著者
上原 俊介 中川 知宏 田村 達
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.89-100, 2015 (Released:2015-03-26)
参考文献数
38
被引用文献数
1

義憤(moral outrage)とは,ある出来事やそれに関与した人物の行動が道義に反しているという知覚によって引き起こされる怒りのことを指す。怒りの研究者たちはこれまで,道徳違反を目の当たりにしたときには義憤が喚起されると仮定してきた。ところが最近の研究によれば(たとえば,Batson, Chao, & Givens, 2009),怒りの喚起は自分(あるいは自分の同胞)が危害を加えられたときにしか確認されず,私憤(personal anger)が怒りの本質であると指摘する者もいる。そこで本研究は,公正に対する敏感さ(justice sensitivity)という人格特性に注目し,義憤とは正しさに過敏に反応する人たちにみられる制限的な感情反応ではないかと予測した。日本人参加者に対して架空の拉致事件に関する新聞記事を読ませ,そのとき感じた怒りの強さを答えさせた。その結果,どんなに公正に敏感な参加者でも,強い怒りは日本人が拉致被害の犠牲になったときにしか報告されず,私憤説に一致する証拠しか確認されなかった。こうした知見を踏まえ,本研究は,私憤がきわめて堅固な反応であるという可能性を指摘した。
著者
清水 裕士
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.142-152, 2017 (Released:2017-04-27)
参考文献数
15

本論文の目的は,二者関係データをマルチレベル分析に適用した場合に生じるいくつかの問題点についてとりあげ,その問題がなぜ生じるのか,そしてどのようにそれを解決するかについて提案することである。1つは,ペアデータの平均値を階層線形モデル(HLM)のレベル2の説明変数として用いるときに生じるバイアスの問題をとりあげた。シミュレーションの結果,HLMでは深刻なバイアスが生じる一方,マルチレベルSEMではそのバイアスが生じないことを示した。次に,ペアデータに対してマルチレベルSEMを適用した場合に生じる不適解の問題を取り上げた。ペアデータはペアレベルの推定が不安定になりやすいため,分散が負に推定される不適解が頻繁に生じる。この問題について,いくつかのサンプルデータからベイズ推定を行うことで回避できることを示した。最後に,マルチレベルSEMの個人レベル効果の解釈の難しさについて議論した。
著者
山田 順子 鬼頭 美江 結城 雅樹
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.18-27, 2015 (Released:2015-12-22)
参考文献数
40
被引用文献数
1 4

本研究の目的は,友人関係および恋人関係における親密性の文化差の原因の検討である.近年の国際比較研究は,北米人の方が東アジア人よりも,対人関係のパートナーに対して感じる親密性が高いことを示してきた.本研究は,社会生態学的視点に基づき,この文化差をもたらす原因を,北米社会における対人関係選択の自由度,すなわち関係流動性の高さに求めた.この仮説を検討するため,日本人とカナダ人参加者を対象に,親友・恋人および最も親しい家族に対する親密性,また参加者を取り巻く身近な社会環境における関係流動性の認知を尋ねた.その結果,まず先行研究と一貫して,日本人よりもカナダ人の方が,親友や恋人に対してより強い親密性を感じていた.さらに,理論仮説と一貫して,親友に対する親密性の日加差は,対人関係選択の自由度によって有意に媒介され,自由度が高いほど親密性が高いことが示された.
著者
脇本 竜太郎
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.165-179, 2005 (Released:2006-02-18)
参考文献数
62
被引用文献数
1 1

人間の社会的行動は,自尊心への欲求から説明されることが多かった。しかしながら,その自尊心への欲求自体が,“なぜ”人間にとって重要なのかは実証的に検討されてこなかった。この“なぜ自尊心の欲求が重要なのか”という問に存在脅威(死の不可避性の認識に基づく脅威)の緩衝という観点から答え,人間の社会的行動を包括的に説明する枠組みたるべくして登場したのが存在脅威管理理論である。本稿では,まず存在脅威管理理論の概要について紹介する。次に,既存の研究を概観し,存在脅威管理理論がもたらした成果と,個々の社会的行動の実証的検討における課題について述べる。最後に,近年報告されている存在脅威管理方略の差異に関する知見を紹介し,そのような文化内・文化間差を存在脅威管理理論がいかに捉え,組み込んでいくべきかについて展望を述べる。
著者
杉本 絢奈 本元 小百合 菅村 玄二
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.150-160, 2016 (Released:2016-09-07)
参考文献数
47

