- 著者
-
大谷 省吾
西澤 晴美
五十殿 利治
- 出版者
- 独立行政法人国立美術館東京国立近代美術館
- 雑誌
- 基盤研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 2018-04-01
本研究は、近年海外からの注目も高まりつつある戦後日本の前衛芸術運動についての研究基盤の整備に寄与しようとするものである。とりわけ文献資料が少なくその実相が十分に明らかになっていない終戦直後の占領期の状況に光を当てるために、1951年に東京で結成された前衛芸術グループ「実験工房」の中心人物のひとりであった山口勝弘(1928-2018)の1945年から1955年までの約10年間にわたる日記を詳しく調査し、記述された内容を他の関係作家の日記・書簡等の資料や公刊資料によって裏づけをとりながら、比較検証していくものである。初年度にあたる2018年度は、山口の日記18冊およびノート8冊(ノートは一部、1960年代のものを含む)をスキャンしてデータ化し、さらにそれらに記された手書きの文章をパソコンで翻刻していく作業へと進んだ。一方で、各研究分担者がそれぞれ担当する時期の日記を読み込み、検討すべき課題について整理をはじめた。日記全体の概要およびその美術史的意義について五十殿利治は論考「「山口勝弘日記」(仮称)の調査研究について」をまとめ、筑波大学芸術系の研究誌『藝叢』(34号、2019年3月)に発表した。また大谷省吾は東京国立近代美術館においてコレクションによる小企画「瀧口修造と彼が見つめた作家たち」を開催し、同展の中で山口らの作品と、瀧口修造の周辺にいた他の作家たちとの「物質」の扱い方を比較考察した。西澤晴美は神奈川県立近代美術館に所蔵されている斎藤義重アーカイヴの手帳・ノート類、書簡類の資料整理を進め、山口勝弘をはじめとする実験工房メンバーとの交流について考察を進めた。斎藤の資料リストは同館ウェブサイトで一部公開しているほか、同館アーカイヴ事業に関する研究会(2019年1月18日開催、非公開)でも紹介を行った。