著者
上原 俊介 中川 知宏 田村 達
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.89-100, 2015 (Released:2015-03-26)
参考文献数
38

義憤(moral outrage)とは,ある出来事やそれに関与した人物の行動が道義に反しているという知覚によって引き起こされる怒りのことを指す。怒りの研究者たちはこれまで,道徳違反を目の当たりにしたときには義憤が喚起されると仮定してきた。ところが最近の研究によれば(たとえば,Batson, Chao, & Givens, 2009),怒りの喚起は自分(あるいは自分の同胞)が危害を加えられたときにしか確認されず,私憤(personal anger)が怒りの本質であると指摘する者もいる。そこで本研究は,公正に対する敏感さ(justice sensitivity)という人格特性に注目し,義憤とは正しさに過敏に反応する人たちにみられる制限的な感情反応ではないかと予測した。日本人参加者に対して架空の拉致事件に関する新聞記事を読ませ,そのとき感じた怒りの強さを答えさせた。その結果,どんなに公正に敏感な参加者でも,強い怒りは日本人が拉致被害の犠牲になったときにしか報告されず,私憤説に一致する証拠しか確認されなかった。こうした知見を踏まえ,本研究は,私憤がきわめて堅固な反応であるという可能性を指摘した。
著者
樂木 章子
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.146-165, 2003-03-30 (Released:2010-06-04)
参考文献数
13
被引用文献数
2 or 0

本研究では, 乳児院や児童養護施設で生活する乳幼児が, 血がつながらない育て親 (養親) に養子として引き取られるに至る過程において, その重要な前提である, 育て親となる夫婦が養子を迎える決断をなす過程に着目した。具体的には, ある養子斡旋団体が養子を迎えようとする夫婦を対象に実施している養親講座の現場でのフィールドワークに基づき, そこで用いられている言説戦略を分析した。この養親講座においては, 養子の子育ての困難さ, とりわけ, 施設で生活する子どもとの縁組によって直面する問題が生々しく語られ, 夫婦がこれまで築いてきた生活を根底から揺るがされるものであることが強調された上で, 夫婦に養子を迎える決断を迫る。このようなプロセスを通して, 夫婦がそれまで無自覚に依拠していた諸前提が明確化され, 無意識のうちに抱いていた親子関係のイメージが否定されていく。養親講座の言説戦略は, いわば, 養子を迎えるという決断が, その後の人生における「公理」として機能しうるような状況を構成していることが示唆された。言い換えれば, 養親講座の言説戦略は, 血縁という先験性を持たない養親子において, 血縁に代替しうるような先験性を構築する試みであることが考察された。
著者
山田 順子 鬼頭 美江 結城 雅樹
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.18-27, 2015 (Released:2015-12-22)
参考文献数
40
被引用文献数
1 or 0

本研究の目的は,友人関係および恋人関係における親密性の文化差の原因の検討である.近年の国際比較研究は,北米人の方が東アジア人よりも,対人関係のパートナーに対して感じる親密性が高いことを示してきた.本研究は,社会生態学的視点に基づき,この文化差をもたらす原因を,北米社会における対人関係選択の自由度,すなわち関係流動性の高さに求めた.この仮説を検討するため,日本人とカナダ人参加者を対象に,親友・恋人および最も親しい家族に対する親密性,また参加者を取り巻く身近な社会環境における関係流動性の認知を尋ねた.その結果,まず先行研究と一貫して,日本人よりもカナダ人の方が,親友や恋人に対してより強い親密性を感じていた.さらに,理論仮説と一貫して,親友に対する親密性の日加差は,対人関係選択の自由度によって有意に媒介され,自由度が高いほど親密性が高いことが示された.
著者
脇本 竜太郎
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.165-179, 2005 (Released:2006-02-18)
参考文献数
62
被引用文献数
1 or 0

