著者
蔡 煕永 藤巻 裕蔵
出版者
The Ornithological Society of Japan
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.45, no.1, pp.17-22,50, 1996-04-25 (Released:2007-09-28)
参考文献数
10
被引用文献数
2 1

エゾライチョウ Bonasa bonasia の齢査定法としては初列風切羽9番目の暗色縞の数,初列風切羽1番目の先端部のベージュ色の幅,下顎骨に見られる層構造の数による方法がある.しかし,前2方法で用いられる形質には地理変異があり,必ずしもよい齢査定の基準とはいえず,下顎骨を用いる方法は手数がかかる.エゾライチョウの頭頂の未含気化部は成鳥になっても消失することはなく,成長するとともに小さくなる,この部分の大きさが齢査定の基準として有効かどうかを,飼育で齢の明らかな37羽(1か月齢~5年齢)を用いて検討し,その結果を1991/92,1992/93の狩猟期に捕獲された49羽に適用してみた.計測部位は頭骨全長(TL),頭骨最大幅(GW),未含気化部の長さ(AL)と幅(AW)の4か所である.未含気化部の大きさの指標として,AL,AW,ALXAW,AL/TL,AW/GWの5つの値を用い,これらと実際の齢との関連を調べた.TLとGWの平均値は1か月齢のそれぞれ42.3±2.5(n=5,平均値±SD,以下同様),19.8±1.1mmから4-5か月齢の51.7±0.7(n=6),23.1±1.1mmに増加したが,その後は8-10か月齢で51.8±1.4と23.0±1.4mm(n=6),≧12か月齢で52.4±0.8と23.9±0.5mm(n=11)で,頭骨の大きさは4か月齢で成鳥の大きさに達した.ALの平均値は1か月齢で9.1±0.7mmで,その後徐々に減少し,≧24か月齢で5.9±1.7mmとなった.AL/TLの平均値も1か月齢の0.217±0.025から≧24か月齢の0.112±0.032%に変化し,ALと同じような減少のしかたを示した.ALXAWの平均値は1か月齢の71.5±7.4(n=5)から5か月齢の31.6±6.8(n=4)に減少したが,その後は≧24か月齢の17.0±7.6(n=5)に徐々に減少した.AWとAL/GWの平均値は1か月齢のそれぞれ7.8±0.3mm,0.395±0.031%から9~10か月齢の2.6±0.7mm,0.115±0.032に変化し,それ以後には大きな変化は見られなかった.エゾライチョウは6月に孵化するが,北海道におけるエゾライチョウの狩猟期は10月1日~1月31日なので,狩猟で捕獲される個体で,1年未満のものでは4~7か月齢,1年以上のものはすでに15か月齢以上である.そのため,上述の5つの指標でこれらの2つの齢群を区分できるかどうかを検討した.ただし,7か月齢の個体がいなかったので,若齢群を4~8か月齢とした.4~8か月齢と≧15か月齢との間で5つの指標を比較すると,AW,ALXAW,AW/GWの3指標の平均値には有意な差が認められた.しかし,AWとAL×AWは2つの齢群の間でそれぞれ一部重複するため,指標としては不適である.AW/GWの平均値は2つの齢群の間で有意な差が認められ,範囲も若齢群で0.158~0.306,成鳥群で0.063~0.145で重複しなかった.これらの結果から,4-8か月齢と≧15か月齢とを区分すのに適切な指標は,AW/GWで,区分する基準値は0.15%とできる.この方法を,狩猟で捕獲された49羽に適用したところ,33羽(67%)が1年未満,16羽(33%)が1年以上の個体であった.