著者
木村 淳志 西村 勇輝
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0062, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに,目的】肩には医学的な定義は明確ではないが,なで肩といかり肩の肩型がある。通常,見た目で判断されるこの分類は,安静時での胸郭に対する肩甲骨の位置や回旋角度の違いによるものであり,肩甲骨運動を不規則にする一因であると考える。本研究の目的は,なで肩,いかり肩が肩甲上腕リズムに与える影響を調査することである。【方法】対象は肩に愁訴のない成人男性で,事前の調査で分類した普通肩9名,なで肩9名,いかり肩8名の26名(26肩),平均年齢は27.3±4.0歳とした。この分類は,鎖骨遠位端から頚部への線と水平線がなす角度を頸肩傾斜角として,なで肩24°以上,普通肩24未満19°以上,いかり肩19°未満とした判断基準(第50回日本理学療法学術集会)を使用し,普通肩22.7±1.5°,なで肩27.9±2.4°,いかり肩17.9±1.7°で3群に有意な差を認めた。本研究の計測は,磁気センサー式3次元空間計測装置(Polhemus社製)を用いた。運動課題は上肢肩甲面挙上で,下垂位から最大挙上までを練習後,運動を1回行い,上肢挙上0~120°に伴う肩甲骨上方回旋角,後方傾斜角,外旋角および肩甲上腕関節挙上角を10°毎に算出した。この上肢挙上0~120°の算出値と30~120°の10°毎の肩甲上腕リズム(=肩甲上腕関節挙上角/肩甲骨上方回旋角)を普通肩,なで肩,いかり肩の3群で比較した。統計処理は多重比較検定(Bonferroni法)を用い,危険率5%未満を有意差ありと判断した。【結果】上肢挙上0~120°の肩甲骨上方回旋角は,普通肩(0.7~41.3°)と比較してなで肩(-2.6~36.0)は低値,いかり肩(4.7~42.6°)は高値で増加する傾向にあった。普通肩となで肩の比較は10~50°でなで肩が有意に低値を示したが,普通肩といかり肩の比較は全角度で有意な差を認めなかった。なで肩といかり肩の比較では,0~100°でなで肩が有意に低値を示した。肩甲上腕関節挙上角は,上肢挙上0°は普通肩(6.6°)と比較してなで肩(4.8°)が低値,いかり肩(8.3°)が高値であり,上方回旋角と同様であった。上肢挙上10~120°では逆となり,普通肩(9.7~75.7°)と比較してなで肩(12.2~79.1°)が高値,いかり肩(7.8~75.3°)が低値で増加する傾向にあった。普通肩となで肩の比較は上肢挙上40~60°でなで肩が有意に高値,なで肩といかり肩では上肢挙上10~90°でなで肩が有意に高値であった。上肢挙上30~120°の肩甲上腕リズムは普通肩1.8,なで肩2.7,いかり肩1.6(全例2.0)であり,なで肩は普通肩,いかり肩と比較して有意に高値を示した。【結論】Inmanは外転30°,屈曲60°まではsetting phaseで肩甲骨の動きは一律ではないと述べている。本研究の結果より,なで肩といかり肩の上肢肩甲面挙上での肩甲骨上方回旋,肩甲上腕リズムに差があるわかり,なで肩やいかり肩の分類も挙上初期の肩甲骨運動を不規則にする要因の一つであることが示唆された。