著者
藤田 哲司
出版者
The Japan Sociological Society
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.45, no.3, pp.364-377, 1994-12-30 (Released:2009-10-13)
参考文献数
28

社会現象としての権威持続の中核は, 権威的指示の受容原理にあるものとして理解可能である。 そして, 本論文の目的は, 権威的指示の受容に関して敬意という要因を組み込んだメカニズムを想定し, 権威の安定を説明することである。権威の長期的安定 (権威的指示受容の長期的安定性) は, 1) 権威源泉の正統性にもとついて受容者個々人が自発的に受け入れるという側面と, 2) 受容者集団や社会圏内部で生ずる相互規制 (役割転換) によって受け入れを継続させられるという側面に分析できるが, いずれにおいても担い手に対する受容者の敬意が大きく関わっている。 つまり, 1) では, 二重の依存状態 (権威源泉-受容者, 担い手-受容者) の下で担い手が受容に関して何の期待もしないときに生じる敬意が, 源泉に対する正統性信念を喚起することによって, 受容を促進する要因となる。 2) では, 役割転換が受容継続を生み出すが, そこにも受容者個々人がいだく敬意がはたらいている。 受容者たちが自発的に逸脱者と敵対して受容圧力をかけるとともに, 通常時にも逸脱そのものを押さえることによって, 権威安定が結果する。 この権威の安定には, 自発性が深く関与するのに対し, 変化には源泉の優越的価値への合理的依存が関与している。 状況変化に伴う受容者期待分岐による役割転換の遅滞が, 権威現象変化の契機となる。