著者
仲野 真史 長崎 勤
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.183-192, 2009-09-30

出来事を意味づける手段として、また読解力や自己理解および他者理解の発達的基盤として、ナラティブへの注目が高まっている。ナラティブは幼児期、学齢期を通して高次化していくが、この発達過程には大人からの社会的な働きかけ、一般的・社会的認知の発達、ふり遊びなどの行為水準での物語的活動が関与する。また、障害児のナラティブでは、それぞれの障害特性がナラティブの発達を制約する。日本ではナラティブの発達を支援する実践は古くから行われているものの、発達を体系的にとらえる観点やアセスメント方法の構築は進んでこなかった。本稿では、先行研究の概観を踏まえ、日本の子どものデータを積み上げること、これまでの知見を結びつけ、諸要因が影響し合うプロセスを解明すること、形式的側面だけでなく、ナラティブがどのような文脈でどのように使用されたのかといった側面を分析することなどの今後の課題が提起された。
著者
佐竹 真次 関戸 英紀 長崎 勤
出版者
山形県立保健医療大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1998

本研究では、ダウン症児や自閉症児などの発達障害児へのスクリプトによるコミュニケーション指導の体系性と実用性を、スクリプト指導の系統性とターゲット言語行動の般化、スクリプト指導と学校教育の教育課程との関連性に焦点を合わせて実験・調査することにより明らかにした。佐竹、長崎、関戸をはじめ、多くの事例研究により、スクリプトの体系の、発達の経過にそった「継時的側面」については、乳幼児期の儀式化されたフォーマットに始まり、幼児期の日常生活スクリプト、ならびに、ごっこ遊びやゲームなどの構成されたスクリプト、児童期におけるそれらのレパートリーの拡大と支援の連携の拡大、さらに、自分の気持ちや意志などの内的状態を表現したり、他者の気持ちや意図や信念を理解し適切な応答を行うためのスクリプト、思春期以降における社会生活スクリプトなどへと発展していく筋道が明らかになった。それをターゲット言語行動から見ると、当初は、物の要求、行為の要求、教示要求、あいさつ、報告、感想などの実用的な言語行動が優先され、次に、身体の調子や自他の内的状態の叙述、時間・空間に関する叙述などの習得の方向へ発展していき、命題的な叙述や構文の洗練といった要請はあとになることが示された。一方、同時代の広がりである「共時的側面」については、教育現場で実際にスクリプトがよく利用されている日常生活指導や学級活動、調理学習などの領域と、利用される見込みは高いがあまり利用されていない生活単元学習や作業学習などの領域とが、宮崎による養護学校からの実践報告や、佐竹によるコミュニケーション指導に関する実践研究のレビューによって、相当程度明らかにされた。今後は、生活単元学習、作業学習、その他の領域における指導のスクリプト化に焦点を当てた実践研究の蓄積を目指していく必要がある。
著者
西原 数馬 吉井 勘人 長崎 勤
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.28-38, 2006-04-20

広汎性発達障害児A児の発達評価より,「心の理解」における発達課題が「信念」理解における他者の「見ることが知ることを導く」という原理(Pratt&Bryant,1990)の理解であると評価されたため,これを指導目標とした。指導方法としては,親しい他者との相互交渉を利用した指導である「宝さがしゲーム」共同行為ルーティンを用いた。指導の結果,最初は指導場面内で変化が見られた。まず「宝さがしゲーム」内の直接援助を行った要素(例えば「隠した場所を教えない」行動など)が徐々に,自発によって遂行可能になった。「違う場所を教える」行動など直接援助を行わなかった要素についても徐々に遂行可能になっていった。指導場面以外でも,一切援助を行わなかった硬貨隠しゲームにおいて「見ることが知ることを導く」という原理を意識する様子がみられた。また,行動観察において他者の叙述的な心的状態に関する発話数が増加した。さらに,日常生活場面においても他者の「見ることが知ることを導く」という原理の理解の指標となるエピソードが報告・観察された。以上より,ゲーム共同行為ルーティンによって,「見ることが知ることを導く」という原理の理解が促進された可能性が考えられるが,指導後も,誤信念課題を通過できなかった。これはA児における物語理解の困難性と関連があると考察された。
著者
吉井 勘人 仲野 真史 長崎 勤
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.1-13, 2015 (Released:2016-07-15)
参考文献数
28
被引用文献数
1

