著者
蜂谷 昌之 松岡 敬興
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

平成29年度は昨年度までの調査に引き続き、富山県高岡市の小学校に保管されている卒業記念図画作品を手掛かりとした図画教育の変遷に関する調査のほか、地域の教育動向に関する調査を行った。図画教育実践に関する調査においては、明治40年代に制作された約600点の図画作品を手掛かりに、一地方の学校における図画教育実践の検証を試みた。まず、明治後期の図画教育の状況をふまえ、学校関係資料等を参考に図画の指導体制や使用教科書、教育活動等に関する調査を行った。その上で、明治後期に制作された作品の画題や表現方法を分析し、当時の図画教育実践を考察した。調査の結果、高岡市では地域事情を反映して専科指導体制が構築されたこと、国定教科書『毛筆画手本』、『新定画帖』を手本とした臨画や考案画が残されていたことなどが明らかとなった。作品には図版をそのまま模写したものだけでなく、別の図版を合成したものや児童自らアレンジを加えたものがあり、表現の応用を許容するような実践が行われていたことがうかがえた。また、地域の教育動向に関する調査では、昨年に引き続き、自由画教育初期に北陸地方において開催された「世界児童自由画展覧会」に関する新聞報道を分析した。特に北陸三県の福井、石川、富山県における展覧会の開催状況や各地域の有識者の見解、作品評などを中心に分析を行った。この展覧会の新聞報道には、自由画教育運動として図画教育の転換が図られた当時の実情が克明に記録されており、新しい教育の波が北陸地方に伝播した状況を明らかにすることができた。