著者
西田 正剛
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日耳鼻 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.77, no.11, pp.931-943, 1974

目的:猫の一側耳に強烈な温度刺激を与えた後の聴覚系の変化を,第8神経活動電位(AP),蝸牛電位(CM)を指標として観察.記録し,前遜系と聴覚系の根関関係の一端を解明することを目的とした.方法:1)成猫を用い,ネソプタール麻酔の下に,後頭開頭術を行い,第8神経を露出し,双極電極を挿入し,APを導出した.又CMは花円窓誘導にて導出した.<br>猫の頭位を上方60&deg;に固定し,温度刺激として60&deg;Cの温水,及び10&deg;Cの冷水を各々50mlずつ外耳道より注入した.<br>音刺激としてはAP導出時はクリンクを,CM,導出時は1000Hzの持続純音な用い,温度刺激前後のAP,CMの変化を経時的に観察記録した<br>2)気管切開術を施行し,筋弛緩剤を使用人工呼吸の下にストリキニンを静注し,聴覚系下位遠心性線維であるOlivo-cochlear bundleをブロックして,1)と同様の測定を行った.<br>3)第8神経をその中枢端にて,できるだけ血流を保つたまま切断し,切断末梢側にAP導出用電極を挿入した,すなわちOlivo-cochlear bundleの関与を断つて1)と同様の測定を行った.<br>結果並に結論<br>1)60&deg;C温刺激,並に10&deg;C冷刺激後,APには1分後より振幅に著明な増大(60&deg;C,77%10&deg;C,75%)がみられた.<br>尚潜時,持続時間には変化がみられず,又振幅の変化は可逆的であつた.<br>一方CMには振幅の著明な減少がみられた(60&deg;C 45%,10&deg;C 45%減少).CMの変化も可逆的であつた.<br>AP及びCMの変化は振幅のみであり,その増減がAPは増大,CMは減少と逆であることから,中枢の開与を考えた.そしてOlivo-cochlear bundleに電気刺激を加えた時のAP,CMの振幅変化と正反対であることから,強烈な温度刺激によりOlivo-cochlearbundleが抑制されたものと推論した.<br>2)ストリキニンを使用して,あらかじめolivo-cochlear bundleをブロツクしたも規のでは,温度刺激後のAPの変化は一定せず,振幅増大25%,振幅不変50%,振幅減少25%であつた.潜時,持続時問には,変化がみられなかつた.<br>一方,CMには全く変化がみられなかつた.<br>3)第8神経切断後は,AP,CM共に温度刺激後に変化がみられなかつた.<br>2)及び3)により,1)で得た推諭,すなわち強烈な温度刺激により聴覚系遠心性線維であるOlivo-cochlear bundleが抑制されることを裏付け前庭系と聴覚系の特殊な関係の一端を明らかにした.