著者
藤尾 伸三
出版者
東京大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1998

2年計画の最終年であり,診断モデルによりLevitus et al.(1994)による水温・塩分データセットから流速場を計算した.モデルは全体として観測などによる海洋循環像をよく再現する.1991年に行った結果を比較しても,モデルのエラーは小さくなった.水温・塩分データ(Levitus,1981)が更新され,精度が向上したことやモデルの解像度を高めた(水平2度,鉛直15層から水平0.5度,鉛直29層),海底地形をより正確に再現できたことによる.深層での流れを調べるため,標識粒子を投入してその移動を調べた.深層水の起源とされるグリーンランド沖やウェッデル海に投入した標識粒子の一部は北太平洋の深層に達することが確かめられた.最も速い粒子の移動に要する時間は200年程度であり,化学トレーサーなどからの数千年という推定とは異なるが,主に混合・拡散の効果をモデルでは無視しているためであり,今後の課題である.標識粒子により同定された深層水の移動経路などを今後,観測などと比較し,その確からしさなどを把握する必要もある.なお,モデル計算と合わせて,日本東方域の流速観測・CTD観測データなどの解析も行い,伊豆小笠原海溝における北上・南下の流れを明らかにした.流速観測では局所的な地形の効果は明瞭である一方,CTD観測では水塊の性質が均一化されているため,循環がわかりづらい.これらをモデルと合わせることで深層循環に関する理解を深めることができよう.