著者
藏田 幸三
出版者
千葉商科大学
雑誌
千葉商大論叢 (ISSN:03854558)
巻号頁・発行日
vol.40, no.3, pp.135-164, 2002-12-31

本稿の目的は,米国情報通信産業に対する成長戦略を明らかにすることにある。 1991年高性能コンピュータ法の議会記録を中心に,政策形成の過程を詳しく分析する。1990年代に日本と対照的な成長をつづけた米国のIT戦略について,産業政策の視点から考察することで,これまであまり注目されてこなかった産業や外部関係者との接点を明らかにしたい。そのために,アメリカの政策決定の中枢をなす議会,特に委員会の公聴会に着目してその速記録を詳しく分析する。その方法として政策情報データベースをつくって,分析と検証を精密に行いたい。このような考察の結果,米国のIT戦略が産業界からの影響と軍事・学界からの支援によってつくられたものであり,それが大統領のリーダーシップによって推進されたところに成功の要因があったと考えられる。またそれを可能にしたのは,IT政策についてオープンに議論できる議会・公聴会というシステムの存在であった。そこで,外部から情報や批判などの多様なリソースをとりいれ,政策に活用することができたのである。これらの考察を通じて,日本のIT産業政策に対するインプリケーションを提示してみたい。