自閉症児に対して、話者の不明確な発話への明確化要求の表出を目的として、おやつと工作の相互作用場面の構造化を図った共同行為ルーティンによる指導を行った。その結果、指導開始時には指導者の「それとって」といった曖昧な指示に対して適切な応答がみられなかったが、注意喚起、言語モデル提示といった段階的援助を導入したことにより、曖昧な指示に対して自発的に明確化要求を表出することが可能となった。加えて、対人・対物般化、家庭における明確化要求の般化が確認された。さらに、指導者の視線の方向を手がかりとして、指導者の欲求意図を推測しながら明確化要求を表出できることも示された。以上から、共同行為ルーティンを用いた指導は、話者の不明確な発話に対する明確化要求の表出を促進する上で有効であると考えられた。また、明確化要求の表出は、「心の理解」における他者の欲求意図理解の発達と密接に関連している可能性が推察された。
著者
仲野 真史 長崎 勤
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.183-192, 2009-09-30 (Released:2017-11-29)
被引用文献数
1 1

出来事を意味づける手段として、また読解力や自己理解および他者理解の発達的基盤として、ナラティブへの注目が高まっている。ナラティブは幼児期、学齢期を通して高次化していくが、この発達過程には大人からの社会的な働きかけ、一般的・社会的認知の発達、ふり遊びなどの行為水準での物語的活動が関与する。また、障害児のナラティブでは、それぞれの障害特性がナラティブの発達を制約する。日本ではナラティブの発達を支援する実践は古くから行われているものの、発達を体系的にとらえる観点やアセスメント方法の構築は進んでこなかった。本稿では、先行研究の概観を踏まえ、日本の子どものデータを積み上げること、これまでの知見を結びつけ、諸要因が影響し合うプロセスを解明すること、形式的側面だけでなく、ナラティブがどのような文脈でどのように使用されたのかといった側面を分析することなどの今後の課題が提起された。
著者
野本 有紀 長崎 勤
出版者
障害科学学会
雑誌
障害科学研究 (ISSN:18815812)
巻号頁・発行日
vol.31, pp.21-31, 2007-03-30

5・6歳児に対し、視覚的手がかり(中心要素・周辺要素)と手がかりなしの3条件を用いて、ナラティブ(フィクショナルストーリー)を聞かせ、その理解とリテリングによる産出の差異を検討した。その結果、理解においては5・6歳児では物語の中心要素は理解されていること、さらに6歳児の方が5歳児より物語を理解しており、中でも6歳児では周辺要素手がかりが理解を促進することが示された。産出においてはミクロ構造とマクロ構造の両面から分析し、両面において産出数では6歳児において周辺手がかりが最も産出を促進し、より長いリテリングが得られたが、産出される結束性の種類やストーリー構造は限定されていた。本研究の結果と先行研究の結果を合わせて考えると物語の理解と産出の双方において、中心から周辺要素へと獲得されていく過程が示唆されるとともに、5・6歳児がより高次なナラティブ産出のレベルへと移行する過渡期にあることが示唆された。
著者
長崎 勤
巻号頁・発行日
2013

科学研究費助成事業(学術研究助成基金助成金)研究成果報告書:挑戦的萌芽研究2010-2012
著者
長崎 勤
巻号頁・発行日
2013

科学研究費助成事業(科学研究費補助金)研究成果報告書:基盤研究(B)2009-2012
著者
四日市 章 河内 清彦 園山 繁樹 長崎 勤 中村 満紀男 岩崎 信明 宮本 信也 安藤 隆男 安藤 隆男 前川 久男 宮本 信也 竹田 一則 柿澤 敏文 藤田 晃之 結城 俊哉 野呂 文行 大六 一志 米田 宏樹 岡崎 慎治 東原 文子 坂尻 千恵
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2005

研究成果の概要 : インクルーシブ教育を理論的・実践的両側面から捉え、国内外の障害に関する理念・教育制度の展開等について歴史的に解明するとともに、特定地域の幼児・親・教師を対象として、障害のある子どもたちのスクリーニング評価の方法の開発とその後の支援について、長期的な研究による成果を得た。
著者
長崎 勤 宮本 信也 池田 由紀江
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

本研究では[研究I]の「心の理解」の発達機序についての解明と、[研究II]の「心の理解」の発達援助に大別して研究を行った。[研究I]では、0-1歳の取り上げ場面での、実験者による応答条件と非応答条件の比較検討を行った結果、「待つこと」は、15ヶ月以降、応答条件が非応答条件に比べ持続時間が長くなり、高次な手段に変換するようになり、1歳半ばから他者意図の想定が明確になることが示された。また、1-2歳児における誤提示条件への応答の分析から、1歳半頃から「他者意図の気づき」の反応がみられ、その後、相手の反応に応じ伝達手段の変更を行い、2歳前半では大人の関わり方に左右されず、伝達手段を修正できた。2、3歳児の母子場面の心的状態語の表出を分析した結果、2歳では自己欲求に関する発話が中心であり、3歳では自己叙述が増加し、他者叙述も増加することが示され、自己から他者へ、欲求から叙述へという発達過程が考えられた。高機能自閉症児の「心の理解」の発達と談話の発達の関係を分析した結果、誤信念課題等の「心の理論」課題の通過群では、自分の過去経験についての語りは他者や自己の心的状態に言及することが多かったが、未通過群ではそれらが少なく、また未通過群は出来事を時系列的に並べず並列させていた。[研究II]では「『心の理解』発達援助プログラム(MAP)」を開発し、発達障害児に対し発達援助を行った。広汎性発達障害児およびダウン症児に対し、「宝探しゲーム」やおやつ場面を用いて他者の欲求意図理解と信念理解の発達を援助し、「心の理解」発達の効果を認めた。また、自閉症児に対し相談機関と通園先の保育所において、小集団の模倣遊びと鬼ごっこルーティンを用いた指導を行った結果、指導場面で役割の自発的遂行が可能になった。
著者
長崎 勤 菅野 敦
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

