著者
藤原 香織 渡辺 澄夫
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J91-D, no.4, pp.889-896, 2008-04-01

仮説検定とは,データが帰無仮説から発生していると考えることに無理があるかどうかを統計的に判断することである.仮説検定のアルゴリズムを作るためには,帰無仮説が真であると仮定したもとで,帰無仮説と対立仮説の対数ゆう度比の確率的な挙動を理論的に導出する必要があるが,特異モデルにおいては,フィッシャー情報行列が正則行列でなく,最ゆう推定量は存在する場合においても漸近的に正規分布に従わず,対数ゆう度は χ2 分布に法則収束しない.このため従来の統計的正則モデルで用いられている仮説検定手法を特異モデルに適用することはできないことが知られている.仮説検定において,帰無仮説と対立仮説がともに確率分布で与えられる場合には,ベイズ対数ゆう度比を用いた検定によって,同じ危険率のもとで検出力が最大になる.そこで,本研究では特異モデルのベイズ検定においてベイズ対数ゆう度比を用いる方法を考察し,特異モデルにおいてもベイズゆう度比の漸近挙動の導出が可能であることを明らかにする.また具体的な応用例として時系列変化問題を扱う場合における理論解析を行う. 実験により,本仮説検定法を用いた変化検出法が,適切に変化を検出し,雑音に強い変化検出法であることを明らかにする.