著者
小川 健二郎 原 英彰 オガワ ケンジロウ ハラ ヒデアキ Kenjiro OGAWA Hideaki HARA
雑誌
岐阜薬科大学紀要 = The annual proceedings of Gifu Pharmaceutical University
巻号頁・発行日
vol.65, pp.20-27, 2016-06-30

わたし達の目は、日常的に太陽の紫外線や酸素などの影響を受けている。加えて、スマートフォンやパソコンなど電子端末機器の普及が進む現代社会において、目に関するトラブルの増加が懸念される。視機能の維持は我々のQOLに大きく関わるため、薬剤による治療や進行の抑制とともに、食品の機能性による予防も重要である。健康食品素材として広く利用されるビルベリーは、ブルーベリーの近縁種にあたる果実であり、果皮および果実内部にポリフェノールの一種であるアントシアニン色素を多く含んでいる。ビルベリー由来アントシアニンが目に与える機能性としては、in vitroおよびin vivo 試験において、網膜神経節細胞保護作用や光刺激に対する網膜視細胞保護作用、血管新生抑制作用、網膜炎症の軽減による視機能低下抑制作用などが報告されている。一方で、ヒト臨床試験の報告が少ないことが課題とされていたが、2015 年4 月より新たな食品表示基準として機能性表示食品制度が施行されたことにより、ヒト臨床試験の報告が増えてきている。ビルベリーエキスに含まれるアントシアニン(以下、ビルベリー由来アントシアニン)においても新たな報告がなされている。ビルベリー由来アントシアニンを健常人が接種することで得られる機能性として、物の遠近を見る近見視力や毛様体筋の緊張状態、眼精疲労の客観的指標であるフリッカー値、および目の疲労感の主観的指標であるvisual analogue scale(VAS)スコアや自覚症状アンケートにおいて、プラセボ接種群と比較して有意な改善が示されている。そのため、機能性表示食品として、目のピント調節力を改善すること、目の疲労感を和らげることが表示されている。今後もさらにヒト臨床試験が実施されることで、新たな機能性が明らかになることが予想される。
著者
嶋澤 雅光 原 英彰
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
YAKUGAKU ZASSHI (ISSN:00316903)
巻号頁・発行日
vol.141, no.1, pp.61-66, 2021-01-01 (Released:2021-01-01)
参考文献数
20

Glaucoma, the leading cause of blindness in adults, is a progressive neurodegenerative disease characterized by retinal ganglion cell (RGC) death. Currently, many intraocular pressure (IOP)-lowering drugs known to affect this disease progression have been developed as therapeutic agents. However, there are many cases of disease progression, even with sufficient IOP reduction. Therefore, newer therapeutic approaches other than IOP-lowering drugs are needed. To elucidate the pathogenesis of glaucoma and to develop therapeutic agents, the evaluation of RGCs is imperative, as their degeneration is the main cause of this disease. However, it is difficult to obtain RGCs from healthy individuals, let alone glaucoma patients. Therefore, research on the pathophysiology of glaucoma and drug discovery has not progressed sufficiently. Recent developments have made it possible to generate induced pluripotent stem (iPS) cells from the blood or skin of glaucoma patients and induce them to differentiate into RGCs to study the pathogenesis of glaucoma. In addition, drug repositioning for ophthalmological diseases such as glaucoma is one of the most active fields. Many of these repositioned drugs have found therapeutic applications in ophthalmology. Here, we introduce the current status of the pharmacological treatment of glaucoma and its prospects.
著者
梅津 亮冴 西端 友里 阿部 純子 鈴木 悠起也 原 英彰 永澤 秀子 紀ノ定 保臣 中村 光浩
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
YAKUGAKU ZASSHI (ISSN:00316903)
巻号頁・発行日
vol.134, no.2, pp.299-304, 2014 (Released:2014-02-01)
参考文献数
22
被引用文献数
11 17

