著者
藤井 千晶
出版者
Japan Association for African Studies
雑誌
アフリカ研究 (ISSN:00654140)
巻号頁・発行日
vol.2008, no.72, pp.43-51, 2008

本稿の目的は, これまで十分に記述されてこなかったザンジバル (タンザニア) における預言者ムハンマドの生誕祭の様子と, この生誕祭でのタリーカ (スーフィー教団) の活動を報告することである。預言者生誕祭は, ムスリム (イスラーム教徒) にとって最も重要な行事の一つである。また, この行事ではイスラーム世界の大部分のタリーカが一斉に活動する。<br>19世紀後半, ザンジバルには様々なタリーカが到来し, 沿岸部や交易路における民衆レベルのイスラーム化に大きく貢献してきた。東アフリカに預言者生誕祭を持ち込んだのもタリーカであったが, 先行研究では預言者生誕祭やタリーカの活動実態については, ほとんど明らかにされてこなかった。<br>筆者がおこなった参与観察によると, ザンジバルの預言者生誕祭は預言者の生誕日から約3週間, 島内各地で開催された。各生誕祭は, 基本的に地域の有力者主催の儀礼と, その後に複数のタリーカがそれぞれ主催するズィクリ (神の名を繰り返し唱える修行) の2部構成であった。また, 先行研究には言及されてない新たなタリーカの存在も明らかとなった。