「首を傾げる」ことで,疑問や不審を抱くだろうか。大学生82名が箱に空いた角度の異なる穴を覗くことで,右傾,左傾,無傾の3種の姿勢をとり,対人認知,リスクテイキング,論理的思考という3課題を行った。姿勢操作はカウンターバランスされた。その結果,首を右に傾げると,傾げない場合よりも,社会的に望ましい人物の仕事への関心を低いと評価しやすくなり(p=.002, d=0. 9),また男性は首を左に傾げた場合,傾げなかった場合に比べ,危険な行動をとると判断しやすかった(p=.014, d=0. 8)。論理的思考には差が見られなかったが,仮に疑い深くなっても論理性の判断はつきにくいからかもしれない。対人場面では提示された人物描写を字面通りに受け取らなかったと解釈でき,首傾げ姿勢が慎重な情報処理を促すという仮説は,右傾に限って支持された。右傾で仮説通りの効果がみられた理由は,大半の人は生まれつき首を右に傾けやすいからかもしれない。左傾によって軽率な行動傾向が高まったが,これは不自然な姿勢を取ったためと考えられ,右傾によって慎重になるという結果と矛盾はしない。今後は姿勢の個人差を考慮した上で,参加者間計画にし,追試をすることなどが求められる。
著者
脇本 竜太郎
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.58-71, 2009 (Released:2009-08-25)
参考文献数
28
被引用文献数
2 1

本研究では,存在論的恐怖と愛着不安・回避傾向が成功・失敗についての自己の帰属と親友からの帰属の推測に及ぼす影響について検討した。近年,対人関係が存在論的恐怖を緩衝する効果を持つことが明らかにされている。そして,Wakimoto(2006)は存在論的恐怖が顕現化すると日本人は関係維持のため謙遜的態度を強めることを報告している。これに,日本人が他者による謙遜の打消しや肯定的言及など支援的反応を期待するという知見を併せて考えると,存在論的恐怖は自己卑下と共に他者からの支援的反応の期待を高めると考えられる。また,このような影響は愛着不安・回避傾向により調節されると考えられる。これら予測を現実の成功・失敗についての原因帰属を用いて検討した。大学生52名が実験操作の後に過去の実際の成功・失敗について自分自身の帰属と親友がどのように帰属してくれるかの推測について回答した。その結果,MS操作により自己卑下的帰属が強まる条件では,親友からの支援的な帰属の期待も強まることが示された。一方,親友からの支援的な帰属の期待が必ずしも自己卑下的帰属の高まりを伴わないことも示された。これら結果を近しい他者を通した関係による存在論的恐怖管理の様態及び互恵的関係の形成における存在論的恐怖の影響という点から論じた。
著者
樂木 章子
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.146-165, 2003-03-30 (Released:2010-06-04)
参考文献数
13
被引用文献数
2 1

本研究では, 乳児院や児童養護施設で生活する乳幼児が, 血がつながらない育て親 (養親) に養子として引き取られるに至る過程において, その重要な前提である, 育て親となる夫婦が養子を迎える決断をなす過程に着目した。具体的には, ある養子斡旋団体が養子を迎えようとする夫婦を対象に実施している養親講座の現場でのフィールドワークに基づき, そこで用いられている言説戦略を分析した。この養親講座においては, 養子の子育ての困難さ, とりわけ, 施設で生活する子どもとの縁組によって直面する問題が生々しく語られ, 夫婦がこれまで築いてきた生活を根底から揺るがされるものであることが強調された上で, 夫婦に養子を迎える決断を迫る。このようなプロセスを通して, 夫婦がそれまで無自覚に依拠していた諸前提が明確化され, 無意識のうちに抱いていた親子関係のイメージが否定されていく。養親講座の言説戦略は, いわば, 養子を迎えるという決断が, その後の人生における「公理」として機能しうるような状況を構成していることが示唆された。言い換えれば, 養親講座の言説戦略は, 血縁という先験性を持たない養親子において, 血縁に代替しうるような先験性を構築する試みであることが考察された。
著者
村山 綾 三浦 麻子
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.81-92, 2014 (Released:2014-03-18)
参考文献数
28

