著者
今北 哲平 田治米 佳世 池成 早苗
出版者
独立行政法人 労働安全衛生総合研究所
雑誌
労働安全衛生研究 (ISSN:18826822)
巻号頁・発行日
pp.JOSH-2019-0018-GE, (Released:2020-02-21)
参考文献数
44

医療現場では,患者や患者家族から職員に対するセクシュアルハラスメントが問題となっている.そこで本研究では,病院に勤務する職員478名を対象として,患者等から職員に対するセクシュアルハラスメントの実態調査を実施した.その結果,患者等からのセクシュアルハラスメントの被害経験率は42.7%であり,すべての職種,性別に被害経験があった.被害内容は「身体の一部への接触」,「容姿のことを言われる」,「性的行為を迫られる」,「性差別的発言や扱い」など多岐にわたっていた.ロジスティック回帰分析の結果からは,看護・介護職は「容姿」(aOR = 2.64 [1.12-6.20]),リハビリ職は「抱きつき」(aOR = 4.04 [1.41-11.60])や「性的話題」(aOR = 2.50 [1.06-5.87]),事務職は「性的質問」(aOR = 5.17 [1.39-19.20])というセクシュアルハラスメントを,他の職種よりも有意に受けやすい可能性が示された.一方,被害について一度も相談したことがないと回答した人は被害経験者のうちの46.5%であり,相談しなかった理由は「大したことではないと思った」,「相談しても意味がないと思った」,「我慢しなければならないと思った」,「患者の疾患特性によるものだと思った」など多岐にわたっていた.本研究の結果から,職種や性別を限定せず,かつセクシュアルハラスメントの定義や具体例を示すことで,適切な実態把握ができる可能性が示された.さらに,被害についての相談を促進するためには,相談行動の阻害要因ごとに取り組みを検討することが有効と考えられた.
著者
梅崎 重夫 福田 隆文 齋藤 剛 清水 尚憲 木村 哲也 濱島 京子 芳司 俊郎 池田 博康 岡部 康平 山際 謙太 冨田 一 三上 喜貴 平尾 裕司 岡本 満喜子 門脇 敏 阿部 雅二朗 大塚 雄市
出版者
独立行政法人 労働安全衛生総合研究所
雑誌
労働安全衛生研究 (ISSN:18826822)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.13-27, 2014 (Released:2015-03-26)
参考文献数
19

日本の強みは,現場の優秀な作業者や管理・監督者及び生産技術者が質の高い安全管理と生産技術に基づく改善を実施していることにある.したがって,この“現場力”を基盤に置いた上で,技術に基づく安全の先進国と言われる欧州の機械安全技術や社会制度を適切に活用すれば,日本の現場力と欧州の機械安全技術を高次の次元で融合させた新しい枠組みの安全技術と社会制度を構築できる可能性がある.本稿では,以上の観点から日本で望まれる法規制及び社会制度のあり方を検討した.その結果,今後の日本の社会制度では,安全をコストでなく新たな価値創造のための投資として位置づけること,高い当事者意識と安全な職場を構築しようとする共通の価値観を関係者間で共有すること,及び再発防止から未然防止,件数重視から重篤度重視への戦略転換と想定外の考慮が重要と推察された.また,実際の機械の労働災害防止対策では,特に経営者及び設計者に対して欧州機械安全の基本理念と災害防止原則を普及促進するとともに,①ISO12100に定めるリスク低減戦略,②モジュール方式による適合性評価と適合宣言に関する情報伝達を目的としたマーキング,③マーキングの情報に基づく機械の使用段階での妥当性確認,④機械の設計・製造段階への災害情報のフィードバックが特に重要と考えられた.
著者
土屋 政雄 馬ノ段 梨乃 北條 理恵子
出版者
独立行政法人 労働安全衛生総合研究所
雑誌
労働安全衛生研究 (ISSN:18826822)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.19-23, 2017-02-28 (Released:2017-03-03)
参考文献数
24
被引用文献数
1