人間の社会的行動は,自尊心への欲求から説明されることが多かった。しかしながら,その自尊心への欲求自体が,“なぜ”人間にとって重要なのかは実証的に検討されてこなかった。この“なぜ自尊心の欲求が重要なのか”という問に存在脅威(死の不可避性の認識に基づく脅威)の緩衝という観点から答え,人間の社会的行動を包括的に説明する枠組みたるべくして登場したのが存在脅威管理理論である。本稿では,まず存在脅威管理理論の概要について紹介する。次に,既存の研究を概観し,存在脅威管理理論がもたらした成果と,個々の社会的行動の実証的検討における課題について述べる。最後に,近年報告されている存在脅威管理方略の差異に関する知見を紹介し,そのような文化内・文化間差を存在脅威管理理論がいかに捉え,組み込んでいくべきかについて展望を述べる。
著者
脇本 竜太郎
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.58-71, 2009 (Released:2009-08-25)
参考文献数
28
被引用文献数
1 or 0

本研究では,存在論的恐怖と愛着不安・回避傾向が成功・失敗についての自己の帰属と親友からの帰属の推測に及ぼす影響について検討した。近年,対人関係が存在論的恐怖を緩衝する効果を持つことが明らかにされている。そして,Wakimoto(2006)は存在論的恐怖が顕現化すると日本人は関係維持のため謙遜的態度を強めることを報告している。これに,日本人が他者による謙遜の打消しや肯定的言及など支援的反応を期待するという知見を併せて考えると,存在論的恐怖は自己卑下と共に他者からの支援的反応の期待を高めると考えられる。また,このような影響は愛着不安・回避傾向により調節されると考えられる。これら予測を現実の成功・失敗についての原因帰属を用いて検討した。大学生52名が実験操作の後に過去の実際の成功・失敗について自分自身の帰属と親友がどのように帰属してくれるかの推測について回答した。その結果,MS操作により自己卑下的帰属が強まる条件では,親友からの支援的な帰属の期待も強まることが示された。一方,親友からの支援的な帰属の期待が必ずしも自己卑下的帰属の高まりを伴わないことも示された。これら結果を近しい他者を通した関係による存在論的恐怖管理の様態及び互恵的関係の形成における存在論的恐怖の影響という点から論じた。
著者
法理 樹里 牧野 光琢 堀井 豊充
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
(Released:2017-06-07)
参考文献数
37

2011年3月11日に発生した,東北地方太平洋沖地震によって引き起こされた福島第一原子力発電所の事故に伴う風評被害は水産物にも及んでいる。福島県産農産物に対する消費者意識調査で用いられた手法を援用し,二重過程理論に基づき震災後の福島県産水産物の購買意図へ影響をおよぼす消費者意識を調査した。本研究で用いた,二重過程理論のシステム1には,「放射線・原発不安」意識および「被災地支援」意識,システム2には,「知識による判断」意識および「合理的判断」意識が含まれていた。共分散構造分析の結果,「放射線・原発不安」は購買意図を抑制することが示された。一方,「被災地支援」は,購買意図を促進することが示された。さらに,先行研究とは異なり,福島県産水産物の購買においては,「被災地支援」は「放射線・原発不安」を抑制する効果があることが明らかとなった。消費者は不安を抱えながらも復興支援の意識を持ち,福島県産水産物の「購買意図」を培っていることが示唆された。
著者
和田 実
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.38-49, 2000-07-15 (Released:2010-06-04)
参考文献数
15
被引用文献数
2 or 0

本研究は, 大学生が恋愛関係崩壊に際してどのような対処行動をとり, 崩壊時にどのような感情を抱くのか, さらに崩壊後にどのような行動的反応をとるのかを性差と崩壊時の恋愛関係進展度の観点から調べた。被験者は大学生239 (男性116, 女性123) 名であった。いずれも, 異性としばらく付き合った後に, その関係が崩壊した経験のある者のみである。恋愛関係崩壊への対処行動として“説得・話し合い”, “消極的受容”, および“回避・逃避”, 崩壊時の感情として“苦悩”, 崩壊後の行動的反応として“後悔・悲痛”と“未練”が見いだされた。恋愛関係が進展していた者ほど, 崩壊時に説得・話し合い行動がより多くとられ, 崩壊時の苦悩が強く, 崩壊後の後悔・悲痛行動と未練行動が多かった。女性は, 関係が進展していた者ほど回避・逃避行動をとらなかった。関係進展度に関わらず, 男性は女性よりも消極的受容行動を多くとった。さらに, もっとも進展した関係が崩壊した場合のみで, 男性よりも女性の方が多くの説得・話し合い行動をとる一方, 回避・逃避行動をあまりとらなかった。
著者
出口 拓彦
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
(Released:2017-09-08)
参考文献数
38