Hypoglycemia due to treatment with oral anti-hyperglycemic agents (OHAs) is a major clinical problem in patients with type 2 diabetes mellitus. The aim of the present study was to evaluate the risk of hypoglycemia due to OHA use by using the Japanese Adverse Drug Event Report (JADER) database. To this end, reports of hypoglycemia events included in the JADER database between 2004 and 2012 were analyzed by calculating the reporting odds ratio (OR). The Medical Dictionary for Regulatory Activities Preferred Terms was used to identify hypoglycemia; 254392 reports were found in the JADER database, of which 13269 were excluded because the age and sex of the patient were not reported. Finally, 241123 reports were analyzed. Among OHAs, sulfonylureas showed the highest adjusted OR (adjusted OR, 10.13; 95% confidence interval, 9.08-11.26). The adjusted ORs for meglitinides, biguanide, thiazolidinedione, alpha-glucosidase inhibitors, and dipeptidyl peptidase-4 inhibitors were significantly lower than that of sulfonylureas. The adjusted OR of meglitinides (3.17; 95% confidence interval, 2.23-4.36) was significantly higher than that of alpha-glucosidase inhibitors or thiazolidinedione. We observed no difference between the adjusted ORs for biguanide, thiazolidinedione, alpha-glucosidase inhibitors, and dipeptidyl peptidase-4 inhibitors. Data mining of the JADER database was useful for analyzing OHA-associated hypoglycemia events. The results of our study suggested a low risk of hypoglycemia associated with biguanide, thiazolidinedione, alpha-glucosidase inhibitors, and dipeptidyl peptidase-4 inhibitors in clinical practice.
著者
嶋澤 雅光 原 英彰
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.134, no.6, pp.309-314, 2009 (Released:2009-12-14)
参考文献数
49

我が国の中途失明疾患には,緑内障,糖尿病網膜症,加齢黄斑変性症(age-related macular degeneration:AMD)および網膜色素変性症などがある.これらの失明性疾患の多くは網膜細胞の変性に起因することが知られている.しかしながら,それらの病態の機序については十分には解明されていない.一方,最近これらの眼疾患の一部とアルツハイマー病(Alzheimer disease:AD)との関連が指摘されている.すなわち,AD患者において網膜機能の低下,網膜神経節細胞の減少および視神経変性が高率に認められている.さらに,AD患者における緑内障の発症率が高いことが明らかにされた.ADは認知機能の低下,人格の変化を主な症状とする認知症の一種であり,その発症には脳内のアミロイドβペプチド(Aβ)の凝集・蓄積が引き金となり,神経細胞の変性・脱落が惹起されると考えられている(アミロイド仮説).現在,本仮説に基づいてAD患者の脳内におけるAβの産生または蓄積を抑える様々な治療法が試みられている.最近,我々は緑内障および糖尿病網膜症患者の硝子体液中のAβ1-42の著明な低下およびタウタンパクの上昇を見出した.これらの変化はAD患者脳脊髄液中の変動と類似していた.また,AMDにおける唯一の前駆病変と考えられるドルーゼン中の構成成分としてAβが高頻度に存在することが報告された.これらの知見はこれらの網膜疾患とADの間に共通の病態発症機序が存在し,とくにAβが網膜疾患の病態に深く関わっている可能性を示唆している.本稿では網膜疾患のなかでADとの関連がとくに示唆されている緑内障および加齢黄斑変性症について,治療の現状とその病態の発症におけるAβの関与並びにアミロイド仮説に基づいた治療の可能性について概説する.
著者
髙木 俊範 原 英彰
出版者
日本脳循環代謝学会
雑誌
脳循環代謝(日本脳循環代謝学会機関誌) (ISSN:09159401)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.277-280, 2016 (Released:2016-07-29)
参考文献数
15

