著者
西矢 貴文
出版者
京都大学
巻号頁・発行日
2009-09-24

新制・課程博士
著者
西矢 貴文
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

近代日本の「国家神道」期における神道家の内実を聞明するために、明治末期から昭和戦前期に活動した神道人の一人である葦津耕次郎に焦点を当てて研究を遂行した。とりわけ、強烈な神道信仰をもつ宗教的人間として、その信仰に導かれて形成される国体観、天皇観などに基づいだ諸活動とともに、葦津の事業家としての側面も明らかにすることを目的とした。如上の目的を達成するために、今年度は、国立国会図書館、国立公文書館、外交史料館、國學院大学図書館、関西大学図書館などにおいて未見資料の調査と蒐集を行った。その成果として結実した研究論文が、「事業家としての葦津耕次郎」(『明治聖徳記念学会紀要』復刊第43号)と「大正期の葦津耕次郎」(『神道宗教』205号掲載予定)である。「事業家としての葦津耕次郎」では、葦津耕次郎が関わった事業として、満洲における鉱山業・博多湾築港事業・社寺建設業を扱い、その事業の経緯を検討することを通じて、筥崎八幡の神威高揚と天皇の皇威発揚、そして国威向上を目的とするという自らが語る事業観が、そのまま経営のありかたに反映されていることを論じた。また、「大正期の葦津耕次郎」では、明治末期から大衆社会化が進行する一方で、第一次世界大戦やロシア革命を経て日本国内でも思想悪化、共産主義の脅威が喧伝されるなか、あるべき国の姿を実現することを鋭く追求するようになってゆく葦津の思想と活動を考察した。葦津は、大正初年に出会った川面凡児の神道教学に多大な影響を受けて自らの信仰を語る言葉を得た。大正期における敬神護国団の結成と純正普選運動への関わりを通じて、そのなかで葦津が川面教学から得たタームを使用しながら語った天皇観や国体観は、危殆に瀕する国体を救済するための政治的言説に直結し、この後の葦津による神道的昭和維新案へと結実してゆく前提となることが明らかになった。