授業中の私語を規定する要因について,個人レベル・集団レベルの変数に着目して検討した。中学生を対象とした質問紙調査を実施し,439名から有効回答を得た。質問紙では,自分および他者の「規範意識」と,自分および他者の「私語の頻度」などについて測定した。自分自身の私語の頻度を従属変数とした重回帰分析を行ったところ,自分の規範意識には負,他者の私語の頻度には正の関連が示された。さらに,行動基準(「遵守」「逸脱」等と態度をタイプ分けしたもの)の影響についても検討した。個々人が持つ行動基準(個人レベル)および各クラスにおける行動基準の割合(集団レベル)を投入した階層線形モデリングによる分析を実施した。その結果,個人レベルでは,「遵守」に負の関連,「逸脱」に正の関連が示された。一方,集団レベルにおいては,「遵守」の行動基準を持つ生徒の割合(31%)は比較的低かったにもかかわらず,クラス全体の私語の頻度を規定している可能性が示された。また,「同調」の割合(47%)は「遵守」に比べて高かったにもかかわらず,顕著な関連は見られなかった。これらのことから,教室内の一部の成員が,クラス全体における私語の頻度を規定しうることが示唆された。
著者
村山 綾 三浦 麻子
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.81-92, 2014 (Released:2014-03-18)
参考文献数
28

本研究では,集団討議で生じる葛藤と対処行動,およびメンバーの主観的パフォーマンスの関連について検討した。4名からなる合計17集団(68名)にランダムに配置された大学生が,18分間の集団課題を遂行した。その際,討議開始前,中間,終了時に,メンバーの意見のずれから算出される実質的葛藤を測定した。また討議終了時には,中間から終了にかけて認知された2種類の葛藤の程度,および葛藤対処行動について回答を求めた。分析の結果,集団内の実質的葛藤は相互作用を通して変遷すること,また,中間時点の実質的葛藤は主観的パフォーマンスと関連が見られないものの,終了時点の葛藤の高さは主観的パフォーマンスを低下させることが示された。関係葛藤の高さと回避的対処行動は主観的パフォーマンスの低さと関連し,統合的対処行動は主観的パフォーマンスの高さと関連していた。関係葛藤と課題葛藤の交互作用効果も示され,課題葛藤の程度が低い場合は,関係葛藤が低い方が高い方よりも主観的パフォーマンスが高くなる一方で,課題葛藤の程度が高い場合にはそのような差はみられなかった。葛藤の測定時点の重要性,および多層的な検討の必要性について議論した。
著者
清水 裕士
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.142-152, 2017 (Released:2017-04-27)
参考文献数
15

本論文の目的は,二者関係データをマルチレベル分析に適用した場合に生じるいくつかの問題点についてとりあげ,その問題がなぜ生じるのか,そしてどのようにそれを解決するかについて提案することである。1つは,ペアデータの平均値を階層線形モデル(HLM)のレベル2の説明変数として用いるときに生じるバイアスの問題をとりあげた。シミュレーションの結果,HLMでは深刻なバイアスが生じる一方,マルチレベルSEMではそのバイアスが生じないことを示した。次に,ペアデータに対してマルチレベルSEMを適用した場合に生じる不適解の問題を取り上げた。ペアデータはペアレベルの推定が不安定になりやすいため,分散が負に推定される不適解が頻繁に生じる。この問題について,いくつかのサンプルデータからベイズ推定を行うことで回避できることを示した。最後に,マルチレベルSEMの個人レベル効果の解釈の難しさについて議論した。
著者
安藤 香織 大沼 進
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
(Released:2017-09-13)
参考文献数
27

