著者
西島 章次
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

平成12年度は、研究計画に従い、平成11年度の基礎的・理論的研究成果を踏まえ、政府と制度の市場補完的役割について、とくにラテンアメリカ諸国におけるネオリベラリズム(新経済自由主義)の進展のコンテキストのなかで、いくつかの問題を研究課題とした。まず、市場自由化の過程で生じた通貨危機の問題に対し、銀行システムへのプルーデンス規制などの政府の役割が重要であるとことを、「通貨危機と銀行システムの健全性」においてラテンアメリカとアジア諸国の通貨危機を比較しながら検討した。また、ブラジルでは通貨危機の後、変動相場制へと転換し、変動相場制下でのインフレ政策としてインフレーション・ターゲッティング政策が実施されたが、「ブラジルのインフレーション・ターゲッティング政策」において、中央銀行の政策能力とそれを強化する制度的枠組み、政府の財政政策に関する規律を高める制度の重要性を理論的に明らかとした。さらに、本プロジェクトの総括的研究として、ラテンアメリカにおける経済自由化の成果と問題点、また、経済自由化を一層成功裏に進めるための課題としての政府と制度の役割の重要性、さらには政府と制度能力の改善のための課題などを、「ラテンアメリカ経済-新経済自由主義の帰結と課題」「ラテンアメリカ-ネオリベラリズムの成果と課題」で公表している。いずれにおいても、市場を補完する政府と制度能力の改善のためには、政治的プロセスと経済民主化のプロセスが不可欠であり、また、ネオリベラリズムに基づく経済自由化自体がそのだめのインセンティブを作り出しつつあることを、ラテンアメリカ諸国の事例を用いて検証している。今後の課題として、政府能力と制度構築のための第二世代の政策改革へのインセンティブについて、より厳密な検証を、政治経済学的アプローチを用いて実施することが必要である。この問題は引き続き科学研究費を申請して研究を継続する予定である。