著者
西脇 隆太
出版者
水文・水資源学会
雑誌
水文・水資源学会研究発表会要旨集
巻号頁・発行日
vol.25, 2012

2008年7月の兵庫県都賀川での災害を皮切りに,近年我が国ではゲリラ豪雨と呼ばれる局地的大雨が多く報告され,これによる災害が問題となっている.このゲリラ豪雨は時間スケールは1時間未満,空間スケールは約数kmと時間・空間共にスケールが非常に小さな現象なので,災害の軽減には1分1秒でも早い情報提供が重要になってくる.そこでこのような災害を監視のするために国土交通省は2010年にXバンドMPレーダ網を導入した.XバンドMPレーダは従来から行われてきた低仰角観測だけでなく立体観測も行っており,この観測結果を用いて地上で豪雨になるよりも早い時刻での降水セル(タマゴ)の探知及び3次元的な追跡が可能となった.しかし,探知したタマゴ全てが発達するわけではないので,探知したタマゴが豪雨をもたらす危険性があるかという判断を早期に行う必要がある.そこで本研究は,早期に探知したタマゴが発達するか否かをできる限り早期に判断することを目的とし,その危険性予知の指標として積乱雲の気流による渦に着目する.着目理由としては,積乱雲の形成に伴う上昇気流が存在すると水平渦が立ち上がり,積乱雲内に鉛直方向に軸を持つ鉛直渦が形成され,空気塊は回転しながら上昇していく.積乱雲の発達は断熱過程で,渦位は保存されるので,上昇気流によって引き伸ばされた空気塊は時に大きな渦度を生み出し,それによって周囲の水蒸気が積乱雲内に取り込まれ凝結する.そしてその時の熱エネルギーが上昇流の加速に大きく寄与している.以上のことから,渦度が大きいほど積乱雲は発達すると考えることができる.また,渦解析では,XバンドMPレーダから得られるドップラー風速を用いて降水セル内の大小2つの渦の渦度を推定した.1つは2km程度の直径を持つメソγ渦,もう一つは局所的な渦であるミクロ渦である.これら2つの渦とタマゴの危険性との関連を定性的に検討したところ,メソγ渦はタマゴの探知時刻から16分ほど遅れるもののメソγ渦が存在すれば必ず地上で豪雨がもたらされていることから確実な指標として有効性が示唆された.一方ミクロ渦はタマゴの探知時刻から約6分後にその存在が確認され,早期の予知としての有効性が示唆された.また,今後は解析事例を増やしさらに検討していくとともに,タマゴの早期探知,自動追跡との融合による一連のゲリラ豪雨予報システムの構築に取り組んでいく.