ストレスチェック制度の開始により,労働者のセルフケアに対する関心も高まっていくことが予想される.制度のねらいから,生産性向上を視野に入れたセルフケアの普及が望まれる.本稿では,「マインドフルネス」や「アクセプタンス」といった概念を用いた方法について,その特徴,科学的根拠,実施する際の参考となる情報などを解説する.先行研究よりマインドフルネスについてはすでに多くの研究が行われているが,アクセプタンスに関する研究は数が少なく,途中段階であることが明らかとなった.ストレス症状低減についてはどちらも一定の効果が期待されるが,生産性向上についてはさらなる研究の蓄積が必要と思われる.
著者
前田 光哉
出版者
独立行政法人 労働安全衛生総合研究所
雑誌
労働安全衛生研究 (ISSN:18826822)
巻号頁・発行日
pp.JOSH-2015-0025-CHO, (Released:2016-08-11)
参考文献数
66

2011年の東電福島第一原発事故の教訓を踏まえ,厚生労働省においては,今後仮に原子力発電所に事故が発生した場合に備え,労働者が緊急作業に従事している間の被曝線量の管理について検討した.検討の基本的な考え方は,①ICRPの正当化原則,②緊急被曝限度の考え方,③原子力災害の危機管理の観点,④ICRPの最適化原則に基づくものであった.厚生労働省は,検討結果を基に2015年8月に改正電離則を公布した.改正の内容は,①特例緊急被曝限度の設定,②特例緊急作業従事者の限定,③被曝線量管理の最適化,④特例緊急作業従事者に係る記録等の提出等,⑤緊急作業従事者の線量の測定及びその結果の確認,記録,報告等の5点である.また,特例緊急被曝限度の設定に当たっては,数多くの文献レビューの結果に基づき検討したが,同様に低線量被曝の文献レビューを行った食品安全委員会及び低線量被曝のリスク管理に関するワーキンググループの検討結果を紹介するとともに,最近の低線量被曝に係る主要な文献の内容を紹介した.今後,放射線作業に従事する労働者の線量管理方策を検討する場合は,高線量の急性被曝だけではなく,低線量の慢性被曝による健康影響を考慮に入れる必要がある.それに備えて,長期的に労働者を追跡した疫学研究を積極的に推進していく必要がある.
著者
生田 孝
出版者
独立行政法人 労働安全衛生総合研究所
雑誌
労働安全衛生研究 (ISSN:18826822)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.13-21, 2014 (Released:2014-04-13)
参考文献数
31
被引用文献数
1 1

いわゆる「新型うつ病」が近年世間に広まり,産業保健の現場でも「新型うつ病」の社員にどのように対処すべきか,多くの企業で喫緊の問題となっている.しかしながら,精神医学的に見ればいわばこれは「ゴッタ煮」概念であり,そこには,疾患としてのうつ病や軽度の精神病,神経症,ある種のパーソナリティ障害,適応障害,怠業や逃避行動,あるいは健常者における一過性の不適応行動まで含まれており,学問的な信頼性と妥当性を有した疾患概念ではない.しかしながらそれは,いわば現代日本の時代精神を反映している.その意味で「新型うつ病」は,極めて流動的であり,数十年の時間スパンに耐えうるかどうかは疑問である.その内実を知るには,精神疾患の成因論的視点が不可欠であり,少なくとも当該者の対応には,経験を積んだ精神科医による詳細な生活史の把握と成因論的(つまり,心因性・内因性・外因性の)見方,および状況因と性格因的視点が不可欠である.
著者
髙田 琢弘 吉川 徹 佐々木 毅 山内 貴史 高橋 正也 梅崎 重夫
出版者
独立行政法人 労働安全衛生総合研究所
雑誌
労働安全衛生研究 (ISSN:18826822)
巻号頁・発行日
pp.JOSH-2020-0022-GE, (Released:2021-02-11)
参考文献数
26

