著者
嶋澤 雅光 西中 杏里 原 英彰
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.150, no.6, pp.293-297, 2017 (Released:2017-12-08)
参考文献数
10

網膜静脈閉塞症(retinal vein occlusion:RVO)は,糖尿病網膜症についで罹患率の高い網膜血管病変であり,高血圧,糖尿病,高脂血症などが原因で網膜静脈が閉塞されることによって引き起こされる.浮腫や無灌流領域の形成が頻発し,これらの病態の進行は視機能の悪化と密接に関わっていることから,臨床においても重要視されている.薬物治療法として抗血管内皮増殖因子(vascular endothelial growth factor:VEGF)抗体が使用されているが,浮腫や無灌流領域の形成などRVOの病態機序は不明であるため,抗VEGF抗体に対して反応性が低い患者や投与により症状が改善した場合でも再発を繰り返す患者が存在する等の問題が指摘されている.したがって,RVO病態機序の解明による抗VEGF抗体の最適な治療タイミングの判断や新たな作用機序を有した治療薬の開発が望まれている.臨床研究では患者背景が異なるため,抗VEGF抗体の作用検討や新規治療薬の開発は困難であり,臨床と酷似した病態を有するRVOモデルの作製が必要である.これまで,RVOモデルの作製に関して研究が行われているが,RVOの特徴的な病態である嚢胞状の浮腫を再現し抗VEGF抗体の治療効果を検討した動物モデルは報告がない.したがって,RVOの病態解明や新規治療薬の探索を行うためには,臨床病態をできる限り正確に反映した動物モデルが必要である.本稿では,マウスを用いたRVOモデルの作製法並びにその評価法について紹介する.さらに,RVOの治療薬として使用されている抗VEGF抗体及びカリジノゲナーゼの効果についても紹介する.