著者
虞 尤楠 浦川 邦夫
出版者
生活経済学会
雑誌
生活経済学研究 (ISSN:13417347)
巻号頁・発行日
vol.53, pp.61-74, 2021 (Released:2021-09-30)
参考文献数
14

本研究では、日本の都道府県別パネルデータ (2003-2016)をもとに、最低賃金の決定要因に関して隣接地域の最低賃金の水準や生活保護制度との関係に特に注目し、計量モデルによる検証を行った。操作変数を用いた固定効果モデル推定の結果を要約すると、以下の点が明らかとなった。 第一に、各都道府県の地域別最低賃金は、都市部、地方ともに、前年の隣接都道府県の最低賃金水準の変化の影響を受けている点が示された。当該地域の諸要因だけでなく、社会経済的に交流が大きい隣接県の最低賃金の水準の影響も受けていることから、審議会方式を通じた政治的な調整メカニズムが機能しているといえる。 第二に、失業率については有意に負であり、雇用環境の悪化は最低賃金の上昇を抑制する傾向が見られた。ただし、家計消費などの地域経済指標は非有意であり、当該都道府県の地域経済の実態が最低賃金に十分に反映されていない可能性がある。 第三に、被保護世帯1世帯あたり生活保護給付の最低賃金に対する影響は、地域や時期によって異なるが、2012年12月の自公連立政権への交代以降(2013-2016)は、全てのモデルで有意に正であり、改正最低賃金法(2008年7月施行)に定められた「健康で文化的な最低限度の生活」の確保に配慮し、生活保護水準と最低賃金の逆転現象を回避する傾向が確認された。