著者
内山 朋規 瀧澤 秀明 菊川 匡
出版者
一般社団法人 人工知能学会
雑誌
人工知能学会第二種研究会資料 (ISSN:24365556)
巻号頁・発行日
vol.2018, no.BI-008, pp.11, 2018-01-20 (Released:2022-02-25)

資産価格のプレミアム(期待リターン)は時系列に変動し,リターンが予測可能であることは現在のファイナンスにおける標準的な考え方である.実務においては投資パフォーマンスの向上のために,学術研究においてはプレミアムの特徴を解明するために,ファクター(予測変数)によってリターンを予測する分析が精力的に行われてきた.しかし,統計的にこれを検出することは容易でないため,より有意な実証的証拠を得ようとデータマイニングを行うと,実際には無意味であるにもかかわらず有意に見えてしまうというオーバーフィッティング(過剰適合)を引き起こす.特に近年では,ビッグデータとして多様なデータを低コストで扱えるようになり,また,工学的な側面から機械学習への注目度が増している.これらは予測精度の向上に貢献する可能性がある一方で,オーバーフィッティングの可能性をより高めてしまう. オーバーフィッティングは,予測対象の標本数が有限であるにもかかわらず,変数選択に自由度があることから生じる.通常の単一検定の基準ではなく,多重検定であることを考慮して有意性を評価する必要がある.従来の資産価格理論の実証では,この影響が軽視されてきた.本研究では,変数選択の自由度だけでなく,モデル選択の自由度,言い換えれば,モデルマイニングの問題も含めて扱う.この結果,時系列におけるリターンの予測可能性を対象に,オーバーフィッティングの影響が大きいことを実証的に示す.変数選択やモデル選択に伴う多重検定を考慮すると,t値の分布は大幅に上方にシフトし,有意水準の臨界値は極めて高くなる.本研究の結果は,ファイナンスの学術的枠組みにオーバーフィッティングの問題を体系的に取り込む必要があることを示唆している.
著者
菊川 匡 阿部 善也 中村 彩奈 中井 泉
出版者
公益社団法人 日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.31-40, 2014-01-05 (Released:2014-01-31)
参考文献数
25
被引用文献数
1 1

古代銅赤ガラスには,他の色の古代ガラスには見られない不明な点が多く残されている.本研究では蛍光X線分析(XRF)による化学組成の特性化と,X線吸収端近傍構造(XANES)解析によるCuの化学状態分析により,古代エジプトの銅赤ガラスに関する考古化学的研究を行った.銅赤ガラス生産の最初期であるエジプト新王国時代の銅赤ガラスでは,金属CuコロイドではなくCu2O微結晶による銅赤着色が行われていた.一方,エジプトにおいて銅赤ガラス生産が一般化したプトレマイオス朝~ローマ期においては,発色要因として金属CuコロイドとCu2O微結晶の2種類が同定された.2種類の発色要因の違いは,着色剤であるCuの添加量や使用された融剤の種類とも対応していた.またいずれの銅赤ガラスにおいても,含まれるCuの大部分は発色に関係しないCu+イオンとして存在していた.さらに本研究により,銅赤ガラスの製法に関する興味深い知見が得られた.