本研究は,過労死等の多発が指摘されている業種・職種のうち,教育・学習支援業(教職員)に着目し,それらの過労死等の実態と背景要因を検討することを目的とした.具体的には,労働安全衛生総合研究所過労死等防止調査研究センターが構築した電子データベース(脳・心臓疾患事案1,564件,精神障害・自殺事案2,000件,平成22年1月~平成27年3月の5年間)を用い,教育・学習支援業の事案(脳・心臓疾患事案25件,精神障害・自殺事案57件)を抽出し,性別,発症時年齢,生死,職種,疾患名,労災認定理由および労働時間以外の負荷要因,認定事由としての出来事,時間外労働時間数等の情報に関する集計を行った.結果から,教育・学習支援業の事案の特徴として,脳・心臓疾患事案では全業種と比較して長時間労働の割合が大きい一方,精神障害・自殺事案では上司とのトラブルなどの対人関係の出来事の割合が大きかったことが示された.また,教員の中で多かった職種は,脳・心臓疾患事案,精神障害・自殺事案ともに大学教員と高等学校教員であった.さらに,職種特有の負荷業務として大学教員では委員会・会議や出張が多く,高等学校教員では部活動顧問や担任が多いなど,学校種ごとに異なった負荷業務があることが示された.ここから,教育・学習支援業の過労死等を予防するためには,長時間労働対策のみだけでなく,それぞれの職種特有の負担を軽減するような支援が必要であると考えられる.
著者
高橋 正也
出版者
独立行政法人 労働安全衛生総合研究所
雑誌
労働安全衛生研究 (ISSN:18826822)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.23-30, 2014 (Released:2014-04-13)
参考文献数
43
被引用文献数
1

労働者の安全と健康を確保するためには,労働の量的および質的側面の改善が必要である.現在でも,長時間労働の削減や職場の心理社会的環境の改善に向けて,多くの努力がなされている.このような職場の労働条件の向上に加えて,職場以外における過ごし方,特に余暇,を適正にすることは,労働安全衛生の水準をさらに高めるのに有益であると期待されている.最も基本的な余暇は終業後から次の勤務までの時間である.欧州連合の労働時間指令に示されているように,この時間間隔の確保はなにより重要であり,そこで行われる休養や睡眠の充実に不可欠である.同時に,労働に費やす時間の減少にもつながる.一日ごとの余暇活動の中でも,量的および質的に充分な睡眠は労働者の安全,疲労回復,健康維持に必須であることが実証されている.一方,週休二日制であれば,週末に二日間にわたる休日が得られる.こうした一週ごとの余暇を適切に過ごせると(例えば,長い朝寝を避ける),疲労回復には一定の効果がある.ただし,週内で蓄積した睡眠不足による心身への負担を完全に解消するのは難しいことに留意する必要がある.さらに,良好な睡眠を長年にわたってとれない状況が続くと,高血圧,心疾患,糖尿病,肥満などの健康障害が起こりやすくなるばかりか,筋骨格系障害や精神障害などの理由で早期に退職せざるをえない確率が2~3倍高まることが示されている.多くの労働者では,一生の中で労働者として過ごす時間はほぼ半分を占める.一生涯の生活の質を高めるためにも,労働時間の中,そして外の要因(余暇と睡眠)が最適化されなければならない.この課題を達成するには,行政,事業所,労働者個人それぞれの層で,余暇の見直しと根拠に基づいた実践が求められる.
著者
冨田 一 崔 光石 中田 健司 本山 建雄
出版者
独立行政法人 労働安全衛生総合研究所
雑誌
労働安全衛生研究 (ISSN:18826822)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.27-36, 2008 (Released:2013-07-02)
参考文献数
34
被引用文献数
1

既に100/200Vから220/380Vに昇圧された韓国と我が国との電気火災および感電事故を比較して,将来、我が国が低圧の配電電圧として230/400Vが採用された場合に想定される電気安全上の課題について留意点を抽出した.昇圧の進展と電気火災発生件数には相関性が見られ,電気火災の主因である短絡は,その発生過程の究明と防止対策が電気火災防止にとって重要になる.昇圧化後にも老朽設備を使用し続けると,電気火災が発生し易くなるので特に注意が必要である.昇圧の進展と感電死傷者数には相関性が見られない.この要因には,有効な接地方式の選定や漏電遮断器の普及が感電事故の抑制に寄与したことが考えられる.昇圧による電気事故を防止するには,配電方式や対地電圧に応じた適切な接地方式の選定や接地技術の開発,電気設備,漏電遮断器の安全性向上などのハード面の安全対策に加えて,電気安全関連法令の遵守,定期点検の徹底,老朽設備を適切に運用するためにメンテナンス体制の整備などのソフト面での安全管理体制の確立も重要である.
著者
芳司 俊郎 池田 博康 岡部 康平 齋藤 剛
出版者
独立行政法人 労働安全衛生総合研究所
雑誌
労働安全衛生研究 (ISSN:18826822)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.3-15, 2012 (Released:2012-08-03)
参考文献数
7
被引用文献数
1