脳卒中には様々な病態が含まれることは周知の事実である.脳梗塞の最も有効な治療が閉塞した血管の再開通であることは間違いないが,その中にも様々な病態が含まれ,それぞれに対し個別治療が望まれるようになってきた.またそれらは極めて短期間の間で時代とともに変遷してきた.直接神経を保護する薬剤の検討から始まり,組織プラスミノゲンによる再開通療法が始まれば,その時間的制約や出血性合併症に対する検討が必要となった.また神経保護のために,neurovascular unit を包括した保護戦略が謳われ始めた.こうしたその時々の臨床課題に対し,当研究室ではシロスタゾールという単一の薬剤での解決を目指し,基礎研究の視点からアプローチしてきた.抗血小板薬として開発されたシロスタゾールを用いた一連の研究を通して,薬は単一の薬効をのみを有するのではなく,マルチファンクションを有することがあると示された.
著者
嶋澤 雅光 西中 杏里 原 英彰
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.150, no.6, pp.293-297, 2017 (Released:2017-12-08)
参考文献数
10

網膜静脈閉塞症(retinal vein occlusion:RVO)は,糖尿病網膜症についで罹患率の高い網膜血管病変であり,高血圧,糖尿病,高脂血症などが原因で網膜静脈が閉塞されることによって引き起こされる.浮腫や無灌流領域の形成が頻発し,これらの病態の進行は視機能の悪化と密接に関わっていることから,臨床においても重要視されている.薬物治療法として抗血管内皮増殖因子(vascular endothelial growth factor:VEGF)抗体が使用されているが,浮腫や無灌流領域の形成などRVOの病態機序は不明であるため,抗VEGF抗体に対して反応性が低い患者や投与により症状が改善した場合でも再発を繰り返す患者が存在する等の問題が指摘されている.したがって,RVO病態機序の解明による抗VEGF抗体の最適な治療タイミングの判断や新たな作用機序を有した治療薬の開発が望まれている.臨床研究では患者背景が異なるため,抗VEGF抗体の作用検討や新規治療薬の開発は困難であり,臨床と酷似した病態を有するRVOモデルの作製が必要である.これまで,RVOモデルの作製に関して研究が行われているが,RVOの特徴的な病態である嚢胞状の浮腫を再現し抗VEGF抗体の治療効果を検討した動物モデルは報告がない.したがって,RVOの病態解明や新規治療薬の探索を行うためには,臨床病態をできる限り正確に反映した動物モデルが必要である.本稿では,マウスを用いたRVOモデルの作製法並びにその評価法について紹介する.さらに,RVOの治療薬として使用されている抗VEGF抗体及びカリジノゲナーゼの効果についても紹介する.
著者
原 英彰 嶋澤 雅光 橋本 宗弘 洲加本 孝幸
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.112, no.supplement, pp.138-142, 1998 (Released:2007-01-30)
参考文献数
24
被引用文献数
2 3

Lomerizine, a novel Ca2+ channel blocker, is under development as an anti-migraine drug. We examined the effects on spreading depression (SD) induced by a brief period of hypoxia (40 to 60 sec) in rat hippocampal slices, the cortical hypoperfusion and cortical c-Fos-like immunoreactivity that follow KCl-induced SD in anesthetized rats as compared with those of flunarizine. Extracellular recording was made from the CAl subfield. The latency of initiated SD was examined. Lomerizine (1 and 10 nM) and flunarizine (1 μM) significantly prolonged the latency in a concentration-dependent manner. After KCl application to the cortex, cerebral blood flow monitored by the laser Doppler flowmetry was approximately 20 to 30% below baseline for at least 60 min. Lomerizine (0.3 and 1 mg/kg, i.v.) and flunarizine (1 and 3 mg/kg, i.v.) administered 5 min before KCl application inhibited the cortical hypoperfusion that followed KCl application. c-Fos-like immunoreactivity, an indicator of neuronal activation, was detected in the ipsilateral, but not in the contralateral frontoparietal cortex 2 hr after KCl application. Lomerizine (3-30 mg/kg, p.o.) and flunarizine (30 mg/kg, p.o.) significantly attenuated the expression of c-Fos-like immunoreactivity in the ipsilateral frontoparietal cortex. Lomerizine was 3 to 1000 times more potent than flunarizine in the above SD models. These findings suggest that the inhibitory effects of lomerizine and flunarizine on the interval between the initiated and subsequent spontaneous SDs, the cortical hypoperfsuion and expression of c-Fos-like immunoreactivity induced by SD are mediated via the effects of Ca2+ entry blockade, which may include an increase in cerebral blood flow and the prevention of excessive Ca2+ influx into brain cells.
著者
嶋澤 雅光 井口 勇太 伊藤 保志 原 英彰
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.129, no.6, pp.445-450, 2007 (Released:2007-06-14)
参考文献数
15

