著者
萩原 修子
出版者
日本宗教学会
雑誌
宗教研究 (ISSN:03873293)
巻号頁・発行日
vol.96, no.3, pp.1-25, 2022-12-30 (Released:2023-03-30)

犯罪者の更生支援の活動はさまざまにあるが、一度犯罪者のスティグマを背負った者の更生が困難であることは、再犯者率の高さが示している。深刻化する高齢者や障害をもった者の再犯は、社会との絆が弱まり、出所後の行き場のなさから、再犯という負のスパイラルを示している。本稿では、法務省管轄下の更生保護施設、自立準備ホームであるNPO法人「オリーブの家」の事例をとりあげる。それは、自立後の再犯率が低く、設立者が元受刑者で、矯正施設で信仰を得た宗教者であるという点に着目したからである。本稿では、この施設における対人援助の特徴を、治療共同体モデルやナラティヴ・アプローチによって考察し、宗教者が対人援助でなしうる倫理の一端を叙述する。それによって、「宗教と社会貢献」研究において、事例研究の少なかった更生支援の分野に、本稿の知見を加えるとともに、宗教固有の価値を検討することを本稿の目的としている。
著者
萩原 修子
出版者
日本宗教学会
雑誌
宗教研究 (ISSN:03873293)
巻号頁・発行日
vol.83, no.2, pp.577-600, 2009-09-30

不知火海沿岸の人々は水俣病事件によって底知れぬ苦しみを強いられた。事件の公式確認後、すでに五〇年を超す歳月が流れたが、事件が人々の心身に刻んだ爪痕は今なお深い。事件によって影響を受けた人々に共通するのは、倫理的困難への直面である。その超克を模索する過程において、当事者あるいは支援者とともに、実に豊かな思想が紡ぎだされてきた。本稿は「本願の会」という患者有志によるゆるやかな会が湧出しつづける思想について考察を試みるものである。会の主要メンバーによる著作から、彼らの倫理的困難を超克しようとする実践を、今日の倫理と宗教の微妙な関係を示す一例として、分析したい。