著者
藤井 英彦
出版者
独立行政法人 労働者健康安全機構 労働安全衛生総合研究所
雑誌
労働安全衛生研究 (ISSN:18826822)
巻号頁・発行日
pp.JOSH-2022-0016-GE, (Released:2022-10-27)
参考文献数
23

近年,長時間労働は労働者の脳血管疾病や精神疾患を発症させ,場合によっては自ら命を絶つケースも見られる等社会的な問題となっている.政府は,働き方改革を提唱し,2019年4月に労働関連法を改正し,時間外労働の上限について,これまでの「実質的な上限なし」の制度から,単月100時間未満,複数月で月平均80時間を上限とし,上限を超過した場合には罰則を設けるという過重労働防止策を実施した.本研究では,政府が設けた時間外労働の上限規制の妥当性を検証する目的で,労働時間と労働者の主観的健康感との関係に関して,労働者の主観的健康感が悪化する労働時間数を,パネルデータを用いて分析した.その結果,月間労働時間が210時間を超えると労働者の健康状態の悪化することが統計的に明らかになった.月間労働時間210時間は時間外労働に換算すると50時間に相当することから,2019年4月に設けられた時間外労働時間単月で100時間,複数月で月平均80時間という上限規制は,労働者の健康障害を防止する観点から見ると必ずしも十分とは言えない.また,性別により労働者の主観的健康感が悪化する労働時間数が異なり,女性の閾値の低いことが明らかになった.一方,仕事の自律性という仕事管理が,長時間労働に伴う主観的健康感状態の悪化を緩和することが明らかになった.