本研究では,集団討議で生じる葛藤と対処行動,およびメンバーの主観的パフォーマンスの関連について検討した。4名からなる合計17集団(68名)にランダムに配置された大学生が,18分間の集団課題を遂行した。その際,討議開始前,中間,終了時に,メンバーの意見のずれから算出される実質的葛藤を測定した。また討議終了時には,中間から終了にかけて認知された2種類の葛藤の程度,および葛藤対処行動について回答を求めた。分析の結果,集団内の実質的葛藤は相互作用を通して変遷すること,また,中間時点の実質的葛藤は主観的パフォーマンスと関連が見られないものの,終了時点の葛藤の高さは主観的パフォーマンスを低下させることが示された。関係葛藤の高さと回避的対処行動は主観的パフォーマンスの低さと関連し,統合的対処行動は主観的パフォーマンスの高さと関連していた。関係葛藤と課題葛藤の交互作用効果も示され,課題葛藤の程度が低い場合は,関係葛藤が低い方が高い方よりも主観的パフォーマンスが高くなる一方で,課題葛藤の程度が高い場合にはそのような差はみられなかった。葛藤の測定時点の重要性,および多層的な検討の必要性について議論した。
著者
法理 樹里 牧野 光琢 堀井 豊充
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
pp.1610, (Released:2017-06-07)
参考文献数
37

2011年3月11日に発生した,東北地方太平洋沖地震によって引き起こされた福島第一原子力発電所の事故に伴う風評被害は水産物にも及んでいる。福島県産農産物に対する消費者意識調査で用いられた手法を援用し,二重過程理論に基づき震災後の福島県産水産物の購買意図へ影響をおよぼす消費者意識を調査した。本研究で用いた,二重過程理論のシステム1には,「放射線・原発不安」意識および「被災地支援」意識,システム2には,「知識による判断」意識および「合理的判断」意識が含まれていた。共分散構造分析の結果,「放射線・原発不安」は購買意図を抑制することが示された。一方,「被災地支援」は,購買意図を促進することが示された。さらに,先行研究とは異なり,福島県産水産物の購買においては,「被災地支援」は「放射線・原発不安」を抑制する効果があることが明らかとなった。消費者は不安を抱えながらも復興支援の意識を持ち,福島県産水産物の「購買意図」を培っていることが示唆された。
著者
和田 実
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.38-49, 2000-07-15 (Released:2010-06-04)
参考文献数
15
被引用文献数
2 2

本研究は, 大学生が恋愛関係崩壊に際してどのような対処行動をとり, 崩壊時にどのような感情を抱くのか, さらに崩壊後にどのような行動的反応をとるのかを性差と崩壊時の恋愛関係進展度の観点から調べた。被験者は大学生239 (男性116, 女性123) 名であった。いずれも, 異性としばらく付き合った後に, その関係が崩壊した経験のある者のみである。恋愛関係崩壊への対処行動として“説得・話し合い”, “消極的受容”, および“回避・逃避”, 崩壊時の感情として“苦悩”, 崩壊後の行動的反応として“後悔・悲痛”と“未練”が見いだされた。恋愛関係が進展していた者ほど, 崩壊時に説得・話し合い行動がより多くとられ, 崩壊時の苦悩が強く, 崩壊後の後悔・悲痛行動と未練行動が多かった。女性は, 関係が進展していた者ほど回避・逃避行動をとらなかった。関係進展度に関わらず, 男性は女性よりも消極的受容行動を多くとった。さらに, もっとも進展した関係が崩壊した場合のみで, 男性よりも女性の方が多くの説得・話し合い行動をとる一方, 回避・逃避行動をあまりとらなかった。
著者
出口 拓彦
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
pp.1705, (Released:2017-09-08)
参考文献数
38
被引用文献数
1