現在の主要な失明原因には,緑内障,糖尿病網膜症,加齢黄斑変性症および網膜色素変性症などがある.これらの失明性眼疾患の多くは網膜細胞の変性に起因することから,網膜細胞の変性の原因を調べ,その機序を解明することは,病気の原因を解明し治療法を確立するうえで必須要件である.これまで,これらの病態モデル動物の作製にはラット,ウサギ,サルなどの大動物が多く用いられてきた.一方,マウスを用いた病態モデルの作製については,眼球自体が小さいため手技が難しいことにより今までほとんど検討されてこなかった.しかし,マウスは多くの遺伝子改変動物を利用できることから病態解明には最も有用な動物種である.本稿ではマウスを用いた網膜障害モデルの作製法ならびにその評価法について紹介する.
著者
嶋澤 雅光 原 英彰
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.152, no.3, pp.139-146, 2018 (Released:2018-09-06)
参考文献数
28

緑内障,糖尿病網膜症,加齢黄斑変性及び網膜色素変性症などの網膜疾患は主要な失明原因である.しかし,これらの病態の発症及び進展機構は十分解明されておらず,新規な治療薬の開発が望まれている.これまで,これらの網膜疾患の病態解明ならびに新規治療薬の開発のために,マウス及びラットを中心とした齧歯類を用いた多くの実験動物モデルが確立され,使用されてきた.しかし,齧歯類には視覚にとって最も重要な黄斑が存在しないなど網膜・視神経の組織構造がヒトと大きく異なっている.したがって,網膜疾患の病態形成機構がヒトと齧歯類では異なっている可能性が懸念され,さらに齧歯類における薬理効果をそのままヒトに外挿することは難しい.また,近年の医薬品の多くは抗体医薬を含めたバイオ医薬品に占められているが,特に抗ヒト抗体は齧歯類との交差性の問題などから薬効を齧歯類で評価すること自体ができない場合が多い.一方,非ヒト霊長類はヒトと同様に黄斑を有しており,網膜・視神経は解剖学的にヒトに類似している.したがって,アカゲザルやカニクイザルなどが網膜疾患の実験動物モデルとして広く使用されている.本稿では,非ヒト霊長類を用いた網膜疾患モデルの確立及びそれらを用いた創薬アプローチについて,著者らの最新の研究成果を中心に概説する.
著者
今泉 和則 原 英彰 伊藤 芳久 田熊 一敞 布村 明彦
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.130, no.6, pp.477-482, 2007 (Released:2007-12-14)
参考文献数
15
被引用文献数
1 1

アルツハイマー病,パーキンソン病を代表とする神経変性疾患は,進行性の神経細胞死という解剖学的所見を共通の特徴とする疾患であるが,その発症原因は不明であり,充分に有効な治療法・治療薬は未だ見いだされていない.また,脳虚血などの脳血管性疾患については,脳血流の低下あるいは再灌流をトリガーとして神経細胞死が惹起されることは明白であるものの,未だ著効な治療法・治療薬は明らかではない.このような背景のもと,これら神経変性疾患および脳血管性疾患に共通する「神経細胞死」という現象に関わる分子機序の解明を通して新たな治療法開発にアプローチしようという試みが,国内外ともに最近の研究の潮流となりつつある.本稿では,第80回日本薬理学会年会において開催された表題のシンポジウムでの講演より,神経変性疾患および脳血管性疾患の病態解明ならびに新規治療法の開発に大きく貢献しうる神経細胞死メカニズムの最先端研究を紹介する.