著者
西村 正登
出版者
山口大学大学院東アジア研究科
雑誌
東アジア研究 (ISSN:13479415)
巻号頁・発行日
no.8, pp.149-164, 2010-03

戦後のアメリカの道徳教育は、次の三大潮流に集約される。第一は、「価値の明確化」による道徳教育である。これは1960年代~70年代にかけてアメリカ西海岸を中心に主知主義的な教育への反省の上に立って、「学校の人間化」をスローガンにして推し進められたものである。第二は、1970年代~80年代にかけてコールバーグを中心にして発展したモラルジレンマによる道徳教育である。コールバーグは道徳的判断に関する3水準6段階の発達段階を提示し、アメリカのみならず広く世界に道徳教育の理論的枠組みを提供した。第三は、1990年代以降に発展したキャラクター・エデュケーションである。これは学校の危機的な状況を救うためには、まず基本的な道徳的内容を直接子どもに教えることが必要であり、民主主義社会に必要な普遍的道徳的価値を教えることが必要であると説いた。本稿では、この3つの道徳教育の理論と実践を比較しながら考察することにより、「道徳教育で普遍的価値を教えるべきか否か?」という問題を教育の原点に立ち返って吟味し、日本の道徳教育の現状も合わせて考察しながら、今日の道徳授業に必要とされるエキスを洗い出していくことを目的にしている。