授業中の私語を規定する要因について,個人レベル・集団レベルの変数に着目して検討した。中学生を対象とした質問紙調査を実施し,439名から有効回答を得た。質問紙では,自分および他者の「規範意識」と,自分および他者の「私語の頻度」などについて測定した。自分自身の私語の頻度を従属変数とした重回帰分析を行ったところ,自分の規範意識には負,他者の私語の頻度には正の関連が示された。さらに,行動基準(「遵守」「逸脱」等と態度をタイプ分けしたもの)の影響についても検討した。個々人が持つ行動基準(個人レベル)および各クラスにおける行動基準の割合(集団レベル)を投入した階層線形モデリングによる分析を実施した。その結果,個人レベルでは,「遵守」に負の関連,「逸脱」に正の関連が示された。一方,集団レベルにおいては,「遵守」の行動基準を持つ生徒の割合(31%)は比較的低かったにもかかわらず,クラス全体の私語の頻度を規定している可能性が示された。また,「同調」の割合(47%)は「遵守」に比べて高かったにもかかわらず,顕著な関連は見られなかった。これらのことから,教室内の一部の成員が,クラス全体における私語の頻度を規定しうることが示唆された。
著者
三浦 麻子 飛田 操
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.41, no.2, pp.124-136, 2002-04-30 (Released:2010-06-04)
参考文献数
24
被引用文献数
4 2

本研究では, 集団創造性に影響を与える要因として成員アイディアの多様性を取り上げ, その効果を実証的に検討した。多様性の高い集団による相互作用過程においては, 集団が創造性パフォーマンスを発揮する可能性が高まり, 集団の創発性が生まれることが期待される。しかしその一方で, コミュニケーションにおいては葛藤を生じやすくさせる方向で機能することが考えられる。実験1では, 集団成員の個人レベルのアイディア創出結果にもとづいてアイディアの多様性を分類し, 集団の創発性と成員の心理的変数に対する効果を検討した。しかし, 予測したような多様性の効果は見られず, 成員アイディアの多様性が十分な効果を持つためには, より円滑なコミュニケーションを促進するような, 類似性や共通性を有することが必要となることが示唆された。そこで, 実験2では, 成員のアイディアの多様性に加えて類似性についても検討し, この2つの基準にもとづいて集団を分類した検討をおこなった。その結果, 多様性と類似性の相乗効果によって, 集団の創発性が高められる可能性が示された。以上の研究結果から, 集団が創造的となるためには, 成員相互の多様性と類似性がともに必要となることが示唆された。
著者
秋保 亮太 縄田 健悟 中里 陽子 菊地 梓 長池 和代 山口 裕幸
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.101-109, 2016 (Released:2016-09-07)
参考文献数
29

本研究の目的は,チーム・ダイアログがチーム・パフォーマンスへ与える影響に関して,共有メンタルモデルが調整効果を持つか検討することであった。大学祭において模擬店の営業を行った団体を対象に,質問紙調査を実施した。大学生・大学院生236名,29チームから回答が得られた。階層的重回帰分析および単純傾斜検定の結果から,チーム・ダイアログは客観的なチーム・パフォーマンス(目標売上達成度)へ単純な促進的効果を持っているのではなく,メンバーがメンタルモデルを共有している程度によって及ぼす影響力が異なることを明らかにした。チーム内でメンタルモデルが共有されている場合,チーム・ダイアログは目標売上達成度に関連しておらず,一定の高いパフォーマンスを示していた。その一方で,チーム内でメンタルモデルが共有されていない場合は,チーム・ダイアログが少ないと目標売上達成度も下がることが示された。主観的なチーム・パフォーマンス(主観的成果)に関しては,共有メンタルモデルの調整効果は見られなかった。本研究の結果は,暗黙の協調の実現における共有メンタルモデルの重要性を示唆していると言える。
著者
長谷川 孝治
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
pp.1710, (Released:2018-04-12)
参考文献数
37

