- 著者
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葉 せいい
- 出版者
- 茨城大学
- 雑誌
- 基盤研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 2004
本研究は植民地支配下における社会関係/権力関係が、いかに都市空間構造の形成過程に関与していたかについて、特にジェンダーと権力との関係に焦点をあてて分析を行った。植民地における権力関係は、支配者と被支配者というきわめて自明な二項対立的なとらえ方からとらえらえることが多いが、しかし必ずしもその関係は明瞭なものではなく、また支配者と被支配者という二つのカテゴリーだけが存在しているわけでもない。支配者の中にもまた被支配者の中でも階層化がされており、それが織り成す複雑な関係のなかに植民地社会は成立しているのである。その関係性の中で、女性がどのように位置づけられ、どのように権力関係に関与しているのか、またその関係が空間的にどのように反映されているのかを本研究では検証した。植民地における公共空間における権力関係において、女性は積極的に関与してはいなかったが、しかし実際には植民地権力による同化=日本化の過程に女性は深く関係した。すなわち植民地権力は、学校教育を通じて、同化政策や皇民化政策を実践的にもまた精神面からも協力に推進しようと試み、女性に対しては、同化=「日本化」した女性(妻となり母となる)を育成することによつて、家庭における「日本化」を浸透させようとしたのである。公共空間での公式な同化政策と家庭における、家族による同化の推進を図ったのである。学校教育を受けた女性は伝統的家族規範から解放されたが、しかし植民地社会の権力関係の中に絡みとられていた。一方、学校教育を受けなかった女性は台湾人居住区の私的空間や近隣空間の中で、伝統的な生活様式や規範に従って生きていた。複雑な権力関係が張り巡らされた植民地都市空間において、彼女たちは同化や皇民化などの権力支配の間隙に生活していたのである。植民地都市空間の権力の狭間で、彼女たちは伝統文化を継承し、アイデンティティを保持し続けた。それは寡黙でありながら、植民地権力に対する強力なレジスタンスであった。植民地都市空間における私的空間は、一方で植民地支配の媒介的空間となり、一方で強力なレジスタンスな空間として機能した。そしてそこは女性の支配する空間であった。