ディスコースにおいて重要な自他の意図に関する意識や理解の発達を検討するために、複数の中から相手の意図(好み)を尋ねる選択質問を使って健常児のディスコースの発達と発達遅滞児の指導プログラムについての検討を行った。研究Iでは、健常児における他者の欲求意図理解の発達について検討を行った。その結果、2歳〜3歳児は、自他の欲求意図を同一化する傾向があり、4歳〜5歳児になると、自己と他者の欲求意図の自律性の理解ができていた。研究IIでは、研究Iのディスコースユニットモデルを基に工作場面とおやつ場面を設定し、言語発達遅滞児の会話技能の指導を実施した。7歳のダウン症女児に、工作場面で身体援助、言語指示、モデル提示などの段階的な援助を与え、聞き手の意図を想定した発話行為の遂行を促したとごろ、セッションの経過と共に相手の意図を尋ねる行為が可能になった。研究IIIでは、場面によるディスコースの特徴を検討するために、健常児2歳、3歳とダウン症児(MLUマッチング)の母子相互交渉を観察した結果、母子間で知識が共有され、認知的負荷が軽減されている日常生活ルーティン場面の方が、玩具遊び場面よりも時空間的に離れた事象への言及といった、高次な言語使用が多いことが示された。会話内容が「今、ここ」に限定されることが指摘されているダウン症児は、会話初期から既に未来事象への言及が少ないことが示され、指導の必要性が示唆された。研究IVでは、おやつスクリプトの獲得について、10〜20ケ月の健常児とダウン症児(MAマッチング)について縦断的検討を行った結果、スクリプトの中心的要素から細部要素へ(18ケ月頃)という獲得の順序性が示され、また同時期に言語による伝達が開始されたことから、スクリプトの獲得と言語獲得及びディスコースとの関連性が示された。ダウン症児は、スクリプト獲得に遅れがみられ、言語獲得やディスコース発達の遅れの1つの要因である可能性が示唆された。研究Vでは、6歳のダウン症女児にファーストフード店場面を設定し、誤提示を用いて伝達意図の調整を指導したところ、調整を求める選択質問への応答や、相手の要求に応じて意図を調整すると言った伝達の柔軟な調整が可能になり、実際のファーストフード店での般化も確認された。
著者
長崎 勤 宮本 信也 小野里 美帆
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

第I部では会話・ナラティブ発達研究の意義と課題について検討した。第II部・会話の発達では、健常幼児の2、3歳児は、母親の明確化要求に応答することで会話を継続し、かつ子どもが自発的に明確化要求を使用することで会話に参加する様相が認められ、広汎性発達障害児では、自ら明確化要求を使用することで会話を継続していくことはみられなかった。ナラティブの発達では、直前の「ケーキ作り」経験についての母子会話場面を分析した結果、3歳では複数の出来事に言及したり,それらを関連付けることが少なく、4歳になると複数の節を「時間」関係で関連付け、5、6歳になると「因果」「比較」「逆」等の多様な関係において節を関連付けるという発達過程が示された。フィクショナル・ストーリーの語りにおける視覚的手がかりの有効性を検討した結果、6歳児において周辺要素手がかりが物語理解と物語産出を促進し、物語理解においては5・6歳の年齢段階で中心要素がすでに獲得されていた。第III部では、自閉症児を対象に工作とおやつ場面の共同行為ルーティンを用いて、話者の不明確な発話に対する明確化要求の使用を目的とした指導を行った結果、指導者の曖昧な指示に対して、事物を差し出して「これですか?」と自発的に聞き返すことが可能になっていった。広汎性発達障害児を対象とし、物語文法の各要素を示す連続絵を提示し、「吹き出し」への書き込みを指導手続きに導入した結果、絵に描かれていない情報を含むCUが産出され、「欲求」「感覚」などが「吹き出し」に書き込まれるようになった。第IV部においては、以上の研究を基盤にした第I段階(通常2〜3歳代)から第III段階(通常5〜6歳代)までの「会話を通したナラティブ発達支援・基礎プログラム試案(NAP)」を提案した。