著者
木村 淳志 永吉 由香 緑川 孝二
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48101494, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】投球は、下肢と体幹で作ったエネルギーを上肢、そして、ボールへと伝える全身運動である。下肢・体幹の機能低下や運動連鎖の破綻は上肢のオーバーユースにつながり、投球障害に陥る。そのため、肩や肘の投球障害において、下肢の柔軟性の評価・治療は重要である。当院では投球障害肩に対し、肩の11項目に肩以外の全身6項目を加えた17項目を重要項目として点数化し、投球禁止や再開、競技復帰の指標としている。我々は、この17項目をもとに、投球障害肩の治療経過を調査し、股関節内旋と足関節背屈の柔軟性の改善が難渋する傾向にあることを、第24回九州・山口スポーツ医科学研究会で報告した。今回、足関節背屈の柔軟性を効率良く改善する方法として、縄跳びをスタティックストレッチの前運動として導入することを考え、影響を調査したので報告する。【方法】対象は、膝伸展位での足関節背屈の他動運動が0°以下と柔軟性が低下し、愁訴のない成人25名(男性15名、女性10名)とした。平均年齢は26.6±4.9歳であった。方法は、足関節背屈のスタティックストレッチのみを実施した群(以下、ストレッチのみ群)と、スキップ、ジョグ、縄跳びの運動課題後にスタティックストレッチを行った群(以下、スキップ群、ジョグ群、縄跳び群)を比較検討した。スキップとジョグは、5mの距離を8の字で2周、縄跳びは左右交互の駆け足飛びで40回とした。スタティックストレッチは、疼痛を感じず伸張できる強度で、両側を交互に20秒間ずつのセルフストレッチとした。それぞれ、運動前後に膝伸展位での足関節背屈を他動的に測定した。統計処理は、F多重比較検定を行い、危険率5%未満を有意差ありとした。【倫理的配慮、説明と同意】対象者には、ヘルシンキ宣言に基づき、あらかじめ本研究の内容、個人情報の保護を十分に説明し、同意を得た。【結果】足関節背屈角度の増加量は、ストレッチのみ群:1.3±0.3°、スキップ群:1.7±0.9°、ジョグ群:2.8±0.9°、縄跳び群:8.8±0.5°であり、ストレッチのみ群と比較すると、ジョグ群と縄跳び群が、有意に増加した(p<0.01)。ジョグ群と縄跳び群の増加量の比較では、縄跳び群が有意に増加した(p<0.01)。【考察】臨床の現場では、いわゆる「体が硬い」症例を多く目にする。このような場合、ストレッチを施行しても痛みのみを発生させたり、伸張感が無かったりと、ストレッチに対する効果や変化を得られない事が多い。今回の研究では、スタティックストレッチで可動域の増加が認められなかった対象者が、縄跳びを行った後にスタティックストレッチを行うことで、可動域の増加が認められた。筋腱複合体の影響による柔軟性の低下は、筋緊張の亢進(過緊張状態)と筋の伸張性の低下によるものがある。縄跳びは、伸張刺激により筋緊張の抑制効果が働き、スタティックストレッチによる伸張性の改善を効果的なものとしたと考える。同様のジャンプ系運動のスキップやジョグと比較したが、縄跳び群は有意差を持って改善している。これは、スキップやジョグは、前方移動を含むジャンプであり、前方へ移動しない上方移動の縄跳びの影響が足関節背屈の可動域改善に効果的に働いたと考える。これにより、縄跳びが治療や自主練習の導入の1つとして効果的であると思われた。【理学療法学研究としての意義】今回の研究では、駆け足での縄跳び40回という軽運動に、痛みのない範囲で20秒間のストレッチを行う低負荷、短時間の伸張刺激で、即時的ではあるが足関節背屈の可動域の改善がみられた。ストレッチの効果に関する報告は様々あるが、明確な方法は示されていない。縄跳びという簡易的にできる運動とセルフストレッチを行うことで、可動域が改善したことは、より有効なストレッチを施行する一助になると考える。
