でも他の細菌種に比べて生存性の高かったR. palustrisでは非分裂条件下での代謝・転写状態はエネルギー供給量によって大きく異なり、エネルギー供給のあるときはタンパク質回転が積極的に行われていると示唆された。一方でエネルギー供給量が制限される条件では供給量の高いときとは異なる代謝・転写状態であり、非分裂条件を生きのびるための生存機構は細胞内のエネルギー量によって異なる可能性が示された。