本研究では,北海道,東北,関東,中部,関西の5地域の大学生を対象とした質問紙調査により,東日本大震災後の節電行動の規定因を検討した。東日本大震災後には日本全国で電力供給量不足が深刻となり,節電の呼びかけが行われた。駅や公共施設などでは照明を暗くするなどの節電が行われた。先行研究では,周りの多くの他者がその行動を実行しているという記述的規範が環境配慮行動に影響を及ぼすことが指摘されている(e.g., Schultz, 1999)。本研究では,公共の場での節電を観察することが記述的規範として働いたのではないかという仮説を検討した。質問紙調査の有効回答数は計610名であった。分析の結果,公共施設等での節電の体験,他者の実行度認知共に個人の節電行動に有意な影響を及ぼすことが確認された。また,震災による価値観の変化,エネルギー問題の深刻性認知,計画停電の体験,地域の電力不足の認知も節電行動に有意な影響を及ぼしていた。災害後で電力供給力が逼迫しているという特殊な状況下においても記述的規範が節電行動に影響を及ぼすことが確認された。最後に公共の場で節電が個人の節電行動に及ぼす効果についての議論を行った。
著者
矢守 克也
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.66-82, 2002-09-30 (Released:2010-06-04)
参考文献数
64
被引用文献数
3 or 2

本研究は, 災害・事故が集合的に風化するプロセス-社会的な現実感が特定の災害・事故から消失していく長期的かつ社会的な過程-を測定・表現する方法について検討したものである。まず, 風化の長期的なトレンドを, マスメディアの報道量の長期変化を通して近似的に測定・表現した先行研究の成果を踏まえ, それを撹乱する2つの個別的な要因について実証的に検討した。具体的には, 第1に, 相次いで発生した複数の事象が相互に影響し, 後続事象の発生によって先行事象に関する報道量が低下する現象 (相互干渉現象) をとりあげた。第2に, 事象の発生期日をピークとして, 周期的かつ一時的に報道量が増加する現象 (周期変動現象) について検証した。その結果, これらの現象は, 一面では, マスメディア報道による風化現象の測定にとっての撹乱要因であるが, 他面では, むしろ, 災害・事故の風化現象に固有の社会過程を明示し, 記述するために利用可能であることが示された。次に, マスメディア分析を補完する新たな方法として, 災害・事故の発生後, 人々が実際に示す行動 (変数) を長期的に追尾する方法をいくつか提起し, その有効性を確認するとともに, こうした行動変数とマスメディア報道との関連性についても検討した。さらに, 共同想起の概念に依拠して, 本稿で検討した集合的な記憶と個人的な記憶との相互連関についても論じた。
著者
矢守 克也 李 旉昕
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
(Released:2017-12-02)
参考文献数
19

高知県黒潮町が掲げる「私たちの町には美術館がありません,美しい砂浜が美術館です」というフレーズは,「Xがない,YがXです」の形式をもつ。本論文では,この形式が,「限界集落」,「地方消滅」といった言葉によって形容されるきびしい状況下にある地方の地域社会の活性化を支える根幹的なロジックになりうることを,「Xからの疎外/Xへの疎外」の重層関係を基盤とした見田宗介の疎外論の観点から明らかにした。この疎外論の根幹は,「Xからの疎外」(Xがないことによる不幸)は,その前提に「Xへの疎外」(Xだけが幸福の基準となっていること)を必ず伴っているとの洞察である。よって,Xの欠落に対してXを外部から支援することは,「Xからの疎外」の擬似的な解消にはなっても,かえって「Xへの疎外」を維持・強化してしまう副作用をもっている。これに対して,YがXの機能的等価物であることを当事者自身が見いだし宣言したと解釈しうる黒潮町のフレーズには,「Xからの疎外」を「Xへの疎外」の基底層にまで分け入って根本から克服するための道筋が示されていると言える。
著者
竹ヶ原 靖子 安保 英勇
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
(Released:2017-09-29)
参考文献数
35