著者
森田 正輝 永吉 由香 木村 淳志
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Ce0121, 2012

【はじめに、目的】 ランニングやボールキック等により、脛骨前方移動量(以下、移動量)が増加するという諸報告がある。しかし、それらは単的な運動にすぎず、実際のスポーツ活動中に測定した報告は無い。また、前十字靱帯(以下、ACL)損傷が試合・練習の後半で発生しやすいという報告もあり、その原因の解明は意義があることだと考える。今回、女子バスケットボールにおいて、ACL損傷についての教育を受け予防トレーニングを行っているチームと教育・トレーニングを行っていないチームに対して練習中の移動量を経時的に測定し練習量と移動量の関係を中心に調査することでACL損傷予防を検討した。【方法】 高校女子バスケットボール部のチームC(19名・平均年齢15.9±0.7歳)とチームN(14名・平均年齢16.5±0.5歳)の2チームに所属する部員で、当日の練習に全て参加し、且つ膝に愁訴の無い者を対象とした。測定は、利き足・非利き足の移動量をロリメーター(日本シグマックス社製)にて3回ずつ測定した。以上の測定を、練習前・練習中間・練習後(以下、前・中・後)にそれぞれ実施した。チームCは当院スタッフが帯同し、ACLについての講義を受け予防トレーニングを行い3年間ACL損傷が発生していない。チームNはACLについての知識が無く予防トレーニングも行っておらず3年間で2例2膝のACL損傷が発生している。当日はこの2チームが4時間半の合同練習を行った。得られた測定値はWilcoxon符号付順位和検定を用い有意水準を5%未満として統計学的処理を行った。【倫理的配慮、説明と同意】 対象者にはヘルシンキ宣言に基づき、あらかじめ本研究の内容・個人情報の保護を十分に説明し、参加に同意を得て行った。【結果】 チームCの利き足は、前4.39mm・中5.31mm・後5.42mm、前-中(p<0.01)・中-後(p=0.60)、非利き足は、前4.16mm・中5.41mm・後5.66mm、前-中(p<0.01)・中-後(p=0.27)であった。チームNの利き足は、前4.14mm・中5.31mm・後5.55mm、前-中(p<0.01)・中-後(p=0.37)、非利き足は、前4.33mm・中5.29mm・後5.61mm、前-中(p<0.01)・中-後(p=0.08)であった。いずれのチームにも同様の結果が得られた。【考察】 移動量はACLの緊張だけでなく関節包・筋などの軟部組織の柔軟性も関与している。バスケットボールに多いダッシュ・ターン・ジャンプ動作は、膝関節に前後方向・回旋ストレスを与え、それらに対し直接的なストレッチとなることで、軟部組織の柔軟性が向上し、移動量の増加が認められたと考える。しかし、どちらのチームも同様の結果であったにも関わらずチームCにはACL損傷が発生していないことから、選手に対しACLについての教育や予防トレーニングを行うことが重要であることを示唆している。また、今回の研究では練習中間までの移動量の増加が著しく、中間からは時間経過とともに起こる上昇はゆるやかになるが、頭打ちにはならなかった。試合・練習の後半に受傷が多いという報告もあり、移動量の増加がこの一因となっている可能性が示唆されるため、これを念頭に置いて予防トレーニングをする必要がある。【理学療法学研究としての意義】 我々理学療法士としてはACL再建術後等の患者に対し動作指導を行う際に、疲労を起こさないように配慮することが多い。しかし、今回の研究結果により練習・試合の後半を見越しての確実な動作を獲得するためのアスレチックリハビリを実施し、競技復帰を許可することの重要性を示した。
著者
押領司 俊介 井上 彰 鶴田 崇 的場 早条 木村 淳志 緑川 孝二
