著者
藤枝 守
出版者
九州大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2016-04-01

本研究「発酵音響における芸術表現への応用」は、「発酵」という生命活動に着目した研究実践である。とくに、焼酎の生産過程におけるアルコール発酵において、その代謝エネルギーの変換によって排出される炭酸ガスの生みだす「音響」が研究のおもな対象としている。この発酵の音響に収録にあたっては、麹カビ菌の作用による酵母に麦や芋などを仕込んだ醪(もろみ)のなかに、特殊に養生加工した水中マイクを沈下して実施してきた。このような発酵状態を音響によって観察するという発想もきわめて独創的だと考えている。さらに、本研究においては、発酵音響に内包された音響特性を解明するとともに、そこに美学的な価値を与えて芸術表現を試みている。初年度では、集音システムの考案と収録方法の確立を中心に実践した。まず、集音システムにおいては、焼酎の発酵時の醪に沈下するためのあらたな水中マイクの設計/製作に取り込んだ。その際に、発酵の収録に最も適した高感度の圧電素子が醪の特性(高アルコール+高酸性)に対応する養生のあらたに容器を設計し、また、気泡が直接、マイクの本体に接触しないような形状を考案して、水中マイクの製作が完了した。そして、沖縄において、神谷酒造所、瑞泉酒造、新里酒造の3つの泡盛の酒造所にて発酵音の収録作業を行った。この沖縄での収録において、さまざまな問題点が浮上した。それは、これらの酒造所が近代的なシステムを取り入れた生産形態によっているのだが、温度設定における自動制御で醪を撹拌するために、多くのノイズが発生し、微細な発酵の音響を収録するうえでの妨げとなった。そして、2年目においては、このような近代的な生産方式によらない酒造所での収録の必要性が求められた。