1980年に我が国で産業用ロボットの本格的な普及が始まってから約30年が経過した.その間,労働安全衛生規則において産業用ロボットの運用規制がなされているにもかかわらず,依然として,労働災害が発生している.そのため,その要因を調査し,労働安全衛生規則の在り方を検討するため,本論文では,産業用ロボットによる労働災害に見られる問題点を分析した.その結果,多くが自動運転中に,何らかのトラブル等で可動範囲内に立ち入って被災するケースが多く,同規則の有効性の検討が必要と考えられた.これは,規則自体の問題なのか否かを調べるため,日本工業規格と労働安全衛生規則の規定の比較を行ったところ,技術的方策の差異と,現実の担当範囲の違いがあることが明らかとなった.また,ロボットメーカとユーザへのアンケートにより,これらの問題点を聞いたところ,両者の規定内容の差異を問題視しており,内容の整合を求めていることが確認された.これらの結果を踏まえ,労働安全衛生規則等に関して,(1)産業用ロボット本体及び設置後の残留リスクをユーザに情報提供すること,(2)技術の進展等に伴う新たな課題について規定すること,(3)日本工業規格と労働安全衛生規則の役割の違いに留意しつつ両者の整合性を図ること等の提言を行った.
著者
濱島 京子
出版者
独立行政法人 労働安全衛生総合研究所
雑誌
労働安全衛生研究 (ISSN:18826822)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.25-31, 2017-02-28 (Released:2017-03-03)
参考文献数
13
被引用文献数
1

理工学系大学の学部生に向けた安全学の教育では,学生らが,災害防止における将来の自らの役割を自覚し,まずは技術的側面から問題を解決する考え方を習得することを目標とすべきである.リスクアセスメントの教育は重要であるが,単に手法を解説する方法ではこの目標を達成することはできない.そこで,リスクアセスメントの手順を,問題解決の思考様式を研究する分野での,一般的な問題解決の考え方からながめると,リスクアセスメントが災害防止に有効であるための,条件がみえてくる.この分野では,問題には構造があり,構造を変えることが解決である,と考える.これより,災害の問題構造をとらえて構造を変える力が人や組織にあることが,リスクアセスメント実施の前提条件となる.教育では,この観点に基づいて内容を組み立てる必要があるものと考える.さらに,労働安全分野でのリスクアセスメント教育に関する考察として,問題解決における構造の考え方を用いると,リスクアセスメントと危険予知との違いを区別することができることを示す.
著者
今北 哲平 田治米 佳世 池成 早苗
出版者
独立行政法人 労働安全衛生総合研究所
雑誌
労働安全衛生研究 (ISSN:18826822)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.11-22, 2020

<p>医療現場では,患者や患者家族から職員に対するセクシュアルハラスメントが問題となっている.そこで本研究では,病院に勤務する職員478名を対象として,患者等から職員に対するセクシュアルハラスメントの実態調査を実施した.その結果,患者等からのセクシュアルハラスメントの被害経験率は42.7%であり,すべての職種,性別に被害経験があった.被害内容は「身体の一部への接触」,「容姿のことを言われる」,「性的行為を迫られる」,「性差別的発言や扱い」など多岐にわたっていた.ロジスティック回帰分析の結果からは,看護・介護職は「容姿」(aOR = 2.64 [1.12-6.20]),リハビリ職は「抱きつき」(aOR = 4.04 [1.41-11.60])や「性的話題」(aOR = 2.50 [1.06-5.87]),事務職は「性的質問」(aOR = 5.17 [1.39-19.20])というセクシュアルハラスメントを,他の職種よりも有意に受けやすい可能性が示された.一方,被害について一度も相談したことがないと回答した人は被害経験者のうちの46.5%であり,相談しなかった理由は「大したことではないと思った」,「相談しても意味がないと思った」,「我慢しなければならないと思った」,「患者の疾患特性によるものだと思った」など多岐にわたっていた.本研究の結果から,職種や性別を限定せず,かつセクシュアルハラスメントの定義や具体例を示すことで,適切な実態把握ができる可能性が示された.さらに,被害についての相談を促進するためには,相談行動の阻害要因ごとに取り組みを検討することが有効と考えられた.</p>
著者
今北 哲平 田治米 佳世 池成 早苗
出版者
独立行政法人 労働安全衛生総合研究所
雑誌
労働安全衛生研究 (ISSN:18826822)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.11-22, 2020-02-28 (Released:2020-02-29)
参考文献数
44

