著者
細谷 和海 西井 啓大
出版者
近畿大学農学部
雑誌
近畿大学農学部紀要 (ISSN:04538889)
巻号頁・発行日
no.36, pp.73-130, 2003

ブラックバスは北米原産のサンフィシュ科の淡水魚で、わが国には1925年に実業家、赤星鉄馬氏により神奈川県芦ノ湖へ移殖された。以来、本種は同湖から持ち出されることがなかったが、1970年代のルアー釣りブームを契機に一挙に分布域を拡大した。ブラックバスは魚食性が強く、コイ科を主体とする在来種の地域的な絶滅を引き起こすことが危惧されている。そのため、ブラックバスを対象とするルアー釣りをめぐり、在来種を保護しようとする側とルアー釣りを楽しみたい側とが激しく対立し、大きな社会問題となっている。問題を解決するためには、ブラックバスの食害に関する科学的データを社会に提供する必要がある。ブラックバスの生物学については、すでにアメリカにおいて1975年にStround and Clepperが総合書を取りまとめている。一方、もともとブラックバスが分布していなかったわが国ではブラックバスに関する情報は限られる。1992年に全国内水面漁業協同組合連合会が「ブラックバスとブルーギルのすべて」を、また、最近では2002年に日本魚類学会自然保護委員会が「川と湖沼の侵略者ブラックバス」を刊行している程度で、情報は充分とは言えない。サンフィシュ科魚類は北米東部を中心に9属32種が知られている。そのうち、日本の淡水域に移殖放流されたものはオオクチバス、コクチバス、およびブルーギルである。わが国において、ブラックバスという名称は慣習的にオオクチバスに当てられてきたが、コクチバスが定着して以来、両種の総称として用いられることが多い。本資料では、オオクチバスとコクチバスを対象とする。