本研究の目的は,スポーツボイスと呼ばれるボイストレーニング・プログラム(SVP)に参加することによって,高齢男性の心理的健康と配偶者とのコミュニケーションが促進されるかを検討することである。SVPに参加した高齢男性と配偶者を実験群として,開始前(T1),終了直後(T2),その3ヶ月後(T3)の3波のダイアドパネル調査を実施するとともに,類似した活動をする統制群と比較することで,準実験での検討を行った。共分散分析の結果,T2では,実験群の高齢男性は統制群に比べて,自尊心と配偶者からの反映的自己評価が高く,心理的健康が良好になった。さらに,実験群の配偶者は統制群に比べて,夫のコミュニケーション態度の推測が良好になった。また,パス解析によって,このSVPの効果が,集団アイデンティティ(ID)を高め,それが自尊心を仲介して,心理的健康を規定するプロセスが示された。T3では,全体的には,SVPの効果は消失した。ただし,T3において,実験群では,集団アイデンティティが高いほど,参加者および配偶者の心理的健康が高く,コミュニケーション態度も良好であった。これらの結果から,SVPは集団アイデンティティを高める形で,高齢男性の心理的健康を短期的に高める効果を持つことが明らかにされた。
著者
矢守 克也
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.137-149, 2009 (Released:2009-03-26)
参考文献数
42
被引用文献数
1

本論文は,災害心理学の領域における重要概念の一つとされてきた「正常化の偏見」(normalcy bias)について,社会構成主義の視点にたって再検討し,その上で,同概念が防災実践に対してもたらす意義と問題点について理論的に検討したものである。「正常化の偏見」については,実際には,事後(災害後)のsense-makingが大きく関与して生じる事象であるにもかかわらず,事前(災害前)のdecision-makingのメカニズムを説明する概念として転用する混乱が生じていたと考えられる。そこで,まず,このような転用が生じるのは,「こころの前提」,「危険評価の前提」,「役割分担の前提」という3つの前提の上に立ってわれわれが事態を認識するからであることを指摘する。その上で,転用によって,現実に展開されている防災実践にどのような影響が出ているかについて,功罪両面にわたって分析する。最後に,「正常化の偏見」に代わるsense-makingのあり方として,「リアリティの共同構築」を提起し,それが防災実践をどのように変革しうるのかについて具体的な事例をあげながら考察する。
著者
沼崎 誠 松崎 圭佑 埴田 健司
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.119-129, 2016 (Released:2016-09-07)
参考文献数
38
被引用文献数
1

身体感覚が社会的知覚や行動に影響を与えることが近年多くの研究で示されている。本研究では,持つものの柔らかさ-硬さによって生じる皮膚感覚が対人認知と自己認知に及ぼす効果を検討した。身体的温かさが性格的温かさと連合して表象していることを示す研究とHarlow(1958)の研究から,柔らかさ-硬さ感覚が性格的温かさ-冷たさと連合して表象されていると予測した。女性的ポジティブ特性,女性的ネガティブ特性,男性的ポジティブ特性,男性的ネガティブ特性の自己評定をあらかじめしていた21名の女子大学生が実験に参加した。参加者は,対人認知課題及び自己認知課題を行う間,柔らかい軟式テニスボールか硬い針金のボールを握り続けるように教示された。結果として,他者認知では,柔らかいボールを持った参加者は硬いボールを持った参加者に比べ,刺激人物が女性的ポジティブ特性を持っていると評定し,刺激人物に好意を示した。一方,自己認知では,柔らかいボールを持った参加者は硬いボールを持った参加者に比べて,男性的ネガティブ特性を持っていると評定するようになることが示された。これらの結果は,持つものの柔らかさ-硬さによって生じる皮膚感覚が,対人認知と自己認知に対して,それぞれ異なった影響を与えることを示唆する。
著者
大門 大朗 渥美 公秀
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.88-100, 2016 (Released:2016-09-07)
参考文献数
58
被引用文献数
1

本研究では,大災害発生後の利他行動において,特に阪神・淡路大震災及び東日本大震災でのボランティア活動に着目し,どのようなダイナミックスで利他行動が生起したのかを把握し,実践的なツールとして活用できるようにするために基礎的なシミュレーション研究を行った。シミュレーションは,セル・オートマトンを採用し,周辺の状況に合わせてボランティア活動を行うとする近傍要因と,被災地からの報道といった遠隔要因から,ボランティア活動がどのように生起するかを想定した。2つの震災を比較すると,阪神・淡路大震災では遠隔要因が強く作用し,ボランティアのピークが速く発生したが継続しなかったこと,逆に東日本大震災では,近傍要因が作用しピークが遅かったが継続したボランティアにはつながったこと,ただし,地方で起きたことから全体のボランティア数自体は減少したことが明らかになった。その上で,これまでの震災後の取り組みに提言を行うとともに,中心からしかボランティアが広がらない(中心局在化)モデルの限界に留意した上で,今後の災害時には近傍-遠隔要因のバランスに注目することの重要性を指摘した。
著者
竹ヶ原 靖子 安保 英勇
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
pp.1510, (Released:2017-09-29)
参考文献数
35