医療現場では,患者や患者家族から職員に対するセクシュアルハラスメントが問題となっている.そこで本研究では,病院に勤務する職員478名を対象として,患者等から職員に対するセクシュアルハラスメントの実態調査を実施した.その結果,患者等からのセクシュアルハラスメントの被害経験率は42.7%であり,すべての職種,性別に被害経験があった.被害内容は「身体の一部への接触」,「容姿のことを言われる」,「性的行為を迫られる」,「性差別的発言や扱い」など多岐にわたっていた.ロジスティック回帰分析の結果からは,看護・介護職は「容姿」(aOR = 2.64 [1.12-6.20]),リハビリ職は「抱きつき」(aOR = 4.04 [1.41-11.60])や「性的話題」(aOR = 2.50 [1.06-5.87]),事務職は「性的質問」(aOR = 5.17 [1.39-19.20])というセクシュアルハラスメントを,他の職種よりも有意に受けやすい可能性が示された.一方,被害について一度も相談したことがないと回答した人は被害経験者のうちの46.5%であり,相談しなかった理由は「大したことではないと思った」,「相談しても意味がないと思った」,「我慢しなければならないと思った」,「患者の疾患特性によるものだと思った」など多岐にわたっていた.本研究の結果から,職種や性別を限定せず,かつセクシュアルハラスメントの定義や具体例を示すことで,適切な実態把握ができる可能性が示された.さらに,被害についての相談を促進するためには,相談行動の阻害要因ごとに取り組みを検討することが有効と考えられた.
著者
久保 智英
出版者
独立行政法人 労働安全衛生総合研究所
雑誌
労働安全衛生研究 (ISSN:18826822)
巻号頁・発行日
pp.JOSH-2016-0007-SHI, (Released:2017-01-20)
参考文献数
34

本稿では,近未来の働き方とそれによる労働者の疲労問題,そしてその対策について,先行研究を踏まえながら,著者の私見を述べた.その論点は,1)情報通信技術の発達による飛躍的な労働生産性の向上は,これまで労働者の生活時間のゆとりではなく,逆に新たなる作業時間に結びつく可能性があること,2)その影響により,労働者の働き方は,いつでもどこでも仕事につながることができ,ますます,オンとオフの境界線が曖昧になるかもしれないこと,3)その疲労対策としては,オフには物理的に仕事から離れるだけではなく,心理的にも仕事の拘束から離れられるような組織的な配慮と個人的な対処が重要であること,4)最近,注目されている勤務間インターバル制度と,勤務時間外での仕事のメールなどの規制としての「つながらない権利」を疲労対策として紹介したこと,に要約できる.いずれにしても,公と私の境界線がもともと曖昧なわが国の労働者にとっては,オフを確保することが近未来に生じうる労働者の疲労問題に対しての有効な手立てとなるだろう.
著者
菅間 敦
出版者
独立行政法人 労働安全衛生総合研究所
雑誌
労働安全衛生研究
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.55-58, 2017

<p>脚立は業種を問わずあらゆる場所で見かける用具であり,軽作業で利用される機会が多いが,その使用方法を誤れば転落などの災害に繋がり,場合によっては死亡に至るケースもある.本研究では,安全な脚立作業の確立に向けて,脚立使用中の労働災害に関する統計分析によりその実態を明らかにするとともに,災害発生防止に向けた取り組みについての提言を行う.特に,脚立上で作業者がバランスを崩して転落するケースが多いことから,脚立上での作業時における身体姿勢の不安定性の評価結果に基づいて適切な脚立の使用方法について述べる.</p>
著者
高橋 正也
出版者
National Institute of Occupational Safety and Health
雑誌
労働安全衛生研究 (ISSN:18826822)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.23-30, 2014

