著者
藪内 稔
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.57-65, 1986-08-20 (Released:2010-11-26)
参考文献数
20

Howard (1966) のPDディレンマに対する解の定式化は条件付方略のいくつかのレベルを許す“メタゲーム”の概念に基づくものである。プレヤーBがプレヤーAの方略に対して反応するとき, これはメタゲームBGを形成する。メタゲームBGにおいては結果 (d, d/d) だけが均衡である。ここにAがcを選ぶならばx/y=x, Aがdを選ぶならばx/y=yである。AがAの方略選択に対するBの反応に対処して方略を策定する場合, これはメタゲームABGを形成する。メタゲームABGにおいては (c, c) と (d, d) がメタ均衡であり, これらはGにおいて安定的であり得る。本研究の目的は, 仮定された相手側プレヤー (プレヤーB) の可能な方略選択に対する被験者 (プレヤーA) の反応を検討し, メタゲーム理論による予測を評価することにある。159名の被験者は5つの利得行列のいずれかに無作為に割付けられた。各利得条件において, 被験者の課題は, 質問紙によって表された基本ゲームG場面, 4つのメタゲームAG場面, および4つの拡張されたメタゲームABG場面に対して, cまたはdを選択することである。主な結果は以下のとおりである。(2) 基本ゲームG場面, およびすべてのメタゲームAG場面においては, 利得行列の如何によらず, ほとんどの被験者がdをためらわずに選択した。(2) 拡張されたメタゲームABG場面においては, 利得行列の如何にかかわらず, 仮定された相手側プレヤーBがc/dを選択したとき, かつそのときに限り, 多くの被験者はcを選択し, 結果 (c, c) を安定的であると期待している。これらの結果は, 高次なレベルに至る相互期待として定義される共有期待 (mutual expectation) が, プレヤー相互が互いの行動を調整するうえに重要であることを示唆するものである。