- 著者
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向井 人史
田中 敦
藤井 敏博
- 出版者
- 公益社団法人大気環境学会
- 雑誌
- 大気環境学会誌 = Journal of Japan Society for Atmospheric Environment (ISSN:13414178)
- 巻号頁・発行日
- vol.34, no.2, pp.86-102, 1999-03-10
- 被引用文献数
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8
日本各地の降雪中の鉛の安定同位体比を調査した。雪は北海道から島根県までの広い範囲で1990年と1992年に採取した。雪中の鉛は硝酸で抽出し, 濃縮, 電着による処理によって分離されICP-MSで分析した。雪が降ったときの流跡線によって同位体比をまとめ, それぞれの発生源地域の特徴を解析した。中国の北部や, 中国中部から朝鮮半島を経由して来た気塊によって降った降雪中の鉛同位体比は, 日本の都市の鉛同位体比とは明らかに異なる同位体比を持っており, アジア大陸起源の鉛の特徴と合致していた。ロシア起源と思われる気団からの降雪では, いくつかのサンプルは日本の鉛同位体比と良く似た値のものが存在した。これは, 特異的な値を持つロシアの鉛鉱山の影響か石炭起源の鉛の影響が考えられた。鉛と亜鉛の比は, 日本の影響があったサンプルでより低く, 大陸起源の気団では高い傾向があった。これらの傾向は, これまで測定されていた大気粉塵の傾向とかなり一致するものであったことから, 鉛同位体比は降雪中でも鉛の地域性を示す良い指標になると考えられた。降雪中には多くの場合石炭フライアッシュが存在し, 大陸での石炭の使用との関連が推測された。酸性成分濃度と鉛の濃度とは弱い正の相関があったが, 必ずしも一致しているというわけではなかった。