労働者の安全と健康を確保するためには,労働の量的および質的側面の改善が必要である.現在でも,長時間労働の削減や職場の心理社会的環境の改善に向けて,多くの努力がなされている.このような職場の労働条件の向上に加えて,職場以外における過ごし方,特に余暇,を適正にすることは,労働安全衛生の水準をさらに高めるのに有益であると期待されている.最も基本的な余暇は終業後から次の勤務までの時間である.欧州連合の労働時間指令に示されているように,この時間間隔の確保はなにより重要であり,そこで行われる休養や睡眠の充実に不可欠である.同時に,労働に費やす時間の減少にもつながる.一日ごとの余暇活動の中でも,量的および質的に充分な睡眠は労働者の安全,疲労回復,健康維持に必須であることが実証されている.一方,週休二日制であれば,週末に二日間にわたる休日が得られる.こうした一週ごとの余暇を適切に過ごせると(例えば,長い朝寝を避ける),疲労回復には一定の効果がある.ただし,週内で蓄積した睡眠不足による心身への負担を完全に解消するのは難しいことに留意する必要がある.さらに,良好な睡眠を長年にわたってとれない状況が続くと,高血圧,心疾患,糖尿病,肥満などの健康障害が起こりやすくなるばかりか,筋骨格系障害や精神障害などの理由で早期に退職せざるをえない確率が2~3倍高まることが示されている.多くの労働者では,一生の中で労働者として過ごす時間はほぼ半分を占める.一生涯の生活の質を高めるためにも,労働時間の中,そして外の要因(余暇と睡眠)が最適化されなければならない.この課題を達成するには,行政,事業所,労働者個人それぞれの層で,余暇の見直しと根拠に基づいた実践が求められる.
著者
池田 大樹 久保 智英 松元 俊 新佐 絵吏 茅嶋 康太郎
出版者
独立行政法人 労働安全衛生総合研究所
雑誌
労働安全衛生研究 (ISSN:18826822)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.51-59, 2019-02-28 (Released:2019-02-28)
参考文献数
28

本研究では,職場環境改善の取組み時における勤務時間外の仕事に関する行動(メール確認,自宅仕事)が,労働者の睡眠や疲労,生産性等に及ぼす影響を検討した.製造業の中小企業において,組織体制の変更,勤務 開始時刻の多様化,勤務体制の多様化,作業環境の変更の4つの職場環境改善取組みが実施された.調査は,職場環境改善の約1か月前(事前調査),3,6,12か月後の計4回実施し,調査の同意が得られた36名を分析対 象とした.調査内容として,基本属性,睡眠の質,勤務時間外における仕事との心理的距離,生産性,疲労回復状況等を測定した.また,勤務時間外における仕事に関するメールの確認,自宅での仕事に関する設問を設け,その有無により,群分けを行った.線形混合モデル分析を行った結果,生産性に群と調査時期の交互作用が見 られ,自宅仕事が有った群のみ,職場環境改善前と比較して3か月後の生産性が低下したこと,無かった群と比較して3,6,12か月後の生産性が低かったことが示された.また,調査時期の主効果が睡眠の質と疲労回復 に見られ,職場環境改善後にそれらの改善及び改善傾向が生じたことが示された.また,群の主効果が心理的距離に見られ,勤務時間外にメール確認が無かった群は,有った群と比較して,勤務時間外に仕事との心理的距離が取れていたこと,一方,自宅仕事が無かった群は,有った群と比較して,心理的距離だけでなく,睡眠の質や疲労回復状況も良いことが示された.以上により,職場環境改善時における仕事関連の行動が労働者の生産性に影響を及ぼすこと等が示された.今後,職場環境改善の一環として,職場外・勤務時間外における働き方・休み方の改善も検討していく必要があると考えられる.
著者
板垣 晴彦
出版者
独立行政法人 労働安全衛生総合研究所
雑誌
労働安全衛生研究 (ISSN:18826822)
巻号頁・発行日
pp.JOSH-2019-0005-TA, (Released:2019-03-22)
参考文献数
4

爆発火災事例について,災害規模曲線を用い,発生件数と重篤度について分析した.災害規模として死傷者数,発生頻度の密度関数として事故件数の累積確率を採用したところ,両対数グラフ上において直線関係が認められた.その直線の傾きは重篤度を表しており,発生件数とともにどのように遷移するかを調べた.全産業の平均については,年月の経過に伴い,まず発生件数が減少し,その後に重篤度が低くなったとわかった.化学工業の重篤度は建設業の重篤度よりも明瞭に高かった.ただし,年月が経過した際の重篤度の変化は,いずれも明確ではなかった.さらに,業種や災害の種類別についての分析結果が示された.
著者
松元 俊 久保 智英 井澤 修平 池田 大樹 高橋 正也 甲田 茂樹
出版者
独立行政法人 労働安全衛生総合研究所
雑誌
労働安全衛生研究 (ISSN:18826822)
巻号頁・発行日
pp.JOSH-2019-0021-GE, (Released:2019-12-06)
参考文献数
23

