著者
新井 保久 山田 邦子 藤井 幸太郎 渡辺 健太郎
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A1346, 2008 (Released:2008-05-13)

【はじめに】リハビリ訓練室の訓練用具や機器には,患者が直接手で触れる物が多い。そのため患者の手から細菌がついてしまうことが予想され,2つの調査を行った。調査1は「患者の手にどれだけ細菌が付着しているか」,調査2は「手の細菌数が消毒剤で減少するか」である。【調査1の対象】動作能力によって手に付着している細菌が違うかどうか,理学療法実施中の患者で「A=外来の独歩移動3例,B=入院中の独歩移動3例,C=入院中の歩行器移動3例,D=入院中の車椅子移動3例,E=入院中の車椅子移動の片マヒ3例」を調査した。【調査1の方法】リハビリ訓練室の入室時に,効き手または健側の手掌を「ハンドぺたんチェック」に押しつけ,48時間培養後に各菌のコロニー数(目で数えられるものは数え,それ以上で数えきれないものは大まかな数)を調べた。細菌として「1. CNS(コアグラーゼ陰性ブドウ球菌群),2.コリネバクテリウム,3.バチルス,4.ミクロコッカス,5.MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌),6.MSSA(メチシリン感受性黄色ブドウ球菌),7.グラム陰性桿菌」を調べた。【調査1の結果】1~7を合わせた全体のコロニー数は,各々の平均数「A=219,B=262,C=377,D=1158,E= 317」である。その中で病原性の高いとされる,MRSAは1例も検出されなかったが,MSSAは「Bに1例,Eに2例」,またグラム陰性桿菌は「Cに1例,Dに2例,Eに2例」検出された。【調査2の対象】動作能力の低い患者に細菌数が多い傾向であったため,前述と同様に「C=3例,D=3例,E=3例」について調査した。【調査2の方法】「リハビリ入室時(消毒前)」及び「速乾性擦式アルコール消毒剤(商品名ゴージョーMHS )による消毒後」の2回,手の細菌を検出し比較した。【調査2の結果】1~7の細菌を合わせた全体のコロニー数は,各々の平均数でリハ入室時(消毒前)は「C= 557,D= 720,E= 953」が,消毒後は「C=16,D=59,E=31」へと減少した。その中でも「1. CNS,2.コリネバクテリウム,4.ミクロコッカス」が著明に減少した。しかし「3.バチルス」については芽胞を有するためか「C・D・Eの総数が 266から 195へ」と減少しにくい傾向であった。またMRSA・MSSAは1例も検出されなかった。グラム陰性桿菌は「C・D・Eに1例ずつの3例検出され,平均数8から1へ」と減少したが,「他2例は消毒後」に検出された。【調査1・2の考察】リハビリの用具・機器を患者毎に清拭することが望ましいが,現状では困難なことも多い。今後は,職員の手指の洗浄・消毒はもちろん,患者自身にも積極的に手洗いやアルコールによる消毒を心掛けてもらう必要がある。また自力で手洗い等が困難な歩行器・車椅子使用例や片マヒの症例には,職員が介助して擦式アルコール等による手指消毒を行うことが望ましいと考えられる。