著者
西原 数馬 吉井 勘人 長崎 勤
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.28-38, 2006-04-20

広汎性発達障害児A児の発達評価より,「心の理解」における発達課題が「信念」理解における他者の「見ることが知ることを導く」という原理(Pratt&Bryant,1990)の理解であると評価されたため,これを指導目標とした。指導方法としては,親しい他者との相互交渉を利用した指導である「宝さがしゲーム」共同行為ルーティンを用いた。指導の結果,最初は指導場面内で変化が見られた。まず「宝さがしゲーム」内の直接援助を行った要素(例えば「隠した場所を教えない」行動など)が徐々に,自発によって遂行可能になった。「違う場所を教える」行動など直接援助を行わなかった要素についても徐々に遂行可能になっていった。指導場面以外でも,一切援助を行わなかった硬貨隠しゲームにおいて「見ることが知ることを導く」という原理を意識する様子がみられた。また,行動観察において他者の叙述的な心的状態に関する発話数が増加した。さらに,日常生活場面においても他者の「見ることが知ることを導く」という原理の理解の指標となるエピソードが報告・観察された。以上より,ゲーム共同行為ルーティンによって,「見ることが知ることを導く」という原理の理解が促進された可能性が考えられるが,指導後も,誤信念課題を通過できなかった。これはA児における物語理解の困難性と関連があると考察された。