本研究は,脳・心臓疾患による過労死の多発職種であるトラックドライバーにおいて,労災認定要件であ る過重負荷と過労の関連について質問紙調査を行った.1911人の男性トラックドライバーから,属性,健康状態, 過重負荷(労働条件:運行形態,時間外労働時間,夜間・早朝勤務回数,休息条件:睡眠取得状況,休日数),疲労感に関する回答を得た.運行形態別には,地場夜間・早朝運行で他運行に比して一か月間の時間外労働が 101時間を超す割合が多く,深夜・早朝勤務回数が多く,勤務日の睡眠時間が短く,1日の疲労を持ち越す割合 が多かった.長距離運行では地場昼間運行に比して夜勤・早朝勤務回数が多く,休日数が少なかったものの, 睡眠時間は勤務日も休日も長く,過労トラックドライバーの割合は変わらなかった.過労状態は,1日の疲労の持ち越しに対して勤務日と休日の5時間未満の睡眠との間に関連が見られた.週の疲労の持ち越しに対しては,一か月間の101時間以上の時間外労働,休日の7時間未満の睡眠,4日未満の休日の影響が見られた。運行形態間で労働・休息条件が異なること,また1日と週の過労に関連する労働・休息条件が異なること,過労に影響 を与えたのは主に睡眠時間と休日数の休息条件であったことから,トラックドライバーの過労対策には運行形態にあわせた休日配置と睡眠管理の重要性が示唆された.
著者
日野 泰道
出版者
独立行政法人 労働安全衛生総合研究所
雑誌
労働安全衛生研究 (ISSN:18826822)
巻号頁・発行日
vol.3, no.2, pp.137-142, 2010 (Released:2011-03-16)
参考文献数
8
被引用文献数
2

我が国では,台風や地震等の自然災害が毎年発生するため,それに伴う災害復旧工事も毎年行われる。災害復旧工事は,平時の工事と比較して,緊急性などの特別な工事条件が存在するため,十分な仮設設備を準備・設置することが困難となる場合がある。ゆえに安全な作業を行うためには,そのような工事環境を想定した安全対策を事前に準備しておく必要がある。ところが,災害復旧工事における労働災害の定量的な分析は,あまりなされていないため,その災害防止対策も,十分に整備されているとはいえないと考えられる。特に大規模災害の復旧工事の経験が乏しい地場中小建設業者では,そのような環境下での安全対策立案のための適切な情報・ノウハウが整っていない場合があり,安全対策の不備による労働災害の発生が懸念される。そこで本研究は,過去に発生した災害復旧工事における災害発生状況について定量的な検討を行い,安全対策の基礎資料を提供することを目的とした。検討の結果,災害復旧工事の災害種別には,建築工事と土木工事で大きな違いがあることがわかった。土木工事では,墜落災害に加えて建設機械に起因する災害や土砂崩壊災害など,典型的な災害は数種類あることが分かった。一方,建築工事では,典型的な災害としては墜落災害が挙げられ,特に死亡災害の約9割を占めている事が分かった。そこで本報では,建設工事において最も発生件数の多い墜落災害を取り上げ,土木工事と建築工事に分けて,その災害発生原因等の特徴について更に整理を行った。
著者
井澤 修平 小川 奈美子 原谷 隆史
出版者
独立行政法人 労働安全衛生総合研究所
雑誌
労働安全衛生研究 (ISSN:18826822)
巻号頁・発行日
vol.3, no.2, pp.119-124, 2010 (Released:2011-03-16)
参考文献数
26
被引用文献数
8 3

心理社会的ストレスは職場において問題となっており,その生理学的な評価方法の一つとして唾液中コルチゾールが注目されている.本稿では,日常場面において唾液を複数回採取する手順を取り上げ,それによって評価できるコルチゾールの3つの指標(一日分泌量,傾き,起床時反応)の特徴や心理社会的ストレスとの関連を概説した.3つの指標は,一日の中のコルチゾールの分泌リズムをそれぞれ反映するものであり,また異なった性質のストレスをそれぞれ反映していると予想される.こういった特徴や現場での採用可能な手段を考慮して,唾液中コルチゾールを有効に用いることが職場の心理社会的ストレスの評価にあたって重要と考えられる.