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48101899, 2013

【はじめに、目的】 肩関節障害の原因は、肩関節複合体にとどまらず、骨盤や体幹といった全身からの影響を多く受けているが、肩関節の機能向上を目的とした訓練を指導する際、強度や回数の設定は行っても、訓練時の姿勢について着目することは少ない。近年、姿勢と肩甲骨アライメントとの密接な関係を示唆する文献も散見され、姿勢が肩甲上腕関節に与える影響も大きいと考える。 肩峰骨頭間距離は単純X線写真により計測されるが、座位姿勢による検討は散見しない。そこで今回、超音波画像診断装置を用い肩峰-大結節間距離を測定し、骨盤前後傾誘導による座位姿勢の違いが肩甲上腕関節に与える影響を検討した。【方法】 対象は健常成人男性16名16肩。平均年齢26.3±5.1歳(22~42歳)。全例利き手の右側で計測した。超音波画像診断装置はTOSHIBA社製Xario(7.5MHzリニア型プローブ)を用いた。座位は、縦6cm横40cm高さ3cmの硬性ポロン材の板(以下ポロン板)を椅子の中央に置き、椅子の高さは座位姿勢で両下肢の足底が全面設置する高さと規定した。ポロン板に両坐骨を乗せた状態での自然坐位を中間位とし、中間位から上体を動かさず、坐骨がポロン板から落ちないように骨盤前傾した状態を前傾位、骨盤後傾した状態を後傾位とした。骨盤角度はゴニオメーターと水平計を用い、上前腸骨棘と上後腸骨棘を結んだ直線と水平線の角度を計測した。それぞれの位置で超音波画像診断装置を用い、上肢下垂位での肩峰前面-腱板付着部(superior facet)間の距離を測定した。統計学的検討には二元配置分散分析法・多重比較検定を用い、危険率5%未満を有意差ありとした。【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には、ヘルシンキ宣言に基づき、あらかじめ本研究の内容、個人情報の保護を十分に説明し、同意を得た。【結果】 座位姿勢の変化は、骨盤中間位から前傾位への移動量が平均13.9°、後傾位への移動量が平均22.1°であった。肩峰前面-腱板付着部間の距離は、中間位で平均24.27mm、前傾位で平均25.82mm、後傾位で平均22.48mmであった。前傾位から後傾位になるにつれ距離が短くなり、それぞれの肢位で有意差を認めた。【考察】 今回の座位姿勢の変化量は、ポロン板上での骨盤移動に規定しており、通常の立位や座位でのアライメントの崩れによる骨盤移動量と比べ、その変化量は少ないと思われる。この規定内で骨盤誘導を行ったにも関わらず、骨盤前傾に伴い肩峰-大結節間距離は有意差を持って長くなり、骨盤後傾に伴い肩峰-大結節間距離は有意差を持って短くなる結果が得られた。その原因は、腰椎や胸椎、肩甲骨など多くの要因を含んでいると考える。 骨盤の後傾に伴い腰椎の前弯は減少し、胸椎後弯は増強する。Finleyらは、意図的にだらしない(胸椎後弯の)姿勢をとった場合、肩甲骨前傾・上方回旋が増加したと報告し、姿勢と肩甲骨運動の密接な関係を示した。また村木らは、肩甲骨の前傾に伴い肩峰下最大接触圧は直線的に減少したと報告し、肩甲骨アライメントの変化が肩甲上腕関節に与える影響を示唆している。肩甲上腕関節での肩峰と大結節間の関係を見ても、肩甲骨の前傾に伴い肩峰-大結節距離は短くなり、今回の結果において骨盤後傾に伴い肩峰-大結節間距離が短くなった結果も、これらの先行研究と同様の結果であると考える。 今回の研究では、肩甲骨アライメントの3次元的な動きの詳細までとらえることは出来ないが、骨盤前傾に伴い腰椎前弯の増強、胸椎後弯の減少が起こり肩甲骨下方回旋・後傾・外旋が起こり、肩峰-大結節間距離は長くなり、骨盤後傾に伴い腰椎前弯の減少、胸椎後弯の増強が起こり肩甲骨上方回旋・前傾・内旋が起こり、肩峰-大結節間距離は短くなったと考える。