著者
児玉 由布子 藤井 秀比古 川口 智子 中嶋 義記
出版者
一般社団法人 日本小児精神神経学会
雑誌
小児の精神と神経 (ISSN:05599040)
巻号頁・発行日
vol.59, no.4, pp.385-392, 2020 (Released:2020-01-06)
参考文献数
14

半年前の溶連菌感染症の罹患後,急性の強迫行為と摂食制限を呈し,低血糖と脱水症状に至った6歳女児例を報告する.特に誘引なく,朝の着替え,朝食のやり直し行為が始まり,次第に強迫行為が長くなり,食事も摂れなくなったため当科へ紹介入院となった.低血糖および脱水所見を認め,A群溶血性レンサ球菌(GAS)抗原検査は陰性,頭部MRI,髄液検査にて明らかな異常を認めなかった.入院後,補液を開始し,低血糖と脱水症状の改善とともに,強迫行為と摂食の回復がみられ退院となった.その後症状なく経過していたが,約1年半後に同様の強迫行為が出現した.外来にて経過観察し1か月ほどで自然軽快した.経過中に施行したGAS抗原検査は陽性,咽頭培養にてSt. pyogenesを検出した.臨床経過から,溶連菌感染に関連した自己免疫性神経疾患である小児自己免疫性溶連菌関連性精神神経障害(Pediatric Autoimmune Neuropsychiatric Disorder Associated with Streptococcal infections;PANDAS)や,明らかな先行感染がなく急性発症するOCD症状を包括した疾患概念としての小児急性発症神経精神症候群(Pediatric Acute-onset Neuropsychiatric Syndrome;PANS)が疑われた.今後の類似症例の蓄積が望まれる.
著者
和田 久泰 藤井 秀比古 清島 満 斉藤 邦明 山田 泰弘 関川 賢二 和田 久泰
出版者
岐阜大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

動脈硬化病巣にはコレステロールの蓄積を中心として,マクロファージ,平滑筋細胞,Tリンパ球などが存在しており,これらの細胞群は種々のサイトカインを分泌している.従って,これらのサイトカイン,とりわけproinflammatory cytokineであるTNF-α(tumor necrosis factor-α)は動脈硬化の発症,進展に深く関与していると想定される.しかし,現在までのところ動脈硬化に対するTNF-αの関与を直接的に証明した成績は認められない.本研究では,TNF-αノックアウトマウス(TNF-αKO)とアポリポ蛋白E(ApoE)ノックアウトマウス(ApoE KO)を交配させることによって樹立したダブルノックアウトマウス(TNF-α/ApoE KO)を用い,動脈硬化発症におけるTNF-α.の役割を直接的に証明した.ApoE KOとTNF-α/ApoE KOの血清コレステロール値はWild-type(C57BL/6J)に比べて著明に上昇し,超低比重リポ蛋白(VLDL)コレステロールがその主体を占めていた.しかし,ApoE KOとTNF-α/ApoE KOとの間に有意な差を認めなかった.一方,大動脈基部における動脈硬化病変の大きさを比較すると,TNF-α/ApoE KOはApoE KOに比して動脈硬化病変が有意に減少していた.さらに,大動脈におけるRT-PCR分析および免疫染色により,接着因子(ICAM-1,VCAM-1)やケモカイン(MCP-1)の発現が,ApoE KOに比べTNF-α/ApoE KOにおいて有意に少ないことを認めた.以上の成績より,TNF-αは接着因子やケモカインの発現を誘導してマクロファージの接着・遊走を促進し,動脈硬化病変の形成に促進的に働いていることが示された.