著者
井内 陽三 能方 州二 藤本 和晃 木戸 直人 高倉 美樹 荒木 祐佳 加持 優一
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2003, pp.E0979, 2004

【はじめに】在宅生活者へのリハビリテーションを行う中で、環境整備などを目的に経験的に「滑り止めマット」(以下、マット)を使用する機会がある。しかし、その使用に関しては経験的なものが多い状態である。今回、安価に購入できる市販のマットを使用しての動作で、その変化をみる比較検討とアンケート調査を行ったので報告する。<BR>【対象】対象は、在宅生活を送る方で、起立動作が可能で、かつ3分間以上の連続した運動が可能な方。デイサービス、もしくは訪問リハビリを利用している45名(男13人、女32人、平均年齢75.26±9.95歳)。診断名は脳血管障害18名、骨関節疾患18名、その他9名(パーキンソン病、脊髄小脳変性症、廃用性症候群)である。<BR>【方法】素足で畳面の上での起立動作を3分間施行。初回は、「滑り止めマット」(塩化ビニル・アクリルの素材)非使用で起立動作施行。1週間後、マットを使用して起立動作を施行。開始肢位は膝関節90度屈曲位となる坐位姿勢。その際、運動施行前後での脈拍の測定(30秒×2)、時間内での施行回数の測定を行う。また、マット使用と非使用時の感想の聞き取り、足趾変形もしくは爪肥厚の有無の調査を行う。<BR>【結果】脈拍の平均増加率は、マット非使用21.1±13.17回、マット使用21.5±13.83回。起立回数は、マット非使用34.4±15.98回、マット使用35.4±16.94回となり、マット使用の前後では、脈拍の増加率、起立動作の回数には有意差は見られなかった。アンケート調査に関しては、滑り止めマット使用に関して全体の68%が「足元が滑らないので安心」「立ちやすい」など肯定的な意見。また、足趾変形もしくは爪の肥厚がある群では、67%で肯定的な意見が聞かれた。特に、足趾変形もしくは爪の肥厚を有し、脳血管障害による片麻痺、骨関節疾患があるものに対しては、肯定的な反応が得られた。また、足趾変形もしくは爪の肥厚がない群でも、69%の方が肯定的な意見となった。<BR>【考察】今回の条件設定では、運動前後での身体変化に有意差は認められなかった。これは、運動負荷の時間設定が長く、疲労の蓄積が大きく影響したためと考える。しかし、アンケート結果からマット使用に関しては、約7割に肯定的な意見が聞かれる事から、動作の質的な部分に影響があったと考えられる。また、足指変形もしくは爪の肥厚がある群では、マット使用に関し肯定的な反応の割合が高いため足底把持能力となんらかの関係があると推察される。今後、質的な面にも着目し、在宅生活での起居動作能力向上に結びつくように、マット使用効果の検証、効果的な使用方法、有用な使用者の調査を進めていく。