著者
久塚 純一 岡沢 憲芙 篠田 徹 畑 恵子 坪郷 實 早田 宰 藤井 浩司
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

各国のNPOの概念規定について検証しつつ、3年間の調査・研究をまとめた。久塚は、主に、日本とフランスにっいて研究した。(1)日本については、事実上存在している法人格を有しない市民団体から、法人格を有するNP0にまでについてヒアリングを行い、さらに、NPOを管轄している行政にもヒアリングを行った。結果として、日本においては、NPOが政策形成に及ぼす影響は、法人の制度や税制がネックとなり、まだ大きなものとなっていないものの、キーパーソンやネットワーク機能を有するプラザなどが存在している場合は、NPOの機能が発揮され、行政とのパートナーシップが形成されつつあることがわかった。(2)フランスについては、Associationが活動しやすい土壌・制度が整っており、国民の意識調査からも、消費者保護の問題や老親の問題などはAssociationへの期待が高く、公的セクターとの役割の住み分けが形成されていること、Associationが政策形成に大きな役割を果たしていることがわかった。岡沢は、スウェーデンのNPOの概念が、国家の役割との関係で明確なものではないことを前提としつつ、実態として存在している人々の連帯を対象として、EU加盟との関係で進行する市場化に苦慮している現実を歴史的経緯を踏まえて研究した。篠田は、アメリカにおける地域障害者ガバナンスにおけるNP0について、従来、個別研究にとどまっていた分野についての類型化と機能分析を試みた。畑は、メキシコのNPO・NGOについて、市民組織が政治的変容とどのようにかかわっているのかを念頭に置きつつ、福祉レジームと貧困削減政策との関係について研究した。坪郷は、ドイツにおける市民団体が環境問題などざ果たしている役割について研究した。早田は、イギリスにおける都市再生についての議論を整理した。藤井は、第三の道の方向性とNPOとの関係について研究した。3年間の調査・研究によって、(1)各国においてすでに存在していた各種の民間団体とNPOのような新しい民間団体との間の緊張関係が異なっていること、(2)そのような緊張関係は、福祉や環境というような個別の政策分野で大きく異なっていること、(3)政策分野ごとの差異は、国が果たすべきと考えられている役割との関係で、歴史的に異なっていること、(4)しかしながら、各国共通に、NPOについては期待が高まっており、それらの今後は、主に、法人にっいての制度と税の制度が鍵を握っているであろう、ということがわかった。
著者
寄本 勝美 片岡 寛光 石田 光義 藤井 浩司 縣 公一郎 寄本 勝美
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

1980年代以降、各国に新自由主義の潮流が押し寄せ、日本でもその路線に従った行政改革が続けられている。その基調は、企業経営を行政に導入するNew Public Managementの考え方である。大別して、5つのスタンスが挙げられよう。まず、業績に基づいて行政の対内的対外的活動全般を評価する業績評価の手法がある。これは、直截には、人事管理上の業績評価に繋がるが、さらには、一定の政府活動自身の評価を意味し、現実には、政策評価ないし行政評価といわれる手法の流布を促している。加えて、階層を少なくした簡素な組織、企業会計に倣った発生主義会計、パートナーである国民を顧客として捉える顧客志向が挙げられるが、今日まで最も追及されてきたスタンスは、政府活動全体の範囲を問い直し、民営化もしくは民間委託を行う市場原理の導入だろう。例えば、国のレヴェルでは、電電公社、国鉄、専売公社の民営化を発端に、郵政事業、高速道路建設・運営、空港建設・運営等が俎上に乗ったのは周知のことであり、また自治体レヴェルでは、廃棄物収集・処理を典型として、水道事業、病院建設・運営、保育所や幼稚園、そして学校経営等にも議論が及んでいる。勿論これらには、奏功している分野が多く見られるが、今日問うべきは、どこまで市場原理を導入するべきなのか、という点である。営利性と効率を基調とした市場原理のみでは最終的に達成しきれない価値が社会に必ず存在する、ということもまた、事実ではないだろうか。これは、ナショナルミニマム或いはシヴィルミニマムの達成、もしくはユニヴァーサルサーヴィスの確保といった観点でも議論されてきた。効率を追求する余り、逆に公平が損なわれてはいないだろうか。また、効率追求によって生じた余剰が、公平の促進に繋がっているだろうか。この観点で、公平と効率の間で均衡が図られる必要があるだろう。どのような状況で公平が優先され、また効率が優先されるのか、これを適切に判断する必要がある。本研究は、かかる議論に一つの方向性を示したものである。