著者
藤本 利一
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

過去数十年の間に,知的財産権は,世界経済において大きな役割を果たすようになった。今日においては,世界の名だたるトップメーカーの有する企業価値の多くが,それらの無形財産にあるといわれる。あるデータによれば,世界の主要企業に関して,その資産価値における知的財産権の占める割合は,1992年においては,6対4であったが,その10年後には,4対6の割合に変化したとされる。間違いなく,今日,ますます増大する世界的な企業間競争において,知的財産権は最も重要な資産である。このような状況のなかで、知的財産権およびそのライセンスに関して、重要な問題として認識されだしたものがある。すなわち、倒産処理手続における知的財産権の処遇である。たとえば、アメリカ法においても、各種知的財産権の処遇を規律するものとして、連邦レヴェルの法規制とともに、当該知的財産権を有する企業が、倒産した場合には、連邦倒産法の規律によることとなり、両者の相克が問題とされていた。すなわち、知的財産法においては、企業家および発明者の支配可能性を高めるため、知的財産権の譲渡可能性を制限しているのに対し、倒産法では、債権者にとって利用可能な資産価値を最大にするために、譲渡可能性を柔軟にしているという対立図式が明らかとなった。過去数十年にわたり、これらの対立をどのように処理するかが、企業再建という困難な局面で問われてきた。翻って、わが国の対応を見るならば、倒産法制はここ数年で大きく変革されたが、知的財産権への対応が必ずしも十分であるとはいいにくいようにも思われる。とくに,企業が倒産した際に,その知的財産権の価値をどのように評価し,またどのように売却等の処理をするかについては,まだ決め手がないということが明らかとなった。