著者
菅沼 泉 岩佐 弘一 藤澤 秀年 山中 薫子 松島 洋 安尾 忠浩 大久保 智治 岩破 一博 北脇 城
出版者
近畿産科婦人科学会
雑誌
産婦人科の進歩 (ISSN:03708446)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.81-87, 2011

心拍80bpm以下の高度徐脈性胎児不整脈の原因のほとんどは胎児完全房室ブロック(congenital complete atrioventricular block : CCAVB)による.CCAVBは20,000分娩に1例とまれであり,その半数は心奇形を合併する.心構造正常例における約半数は母体に膠原病を合併しており,在胎18週ごろから母体自己抗体が胎盤を通過し胎児の心刺激伝導系を傷害することで発症する.またCCAVBを発症した胎児は出生後心筋症の発症率が高い.CCAVBの出生前治療としてβ刺激薬やステロイドの経母体投与が試みられているがいまだ治療法は確立していない.今回われわれは出生前にCCAVBと診断しステロイド療法を行った,抗SS-A抗体合併妊娠の2症例を経験した.症例1は妊娠22週で徐脈を指摘され塩酸リトドリンおよびデキサメタゾン併用療法を施行したが,明らかな治療効果は認めず胎児心不全徴候が進行したため妊娠31週で緊急帝王切開術を行った.デキサメタゾンによる副作用は胎児には認めなかったが母体は満月様顔貌を呈した.症例2は妊娠25週で徐脈を指摘され塩酸リトドリンおよびプレドニゾロン併用療法を施行した.妊娠経過中胎児心不全徴候を認めず妊娠38週に選択的帝王切開術を行った.プレドニゾロンによる副作用は母児とも認めなかった.両症例とも出生後,児の経過は良好で心筋症も発症していない.CCAVBに対するステロイド療法の有用性は明らかではないが,胎盤へ移行した母体自己抗体によって惹起される心筋症の予防目的でステロイド療法を施行した.プレドニゾロンはデキサメタゾンより胎盤通過性は低く,その治療効果は不明であるがプレドニゾロン療法を行った症例においては母児への副作用を認めず,出生後心筋症の発症も認めなかった.ステロイドの選択を含めたCCAVBに対する出生前治療についてさらなる報告の集積が待たれる.〔産婦の進歩63(2):81-87,2011(平成23年5月)〕