著者
近藤 寿人 蒲池 雄介
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1999

細胞分化をすすめる転写制御因子のうち、SOX因子群はとりわけ細胞分化の決定に中心的な役割を果たしている。現在20数種類が知られているSOX因子は、そのアミノ酸配列の類似性から、AグループからGグループまでに分類されている。いずれのSOX因子もHMGドメインによってほぼ同一の塩基配列に結合しながら、制御標的遺伝子も、制御する細胞分化のレパートリーもグループ毎に異なる。SOX2を例として、制御標的遺伝子の一つδクリスタリン遺伝子のエンハンサーに対する制御機構を解析した。δEF3の候補分子を、酵母細胞の中での遺伝子活性化反応によってクローニングした結果それがPax6と同一であることが明らかになった。そしてSOX2,Pax6,エンハンサーDNAの3者の共存によってはじめて、強い転写活性化複合体が形成されることを確認した。このSOX2とPax6の協調による遺伝子の活性化が、水晶体分化の開始反応であると考えられる。SOX因子は、それ単独でDNAに結合しただけでは、SOX因子自体が持つ転写活性化機能を発揮することができず、DNA上の近傍に結合したパートナー因子との協同作用によってはじめて制御活性を示すことを示した。SOXやパートナー因子の発現の変化に連動して、SOXの制御下にある遺伝子のセットが切り替わることが細胞分化の重要な制御機構の一つであると考えられる。SOXグループ毎にパートナー因子が異なるために、グループ毎に特異的な作用がうまれ、SOX因子群が細胞分化のスイッチとして作用する。