援助要請者は,援助要請の際に,自身のコストだけでなく,潜在的援助者のコストにも注目していることが示されているが,援助要請者が何から潜在的援助者のコストを予測するのかについてはあまり検討されていない。そこで,本研究では援助要請者と潜在的援助者の二者間におけるコミュニケーション・パターンに着目し,それが援助要請者の潜在的援助者コスト予測と援助要請意図に与える影響を検討した。大学生の同性友人ペア15組にそれぞれ10分間の日常会話をさせた後,潜在的援助者のコストを予測し,自身の援助要請意図について回答させた。その結果,相補的コミュニケーション(↑↓)と潜在的援助者の憂うつな感情との間に負の相関,相称的・競争的なコミュニケーション(↑↑)と援助要請意図の間には負の関連が示されるなど,日常会話におけるコミュニケーション・パターンと潜在的援助者のコスト予測,援助要請意図との間にいくつか有意な関連が示された。このことから,日常場面におけるコミュニケーションは,援助要請者が潜在的援助者のコストを予測する手がかりのひとつであることが示唆された。
著者
織田 涼 服部 雅史 八木 保樹
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
(Released:2017-08-19)
参考文献数
32

本研究は,意図されない情報の想起を介した検索容易性の逆説的効果が,処理資源を要するプロセスであるという仮説を検証した。二つの実験では,全参加者に他者の行動リストを呈示して記銘を求めた。行動リストには,後で行う判断の肯定事例と否定事例が含まれており,肯定事例だけを1個(容易)または4個(困難)想起することを求めた。実験1では,二重課題法を用いて想起課題中にかかる認知負荷を操作した。負荷が小さいと,肯定事例の想起が困難な時に想起内容に反する判断がなされ,意図しない否定事例の想起がこの効果を媒介することが示された。しかし負荷が大きいと,この媒介パタンが観察されなかった。実験2では,課題遂行への動機づけ(認知欲求)の強い参加者だけが,意図されない想起を介した検索容易性効果を示した。これらの結果は,困難さが促す事例想起の方略が努力を要する処理であることを示唆する。肯定事例の想起が困難であると,連合記憶内の事例が網羅的に走査され,この走査の過程で意図せず想起された情報に基づいて判断が形成されると考えられる。
著者
杉浦 仁美 坂田 桐子 清水 裕士
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
(Released:2014-03-28)
参考文献数
35
被引用文献数
1 or 0

本研究の目的は,地位格差のある集団間状況において,集団間葛藤が生起する過程を明らかにすることである。そのため,内集団バイアスに着目し,集団間の相対的地位と集団間の関係性,集団内での個人の地位が,内集団,外集団メンバーの評価に及ぼす影響について検討した。大学生120 名に対して,集団間地位と集団内地位を操作した実験を行った。その結果,高地位集団では,高地位者よりも低地位者のほうが,外集団メンバーの能力を低く評価することが明らかとなった。逆に,低地位集団では,低地位者よりも高地位者のほうが,外集団の能力を低く評価していた。また,この交互作用は,集団間の関係を非協同的であると認識する者においてのみ見られた。これらの結果から,集団内地位と集団間地位の高さが異なり,個人間比較と集団間比較のジレンマが生じる状況では,補償的に外集団を卑下する戦略が用いられる可能性が示唆された。
著者
沼崎 誠 松崎 圭佑 埴田 健司
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.119-129, 2016 (Released:2016-09-07)
参考文献数
38