【理学療法学研究としての意義】 肩関節機能向上を目的とした訓練を行う際、通常は立位で行うことが多い印象を受けるが、場合によって座位で訓練を行う事も少なくない。今回の研究では、座位面を指定し、上体を動かさずにポロン板上で骨盤を誘導するといった、非常に狭い範囲での結果においても有意な差が生じたことより、今後立位、座位ともに、肩関節機能向上を目的とした訓練を行う際は、姿勢も考慮して指導する必要性があると考える。また今後の展望として、これらの肢位の違いによる筋出力の変化や、疼痛を有する患者の訓練方法などを検討していきたい。
著者
木村 淳志 西村 勇輝
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0062, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに,目的】肩には医学的な定義は明確ではないが,なで肩といかり肩の肩型がある。通常,見た目で判断されるこの分類は,安静時での胸郭に対する肩甲骨の位置や回旋角度の違いによるものであり,肩甲骨運動を不規則にする一因であると考える。本研究の目的は,なで肩,いかり肩が肩甲上腕リズムに与える影響を調査することである。【方法】対象は肩に愁訴のない成人男性で,事前の調査で分類した普通肩9名,なで肩9名,いかり肩8名の26名(26肩),平均年齢は27.3±4.0歳とした。この分類は,鎖骨遠位端から頚部への線と水平線がなす角度を頸肩傾斜角として,なで肩24°以上,普通肩24未満19°以上,いかり肩19°未満とした判断基準(第50回日本理学療法学術集会)を使用し,普通肩22.7±1.5°,なで肩27.9±2.4°,いかり肩17.9±1.7°で3群に有意な差を認めた。本研究の計測は,磁気センサー式3次元空間計測装置(Polhemus社製)を用いた。運動課題は上肢肩甲面挙上で,下垂位から最大挙上までを練習後,運動を1回行い,上肢挙上0~120°に伴う肩甲骨上方回旋角,後方傾斜角,外旋角および肩甲上腕関節挙上角を10°毎に算出した。この上肢挙上0~120°の算出値と30~120°の10°毎の肩甲上腕リズム(=肩甲上腕関節挙上角/肩甲骨上方回旋角)を普通肩,なで肩,いかり肩の3群で比較した。統計処理は多重比較検定(Bonferroni法)を用い,危険率5%未満を有意差ありと判断した。【結果】上肢挙上0~120°の肩甲骨上方回旋角は,普通肩(0.7~41.3°)と比較してなで肩(-2.6~36.0)は低値,いかり肩(4.7~42.6°)は高値で増加する傾向にあった。普通肩となで肩の比較は10~50°でなで肩が有意に低値を示したが,普通肩といかり肩の比較は全角度で有意な差を認めなかった。なで肩といかり肩の比較では,0~100°でなで肩が有意に低値を示した。肩甲上腕関節挙上角は,上肢挙上0°は普通肩(6.6°)と比較してなで肩(4.8°)が低値,いかり肩(8.3°)が高値であり,上方回旋角と同様であった。上肢挙上10~120°では逆となり,普通肩(9.7~75.7°)と比較してなで肩(12.2~79.1°)が高値,いかり肩(7.8~75.3°)が低値で増加する傾向にあった。普通肩となで肩の比較は上肢挙上40~60°でなで肩が有意に高値,なで肩といかり肩では上肢挙上10~90°でなで肩が有意に高値であった。上肢挙上30~120°の肩甲上腕リズムは普通肩1.8,なで肩2.7,いかり肩1.6(全例2.0)であり,なで肩は普通肩,いかり肩と比較して有意に高値を示した。【結論】Inmanは外転30°,屈曲60°まではsetting phaseで肩甲骨の動きは一律ではないと述べている。本研究の結果より,なで肩といかり肩の上肢肩甲面挙上での肩甲骨上方回旋,肩甲上腕リズムに差があるわかり,なで肩やいかり肩の分類も挙上初期の肩甲骨運動を不規則にする要因の一つであることが示唆された。