著者
襌野 美帆
出版者
日本文化人類学会
雑誌
民族學研究 (ISSN:00215023)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.193-220, 1994-12-30

メキシコ,オアハカ州,ミシュテカ高地に位置するサン・マルティン・ウアメルルパン村からは,村が都市社会や国民経済に組み込まれていくなかで,1930年代半ばより,多くの人びとが首都をはじめとする都市部へと移住した。本稿では,サン・マルティンに在住する者と同村から都市部へと移住した者の双方の動態的な諸関係について,とくに社会組織の側面に焦点を当てて論述する。具体的には,サン・マルティンから首都への移住者を成員として取り込むかたちで近年創設された新しい組織である「公共施設整備委員会」と,同村の伝統的な組織である「テキオ」および「カルゴ」を記述の対象としてとりあげる。さらに,この都市に拡がる新しい組織と村の従来の組織の関係性について考察する。この考察を通して,サン・マルティンの人びとが,都市社会との関わりを必然の前提とする現代を生き抜くために,いかに「伝統」を資源としているかが明らかになるであろう。