著者
藤下 真奈美
出版者
国立保健医療科学院
雑誌
保健医療科学 (ISSN:13476459)
巻号頁・発行日
vol.69, no.2, pp.96-102, 2020-05-29 (Released:2020-06-27)
参考文献数
3

我が国では,平成15年以来,健康増進法(平成14年法律第103号)により,多数の者が利用する施設を管理する者に,受動喫煙の防止措置を講じる努力義務が設けられ,これまで一定の成果を上げてきた.しかしながら,依然として多くの国民がこうした施設において,受動喫煙の機会を有している状況にある.また,平成17年に,日本も締約国である「たばこの規制に関する世界保健機関枠組条約」(以下「FCTC」という.)が発効し,平成19年の第 2 回FCTC締約国会合において,「たばこの煙にさらされることからの保護に関するガイドライン」が採択された.FCTC第 8 条においては,締約国に対し,「屋内の職場,公共の輸送機関,屋内の公共の場所及び適当な場合には他の公共の場所におけるたばこの煙にさらされることからの保護を定める効果的な立法上,執行上,行政上又は他の措置」を求めている.こうした状況に加え,国民の健康増進を一層図るためには,受動喫煙対策を更に強化していくことが必要であることを踏まえ,健康増進法の一部を改正する法律(平成30年法律第78号.以下「改正法」という.)が平成30年 7 月に成立した.この改正法では,①望まない受動喫煙をなくすこと,②受動喫煙による健康影響が大きい子どもや患者等に特に配慮すること,③施設の類型・場所ごとに対策を実施することの 3 つの基本的な考え方を示している.また,改正法では,一定の場所を除いて禁煙とすることが法律上の義務として明記された.この義務に違反した場合は,都道府県知事等による指導,勧告,命令等により改善を促し,これに従わない場合に過料が設けられている.改正法は,規制の内容に応じて段階的に施行されてきたが,令和2(2020)年 4 月 1 日に全面施行となった.改正法により,今まで各施設によってばらばらとなっていた喫煙場所に関するルールが統一的なものとなり,望まない受動喫煙が生じない環境の整備が進むこととなった.また,喫煙をする際には望まない受動喫煙が生じないよう,周囲に配慮すべき旨の規定を設けている.さらに,改正法による規制のみならず,受動喫煙による健康影響の周知啓発や喫煙専用室を設置する事業主に対する支援もあわせて行うこととしており,こうした取組を通じて,喫煙をする人もしない人もお互いに尊重し合い,気持ちよく過ごすことができる環境が実現していくことを期待しつつ,引き続き受動喫煙対策に取り組んでいきたい.