著者
熊谷 謙一 山内 康太 小林 裕貴 萩原 理紗 岩松 希美 小柳 靖裕 藤本 茂 鈴木 聡
出版者
日本理学療法士学会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.42, no.7, pp.554-561, 2015 (Released:2015-12-20)
参考文献数
20

【目的】脳卒中治療における効果判定ツールとしてのStroke Impairment Assessment Set(以下,SIAS)の有用性を検討した。【方法】対象は脳卒中の診断で入院,リハビリテーションを実施した244例とし,評価は入院7,21日目に実施した。SIASの反応性はStandardized Response Mean(以下,SRM)を用いて検討した。Minimal Clinically Important Difference(以下,MCID)の検討は,歩行能力の改善を臨床上重要な指標の変化と定義し,それが生じるのに必要なSIASの変化量を検討した。【結果】SIASのSRMは0.61で,歩行能力が改善するためのSIASのMCIDは2点であった。【結論】SIASは経時的に改善し,2点の改善が歩行能力改善と関連していた。そのため,脳卒中治療の効果判定として有用な指標であることが示唆された。
著者
山内 康太 小柳 靖裕 岩松 希美 熊谷 謙一 萩原 理紗 金子 裕貴 藤本 茂
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0061, 2015 (Released:2015-04-30)

【目的】脳卒中発症後における機能・能力障害に対しては発症直後より可及的早期の集中的なリハビリテーションが推奨されている。脳卒中急性期では機能障害,併存疾患,社会的背景などをもとに機能予後を予測しリハビリテーションを遂行する。特に日常生活自立のために重要な機能の一つである歩行障害の予後予測は治療内容や転帰先を検討するうえで重要となる。本邦における脳卒中治療ガイドラインにおいては機能障害の評価としてStroke Impairment Assessment Set(SIAS)が推奨されており,総合的な機能障害の評価として汎用されている。SIASは併存的・予測妥当性は証明されているが,急性期におけるSIASに関する報告は少ない。またSIASが能力障害の重症度を判別できるか否かなど,ベンチマークとなる点がなく指標がないのが現状である。今回,SIASによって発症以前の活動に制限がないとされるmodified Rankin Scale(mRS)≦1,歩行自立(mRS≦3)の判別および脳卒中発症1週目におけるSIASによる予測妥当性について調査したので報告する。【方法】2010年4月から2013年7月までに発症1週以内に脳卒中にて入院し,リハビリテーションを施行した479例のうち入院前modified Rankin Scale(mRS)0-1であった341例を対象とした。調査項目は年齢,性別,既往歴(高血圧,高脂血症,糖尿病,心房細動,腎不全,閉塞性動脈硬化症,虚血性心疾患),発症1週目におけるSIAS,NIHSS,Trunk Control Test(TCT),Functional Independence Measure(FIM)認知項目とした。(1)SIASによる能力障害の重症度判別の解析は機能障害と能力障害の乖離が生じないようにリハビリテーションを実施した発症3週目(発症3週以内の場合は退院時)におけるSIASがmRSの各スコア間で階層化されるか調査した。SIASのmRSスコア別における群間比較はKruskal-Wallis検定およびBonferroni検定を用いた。また活動制限なし(mRS≦1),歩行自立(mRS≦3)を判別するSIASのカットオフ値はROC分析によって求めた。(2)脳卒中急性期におけるSIASの予測妥当性は3ヶ月目における歩行可否を予測し得るか否かとした。統計解析は3ヶ月目の歩行可否における2群間の比較において有意差を認めた因子を独立変数とし,3ヶ月目歩行可否を従属変数とした多重ロジスティック回帰分析を行った。なお,年齢は単変量解析の結果に問わず調整すべき変数として強制投入した。【結果】(1)SIASにおける能力障害重症度判別mRSのスコア別におけるSIASの中央値(四分位範囲)はmRS0;75(73-76)点,mRS1;74(72-76)点,mRS2;72(70-75)点,mRS3;70(60-74)点,mRS4;51(38-64)点,mRS5;24(15-35)点であり,mRS0-2までの群間および2-3の群間に差を認めなかった。これらの群間以外は全て有意差を認めた。活動制限なし(mRS≦1),歩行自立(mRS≦3)のカットオフポイントは各々71点(感度87.0%,特異度69.7%,曲線下面積0.85),64点(感度93.2%,特異度86.5%,曲線下面積0.96),であった。(2)急性期におけるSIASの予測妥当性3ケ月フォローアップが可能であった315例のうち,3ヵ月後歩行が自立した症例は257例(81.6%)であった。単変量解析の結果,病型,性別,BMI,糖尿病有無,閉塞性動脈硬化症有無,発症1週目SIAS,NIHSS,TCT,FIM認知項目に有意差を認めた。SIAS,NIHSS,TCTは相関係数r>0.8であり,多重共線性を考慮し,危険率が最も低値であったSIASを機能障害の指標として独立変数とした。多重ロジスティック回帰分析の結果,独立した予測因子はSIAS(OR1.12,p<0.001),FIM認知項目(OR1.08,p=0.003),年齢(OR0.95,p=0.040)であった。判別的中率は93.4%と高値であった【考察】本邦ではSIASが汎用されているが評価した点数により重症度を判断することができないのが現状であった。本研究の結果では発症前の活動制限を認めない能力(mRS≦1),歩行自立(mRS≦3)のカットオフポイントは各々71点,64点であった。今回の結果より3ケ月後における歩行可否の予後予測にSIAS,FIM認知項目,年齢が独立した因子であり,SIASの予測妥当性が証明された。つまりSIASは歩行能力などの能力障害を判別し,予後予測の独立した因子であり,急性期脳卒中リハビリテーションの評価として有用であることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】本研究は本邦で汎用されているSIASの急性期予測妥当性を明らかにした初めての研究であり意義が高い。