身体感覚が社会的知覚や行動に影響を与えることが近年多くの研究で示されている。本研究では,持つものの柔らかさ-硬さによって生じる皮膚感覚が対人認知と自己認知に及ぼす効果を検討した。身体的温かさが性格的温かさと連合して表象していることを示す研究とHarlow(1958)の研究から,柔らかさ-硬さ感覚が性格的温かさ-冷たさと連合して表象されていると予測した。女性的ポジティブ特性,女性的ネガティブ特性,男性的ポジティブ特性,男性的ネガティブ特性の自己評定をあらかじめしていた21名の女子大学生が実験に参加した。参加者は,対人認知課題及び自己認知課題を行う間,柔らかい軟式テニスボールか硬い針金のボールを握り続けるように教示された。結果として,他者認知では,柔らかいボールを持った参加者は硬いボールを持った参加者に比べ,刺激人物が女性的ポジティブ特性を持っていると評定し,刺激人物に好意を示した。一方,自己認知では,柔らかいボールを持った参加者は硬いボールを持った参加者に比べて,男性的ネガティブ特性を持っていると評定するようになることが示された。これらの結果は,持つものの柔らかさ-硬さによって生じる皮膚感覚が,対人認知と自己認知に対して,それぞれ異なった影響を与えることを示唆する。
著者
相馬 敏彦 浦 光博
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.13-25, 2007 (Released:2007-09-05)
参考文献数
41
被引用文献数
4 or 1

本研究において我々は,排他的なサポート関係に影響する要因について検討した。 一般的信頼感(山岸,1998)と,進化論的な理論的枠組みとから,我々は次のように予測した。恋愛関係に所属する者は,個別的な信頼感の影響を統制しても,関係の外部からのサポート取得を抑制するだろう。また,これらの関連は,一般的信頼感の低い者に顕著に認められるだろう。 以上の仮説を検証するために,我々は136人の大学生を対象とした調査を行った。仮説は支持された。一般的信頼感の高い者は,個別的な信頼感を発展させた恋愛関係であっても,その外部にサポート取得することができた。同様の結果は,個別的な信頼感の高い,もしくは低い異性との友人関係では認められなかった。これらの結果は,一般的信頼感の低い者が,恋愛関係に所属したときに,多様なソーシャル・サポート・ネットワークを形成することが困難であることを示唆する。最後に,所属する関係によって,資源交換のされやすさが異なる可能性について考察された。
著者
齋藤 真由 白岩 祐子 唐沢 かおり
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
(Released:2018-01-13)
参考文献数
38

本研究の目的は,市民の司法参加に対する認知構造を,広瀬(1994)の要因関連モデルなどで提出されている3つの評価の枠組みから把握するとともに,それらが参加意欲に与える影響を明らかにすることである。本研究が着目した3つの評価とは,市民における知識や経験の有無に関する「実行可能性評価」,負担感についての「コスト評価」,市民による司法参加の効用についての「ベネフィット評価」である。都内の大学生74名を対象とする予備調査で得られた自由回答をもとに,司法参加に対するさまざまな認知を収集し,上記3つの評価に分類した。本調査は都内の大学生を中心とする206名を対象に実施した。因子分析の結果,実行可能性評価とベネフィット評価に関する因子はそれぞれ4つ,コスト評価に関する因子は1つが得られた。その中でもベネフィット評価に含まれる「親和性の向上」と「透明性の向上」が参加意欲を高め,実行可能性評価に関する「知識・経験の欠如」とコスト評価に関する「責任の重さ」が参加意欲を低下させていることが明らかになった。これらの結果にもとづき,今後研究が進むべき方向性について議論した。
著者
日比野 愛子
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.82-93, 2016 (Released:2016-10-06)
参考文献数
26

本研究は,実験道具の発展とともに歩んだ生命科学実験室の集合体の変化に迫ったものである。AFM(原子間力顕微鏡)という先端装置は,生物学に応用されていく中で,今後の発展の見込みが計算しにくい,テクノロジカル・プラトー(道具-組織のシステムが保っている一時的な均衡状態)にいたっていた。本研究では,このプラトーがいかなる構造によって成り立ちうるのかを明らかにすることをねらいとする。方法として,国内の生命科学実験室を中心とした生命科学集合体へのエスノグラフィ調査を実施した。回顧の語りからAFMと実験室が発展する経緯を分析した結果,手段であった装置が目的となり,さらに手段へと戻るプロセスを通じてプラトーにいたったことが示された。一方,実験室とそれをとりまく関係者を対象とした共時的な観察や聞き取りからは,プラトーの渦中における装置の意味の重なりとアイデンティティのゆらぎが見出された。以上をもとに,考察では,プラトーを下支えする力に注目し,そこに現代生命科学の市場的性質がかかわっていることを論じた。