援助要請者は,援助要請の際に,自身のコストだけでなく,潜在的援助者のコストにも注目していることが示されているが,援助要請者が何から潜在的援助者のコストを予測するのかについてはあまり検討されていない。そこで,本研究では援助要請者と潜在的援助者の二者間におけるコミュニケーション・パターンに着目し,それが援助要請者の潜在的援助者コスト予測と援助要請意図に与える影響を検討した。大学生の同性友人ペア15組にそれぞれ10分間の日常会話をさせた後,潜在的援助者のコストを予測し,自身の援助要請意図について回答させた。その結果,相補的コミュニケーション(↑↓)と潜在的援助者の憂うつな感情との間に負の相関,相称的・競争的なコミュニケーション(↑↑)と援助要請意図の間には負の関連が示されるなど,日常会話におけるコミュニケーション・パターンと潜在的援助者のコスト予測,援助要請意図との間にいくつか有意な関連が示された。このことから,日常場面におけるコミュニケーションは,援助要請者が潜在的援助者のコストを予測する手がかりのひとつであることが示唆された。
著者
石盛 真徳 小杉 考司 清水 裕士 藤澤 隆史 渡邊 太 武藤 杏里
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.153-164, 2017 (Released:2017-04-27)
参考文献数
36
被引用文献数
1

高校生以上の子どもを2人もつ223組の中年期の夫婦を対象に調査を行い,夫婦間のコミュニケーション,共行動,夫婦間の葛藤解決方略といった夫婦関係のあり方が夫婦関係満足度,家族の安定性,および主観的幸福感にどのような影響を及ぼしているのかをマルチレベル構造方程式モデリングによって検討した。夫婦関係満足度への影響要因の分析では,夫と妻が別個に夫婦共行動の頻度が高いと認識しているだけでは個人レベルでの夫婦関係満足度の認知にしかつながらず,夫婦のコミュニケーションが充実していると夫と妻の双方がともに認知してはじめて2者関係レベルでの夫婦関係満足度を高める効果をもつことが示された。家族の安定性への影響要因の分析では,個人レベルで葛藤解決において夫婦関係外アプローチに積極的であることは,個人レベルでの家族の安定性を高く認知することにつながるが,2者関係レベルで,夫婦が一致して夫婦関係外アプローチに積極的であることは,家族の安定性を低く認知することにつながるという結果が得られた。主観的幸福感への影響要因の分析では,夫婦関係満足度の高いことは,個人レベルにおいて正の関連性を有していた。また,夫婦間の解決において夫婦関係外アプローチに積極的であることは個人レベルでのみ主観的幸福感を高めることが示された。
著者
安藤 香織 大沼 進
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
pp.1607, (Released:2017-09-13)
参考文献数
27

本研究では,北海道,東北,関東,中部,関西の5地域の大学生を対象とした質問紙調査により,東日本大震災後の節電行動の規定因を検討した。東日本大震災後には日本全国で電力供給量不足が深刻となり,節電の呼びかけが行われた。駅や公共施設などでは照明を暗くするなどの節電が行われた。先行研究では,周りの多くの他者がその行動を実行しているという記述的規範が環境配慮行動に影響を及ぼすことが指摘されている(e.g., Schultz, 1999)。本研究では,公共の場での節電を観察することが記述的規範として働いたのではないかという仮説を検討した。質問紙調査の有効回答数は計610名であった。分析の結果,公共施設等での節電の体験,他者の実行度認知共に個人の節電行動に有意な影響を及ぼすことが確認された。また,震災による価値観の変化,エネルギー問題の深刻性認知,計画停電の体験,地域の電力不足の認知も節電行動に有意な影響を及ぼしていた。災害後で電力供給力が逼迫しているという特殊な状況下においても記述的規範が節電行動に影響を及ぼすことが確認された。最後に公共の場で節電が個人の節電行動に及ぼす効果についての議論を行った。