著者
蛭子 はるか
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2013-04-01

脳神経系の細胞構築には、大脳皮質に代表される「層構造」と脳深部に存在する「神経核構造」の2つがあり、脳神経系の形成メカニズムの統合的理解にはこの両者の理解が必須である。従来、大脳皮質などを用いて層構造の形成メカニズムは集中的に解析されてきたが、神経核構造の形成メカニズムは不明な点が多かった。そこで、申請者は神経核構造に着目し、マウス視床をモデルとして神経核のパターン形成の分子メカニズムを解析してきた。具体的にはこれまでに、予定視床領域で転写因子Foxp2の発現量が前後軸方向に勾配を持つこと、また機能不全型のFoxp2を発現するFoxp2(R552H)ノックインマウス(以下ノックインマウスとする)を用いて、Foxp2が視床パターン形成および視床皮質軸索投射を制御することを示した。さらに、Foxp2を発現制御する上流分子を同定するために子宮内電気穿孔法を用いて、視床の外から分泌され視床パターン形成を制御するFGF8bの発現を操作した。FGF8bを過剰発現した結果Foxp2の発現は抑制されたことから、FGF8bはFoxp2の上流である可能性がある。平成27年度はまず、視床パターン形成におけるFoxp2の視床自律性について検討した。具体的には、子宮内電気穿孔法を用いてFoxp2 shRNAを視床に導入した結果、ノックインマウスで見られた視床パターン変化と同様の変化が観察された。すなわち、視床パターン形成は視床内のFoxp2が制御していることが示唆された。また、ノックインマウスで観察される視床パターンの変化がより早期の胎生期から生じているか検討するために、胎生14.5日齢のノックインマウスで視床亜核マーカーの発現分布を解析した結果、既に視床パターンは変化していた。このことは、胎生期よりノックインマウスの視床パターン形成における表現型は出現していることを示唆している。